ダイバーシティーと女性活躍
女性活躍の重要性は多くの企業で認識されており、推進に本腰を入れる企業が増えている。その背景には、日本の人口が今後減少の一途をたどる中で、これまでの経済活動を維持するためには、人口の半分を占める女性人材の活躍が欠かせないという社会的な要因があるためだ。また、働き方に対する価値観の変化により、社会でより活躍したいと願う女性が増えていることも要因の1つと言える。
しかし、企業も女性社員自身も自社での活躍を望んでいるものの、実際にどのような取り組みを推進すべきか迷う企業が多いのが現状ある。本稿では、自社に取り入れられる具体的な実践ステップを、企業事例に基づいて紹介する。
中期経営計画における女性活躍の位置付け
神奈川県横浜市に本社を構えるAOKIホールディングスは、1958年「ビジネスマンが日替わりでスーツを着られる世の中にしたい」という創業精神のもと、紳士服専門店として創業した会社である。代表的ブランド「AOKI」をはじめとしたファッション事業を軸に、エンターテイメント事業とアニヴェルセル・ブライダル事業の3事業をコア事業とし、「人々の喜びを創造する」というグループコンセプトで経営を行っている。
今でこそ多角的な事業を持つことで女性社員は増えているものの、祖業が紳士服という商品特性上、男性を主体とした組織体制、組織風土であったことが長年の課題であった。
そこで、これまでの体制・風土から脱却すべく、2021年度に「“喜び”のイノベーションで、より良い未来を」というサステナビリティビジョンを掲げた。女性活躍を含む6つのマテリアリティと目標数値を策定するなど、本格的にダイバーシティー推進の取り組みを進めてきた。2024年5月に発表した2024~2026年の中期経営計画でも、女性活躍推進に取り組む内容を盛り込んでいる。(【図表】)
【図表】AOKIホールディングスの「中期経営計画 2024-2026年度」
出所 : AOKIホールディングス「中期経営計画 2024-2026年度(2024年5月10日)」を基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
「女性活躍推進法」に従って女性活躍に関する目標を掲げる企業は多いが、同社は2つの特徴を持つ。1つ目は、掲げた目標を達成すべく「サステナビリティ推進室」という専門部署を立ち上げていること。2つ目は、管理職層の無意識的な思い込みや決めつけの刷新を目的とした「管理職向けD&I学習会」と称した教育・研修の実施である。
同社が実施した具体的な取り組みにのっとって、女性活躍を自社に根付かせるポイントを紹介する。
ステップ1 : ダイバーシティー推進のためのターゲットを絞る
まずは、どのターゲットの活躍促進を目指すのかを決めることから始める。同社では、ダイバーシティーに関するKPI(重要業績評価指標)として、「2030年度までに女性管理職比率を20%以上とする」という指標を掲げた。
ダイバーシティーの本来的な考え方には、女性のみならず、シニアや海外人材なども含んだ活躍推進が意図されている。ただし、同社は女性活躍から着手すると位置付け、ターゲットを絞っている。なぜなら、会社の価値観を変えていくには、重点・集中・徹底の観点で全社のベクトルを合わせることが必要と考えているからである。
このように、同社はダイバーシティーの観点において自社の成長をけん引するターゲットを絞り込み、そこにリソースを分配するという戦略を取った。ダイバーシティーは網羅的な施策展開になる傾向があるが、リソースの集中化で確実に効果が出せる体制整備に重きを置くことが重要である。
ステップ2 : 実行プランに基づく経営トップのコミットメント
次に、経営トップによる風土づくりを推進する。同社は、中期経営計画で掲げた目標のさらにその先を示す2030年に向けた「女性活躍推進プラン」を策定している。その中でも特徴的なのが、経営トップのコミットメントの高さである。具体的には、経営トップと女性社員との対話会の開催や経営トップへのダイバーシティー浸透勉強会の実施などが挙げられる。
どんなに素晴らしい目標や施策を掲げたとしても、女性活躍推進は経営トップの推進力がなければ実現しない。組織の上位階層から意識変革を推進しているからこそ、会社全体に本気度が伝わり、その後に展開される施策に意味を与えている。
ステップ3 : 管理職を巻き込んだ価値観浸透
最後のステップは、管理職への価値観浸透である。経営トップの価値観が変わったとしても、現場を預かる管理職が同じ目線でなければ、現場には根付かない。管理職人材が理解・納得をした上で現場への落とし込みを図るからこそ、組織は変わっていく。
そのため、同社は管理職向けD&I学習会を開催している。具体的なプログラムは、講義とワークショップの2部構成だ。第1部では、外部の有識者を招へいし、①ダイバーシティーの潮流、②女性活躍推進の意義、③女性活躍を推進する管理職の役割、についての講義を聴講する。第2部では、「女性が躍動する職場づくり」と題し、女性活躍を実現する職場づくりをテーマにした実行策を討議・発表する形式だ。
ここまではよくある教育・研修であるが、同社ではこの取り組みを一過性に終わらせない仕組みづくりをしていることがポイントだ。具体的には、事後課題として管理職個人としてフォーマットを作成・提出させるとともに、確実な実行につなげるフォローアップを実施している。
AOKIホールディングスは、ターゲットを絞り、トップのコミットメントを高め、管理職への徹底的な落とし込みを図るという3ステップで女性活躍を推進・実行している。
企業の「本気度」を示す
同社から学ぶべき最も重要なポイントは、「本気度」である。女性活躍推進が自社にとってどのような価値をもたらすのかを、短期的な視点ではなく長期的な視点で捉え、実現のために経営トップを含めた全社一丸となった体制で取り組んでいる。全社員が一枚岩となり、本気で取り組むからこそ効果が得られるのだ。
全ての企業が自社の女性活躍に対する本気度を見つめ直し、一貫性のある施策を展開するためのノウハウとして活用することを期待したい。

HR ゼネラルパートナー
ホテル運営会社で事業戦略の策定、収益改革、人材育成、業務改善などの実務全般を経験後、タナベ経営(現タナベコンサルティング)入社。人事制度の構築をはじめ、教育体系の立案や現場から幹部層を対象とした各種研修の企画など、各企業の実情を踏まえた戦略人事コンサルティングを得意とする。「人の成長なくして組織の成長なし」が信条。