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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2025.08.01

顧客創造の成果と生産性を向上させるデジタル活用 大石 和輝

デジタル活用に必要な「DXビジョン」

タナベコンサルティングでは、デジタル活用に向けたビジョンや戦略を「DXビジョン」と提唱している。DXビジョンを策定する上で、目標売上高や、ターゲット産業のシェア拡大率、新規顧客契約数アップなど、自社のビジョンや戦略にひも付いたデジタル活用の設計が必要である。策定する際のポイントは、次の3つだ。

❶ デジタル活用の在りたい姿(目指すゴール)を明確にし、言語化する
❷ ゴールと現在のギャップを洗い出す(経営視点・現場視点の両軸で見る)
❸ ゴールから逆算しロードマップを描く


多くの企業でデジタル活用が失敗する要因は、デジタル活用の成果に大きなインパクトを与える要素が、実はツールのスペックではなく「実務で活用する社員」という点にある。例えば、トップダウンで十分な説明がないまま顧客管理ツールを変更した結果、現場の反発を招き、ツールが活用されない事態に陥る企業も少なくない。

現場社員に対して、手段(デジタルツール)を理解させるのではなく、目的(DXビジョン)に共感してもらう活動こそが成功への鍵となる。デジタル活用の目的を明確にし、その目的を現場が共感する形で発信し続けることが、顧客創造におけるデジタル活用を進める上で重要である。

顧客創造におけるデジタルの活用は、効果的に活用できれば成果や生産性が向上する。しかし、活用目的が曖昧あいまいであったり、中途半端な活用レベルだったりすると、現場の生産性を低下させるリスクもある。デジタル活用はあくまで手段であり、目的にはなり得ないのだ。顧客創造でデジタルを活用するための全体像を【図表】に示す。本稿では、【図表】に沿ってデジタル活用の手法を紹介する。

【図表】顧客創造におけるデジタル導入・活用の全体像

出所 :タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

経営戦略に即したデジタルマーケティングの構築

DXビジョンを策定し、自社のデジタル活用の方向性を明確にした後は、自社の戦略や組織風土に即したデジタルマーケティングの構築が必要となる。デジタルマーケティングを構築することで、顧客創造の成果と生産性を向上させることが可能だ。

成果は何かというと、DXビジョンの基となった自社のビジョンや事業戦略の実現にほかならない。デジタルマーケティングは、ビジョンや事業戦略の実現に大きく寄与する。その理由として、「コロナ禍で買い手企業の情報収集オンライン化が加速」と「ITリテラシーが高いミレニアム世代の台頭」の2つが挙げられる。

従来の営業プロセスの多くは、買い手企業と展示会で接触し、商談で1対1の顧客創造を実施する形であった。しかし、コロナ禍で買い手企業の情報収集がオンライン化したことで、このプロセスは大きく変化している。買い手企業は、ウェブでさまざまな情報収集活動を行いながら、企業選定をオンライン上である程度進め、絞り込まれた企業が商談機会を得る構図へと変わったのだ。

営業プロセスの大半をオンラインが占めるようになり、「情報戦で先手を取る」「顧客と持続的にコミュニケーションを行う」の2点において、デジタル領域は顧客創造の重要ポイントとなっている。

ITリテラシーが高いミレニアム世代の台頭も、デジタルマーケティングの重要性を高める要因だ。ミレニアム世代が企業の決裁権を持つ機会が増えており、ある調査によると、「営業担当者ではなくネットで情報収集したい」と考えるミレニアム世代の購買担当者は約7割に上るとされている。決裁権限者自身がデジタル技術を活用した購買プロセスに抵抗感を持たず、デジタルを活用しない営業機会が減少する時代も遠くないと言える。

これら2点から、顧客創造の成果を上げるためにはデジタルマーケティングが不可欠であることは明確だ。また、デジタルマーケティングは成果だけでなく、次の2点から生産性向上にもつながる。

1点目は、顧客創造プロセスが属人化から標準化され、デジタルマーケティングという仕組み自体が24時間稼働する1人の優秀な営業パーソンの役割を担える点だ。この仕組みを定着させることで、顧客創造のノウハウが社内に蓄積され、必要時に展開することが可能となる。

具体例としては、名刺情報や顧客管理ツールを組み合わせた営業アプローチが挙げられる。一人一人の営業パーソンが培ってきた営業の情報資産をデジタルと組み合わせることでデータを可視化し、多様な目的で利活用することが可能となる。

2点目は、営業担当者の経営資源の最適化である。全ての顧客に対して対面営業を行ってきた従来のプロセスから、デジタル技術を組み合わせることで効率的な営業プロセスへ移行する。まだ製品やサービスの仕様が固まっていない、また、単なる情報収集段階の顧客に対してはデジタル上での情報発信を中心とし、ある程度の検討段階の顧客に対しては営業担当者の対面営業でアプローチすることで、営業プロセスの生産性向上を実現できる。

 

デジタルマーケティング構築のポイント

顧客創造の成果・生産性の両面で重要なデジタルマーケティングだが、どのように構築すれば良いか。デジタルマーケティングを構築するポイントは、次の3つである。

❶ デジタルマーケティングの目標指標を明確にする
デジタルマーケティングの重要性について、成果と生産性向上という視点で述べてきたが、自社の事業戦略や顧客創造スタイルの中で、どのような指標をKGI(重要目標達成指標)・KPI(重要業績評価指標)としてデジタルマーケティングで追いかけるべきかを明確にすることにより、打つべき施策が変わってくる。

❷ リアル(対面)営業活動との共存を前提条件にする
デジタルマーケティングが充実している企業でも、リアル(対面)営業がないという会社はほとんど存在しない。デジタルマーケティングは営業担当者をサポートする場であり、デジタルとリアルの融合による顧客創造モデルの構築が重要だ。例えば、リアル営業で手間のかかる業務をデジタルマーケティングで補完できれば、非常に有効な施策となる可能性が高い。

❸ スモールスタートで着手(着眼大局・着手小局)
やりたいことや課題が数多くある企業では、デジタルマーケティングの全体像を描いた上で、「小さく始める」ことが望ましい。ある企業は、営業日報を全員が記録する風土づくりから始め、徐々に現場の抵抗感を減らしながらスケールアップに努めている。

顧客創造におけるデジタル活用は、効果的な活用ができれば、成果・生産性向上のインパクトが大きい。一方で、デジタル活用が目的になってしまうと、成果や生産性がマイナスに働く可能性もある。ぜひ、自社のビジョンや戦略(=目的)に即したデジタル活用モデルで、新しい顧客創造を実現していただきたい。本稿がその一助となれば幸いである。

PROFILE
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大石 和輝
Kazuki Oishi
タナベコンサルティング マーケティングDX チーフコンサルタント
企業のブランディング・マーケティング・プロモーションなど、戦略立案から実行支援、クリエイティブ制作までワンストップの支援に携わる。特に、採用ブランディング・マーケティングを得意としている。現役大学生と連携した取り組みを推進するなど、新しい価値観とジェネレーションギャップから見た企業の採用ブランディング・プロモーション戦略策定、実装支援の実績を持つ。常にクライアントの心情を考えたコンサルティングを心掛けている。