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コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2025.07.30

顧客創造モデルを推進する営業パーソンの育成 古賀 龍人

顧客創造モデルの推進に必要な営業パーソンの能力

少子高齢化、人口減少、インフレ経済への移行、そして顧客ニーズの多様化と複雑化。これらの要因が絡み合い、企業を取り巻く市場環境は劇的に変化している。もはや、従来の顧客開拓だけでは、企業の持続的成長を実現することは難しい。

今、企業に求められているのは、既存の市場や顧客に依存するのではなく、まったく新しい顧客を創り出す「顧客創造モデル」の構築と推進である。顧客創造モデルとは、単なる新規顧客の獲得ではない。自社の顧客を再定義し、これまで存在しなかった顧客層を捉え、既存市場を含めて新たな価値を提供する一連の活動である。このモデルを成功させるためには、経営者が描く戦略を現場で実行に移す営業パーソンが不可欠だ。

営業パーソンは、顧客との接点を担い、企業の価値を伝え、顧客との関係を構築する最前線に立つ存在である。本稿では、顧客創造モデルを推進する営業パーソンに必要な能力と、その能力を身に付ける教育・研修(【図表1】)について解説する。

【図表1】営業パーソンに必要な能力を養う育成プログラム

出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

顧客創造モデルを推進する営業パーソンになるためには、従来の「売る力」だけでは不十分である。なぜなら、顧客創造とは、単に商品やサービスを売ることではなく、「顧客の潜在的なニーズを発掘し、顧客とともに新たな価値をつくり出すプロセス」だからだ。これを実現するための能力が次の3つである。

❶ 問題発見力:顧客の「気付いていない課題(インサイト)」を見抜く力
顧客創造の第一歩は、顧客自身が気付いていない課題やニーズを発見することである。営業パーソンは、顧客の業界動向や市場環境を深く理解し、顧客の現状を分析することで潜在的な問題を見抜く。

❷ 価値共創力:顧客とともに「未来」をデザインする力
問題を発見した後、それを解決するためには、顧客とともに価値をつくり上げる力が求められる。価値共創力とは、顧客の課題に対して自社の製品やサービスを単に提供するだけでなく、顧客と協力して最適な解決策を設計する能力を指す。価値共創力を持つ営業パーソンは、顧客にとって「単なる取引相手」ではなく、「ビジネスパートナー」として認識される。

❸ 適応力:変化をチャンスに変える柔軟性
市場環境や顧客ニーズは常に変化している。この変化に合わせて自らを柔軟に調整する適応力が求められる。

教育内容の体系化と標準化

営業パーソンが顧客創造モデルを推進するための能力を身に付けるには、教育・研修の実施が望ましい。【図表1】を参考に、自社に合わせた育成プログラムを検討いただきたい。また、教育内容を社内で体系化・標準化することは、顧客創造モデルを推進する営業パーソン育成の効果を最大化するために不可欠である。次の4つは、その重要性とポイントである。

❶ 教育の一貫性
教育内容を標準化することで、全ての営業パーソンが同じ基準で学び、同じスキルを習得できるようになる。これにより、顧客創造モデルの推進に必要な能力を組織全体で均一に高めることが可能となる。

❷ 効率的な教育運営
体系化された教育プログラムは、研修内容やスケジュールを明確にし、効率的な運営を可能にする。

❸ 継続的な改善
標準化した教育プログラムについて、定期的な評価やフィードバックを通じて改善することが重要である。営業パーソンの成長や市場環境の変化に合わせて教育内容を柔軟に変化させ、その時々に応じた最適なプログラムをデザインする。

❹ 組織文化としての定着
教育を体系化、標準化することで、顧客創造モデルの推進に必要なスキルや価値観を組織文化として定着させることができる。

【図表2】は、教育体系の設計スキームを示している。再現性の高い教育プログラムを設計するためには、現状の営業パーソンと理想とする営業パーソンの間に存在するギャップを正確に捉え、そのギャップを埋めるための教育内容を拡充していく必要がある。

【図表2】教育体系の設計スキーム

出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

顧客創造モデルを推進するための営業パーソンの育成は、単なる人材開発の一環ではない。それは、企業の未来を切り開くための戦略的な投資であり、経営者が果たすべき最重要課題の一つである。

経営者にとって重要なのは、営業パーソンの育成を単なる「コスト」として捉えるのではなく、「未来への投資」として位置付けることである。顧客創造モデルを推進する営業パーソンの育成は、企業の競争力を高め、市場での優位性を確立するための鍵である。特に、変化の激しい現代においては、顧客創造モデルを実現できる人材こそが、企業の成長を支える最も重要な資産となる。

最後に、顧客創造モデルを描くことは経営者の役割であり、それを現場で推進する営業パーソンを育成することもまた、経営者の責務である。描いたビジョンを実現するために、営業パーソンの育成に戦略的に取り組み、企業の未来を切り開いていただきたい。本稿が、その第一歩を踏み出すための一助となれば幸いである。

PROFILE
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古賀 龍人
Ryuto Koga
タナベコンサルティング HR&人材育成 チーフコンサルタント
製造・物流・ヘルスケアなど、幅広い業界の経営戦略策定や人事制度再構築に従事。「現場の声に寄り添ったソリューションの提供」を信条に、新入社員から経営幹部まで、幅広い階層を対象とした教育・セミナーの企画運営も数多く手掛けている。