米国市場における日本製品の強み
日本企業による米国市場への事業展開・拡大が年々増加している。米商務省経済分析局統計(BEA)の統計データを見ると、日本の対米国直接投資(FDI)※1の残高は、2014年の約3731億ドルから2023年には約7833億ドルまで増加しており、日本企業の米国進出・拡大の増加を示している(【図表1】)。この流れは、BtoC商材における米国市場の魅力と、日本製品の競争力の高さが背景の1つとして挙げられる。
米国は世界最大の経済大国であり、消費市場としても圧倒的な規模を誇る。特に、日用品や生活雑貨などのBtoC商材においては、日本製品の品質やデザインが高く評価されており需要は年々増加している。
一方、米国に限らず海外市場への事業展開・拡大には留意すべき点がある。本稿では、筆者の海外市場進出コンサルティングの経験から、そのポイントを紹介したい。
【図表1】日本から米国への対外直接投資(FDI)残高
出所 : 米商務省経済分析局統計(BEA)の統計データを基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
※ 四捨五入の関係上、出所の数字とは必ずしも一致しない
営業戦略に影響を与える外部環境の分析
ここではPEST分析※2などマクロ視点での分析は割愛するが、進出国・エリアをある程度特定した後は、外部環境分析として該当商材を取り巻く「日本との違い」を把握することが重要だ。
例えば、品質の高さが訴求ポイントと考える商材であっても、米国の主要消費者は「用事を済ませることができれば十分」としか考えていないことがある。これは、国ごとの文化・システムの違いが背景として挙げられる。例えば、日本では使用者個人が購入することが当たり前の製品でも、米国では会社や学校からの支給があり、その製品に対して愛着が湧かないなどのパターンだ。
消費者の購入場所についても、日本でイメージするカテゴライズと異なるケースが大半である。例えば、コンビニエンスストアはガソリンスタンド併設型が多く、給油のついでにジュースや菓子を買う場合が多い。米国の小売市場は、世界の小売市場の約4分の1を占める巨大市場である。自社の該当商材と購入場所のマッチ度を見極める必要がある。
国ごとに異なる文化やシステム、消費者の購買動機がどこにあるのかなど、日本との違いを初期の段階で明確に把握することは、その後の営業戦略にも大きな影響を与えるため、慎重に検討していただきたい。
現地パートナーとの連携で顧客との信頼関係を築く
次に重要なのは、現地パートナーとの連携である。良い商材であっても、海外での販売・営業活動に苦労する企業は多い。JETRO(日本貿易振興機構)「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(2022年2月)を見ても、日本企業の海外進出先での課題として、「販売・営業」は常に上位に挙がっている。(【図表2】)
【図表2】日本企業の海外進出先での課題(全体、業種別、複数回答)
出所 : JETRO(日本貿易振興機構)「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(2022年2月)を基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
事業展開・拡大初期のタイミングでは、日本国内で生産した製品を海外市場で販売するケースが多い。この段階において、販売・営業活動を委託できる代理店など、信頼できるパートナーとの連携が今後の売り上げに大きく関わってくる。
特に、米国では代理店のほか、セールスレップ※3の活用が重要である。セールスレップは、現地の市場に精通した営業担当者であり、顧客との信頼関係を築く上で非常に効果的だ。
少子高齢化に伴う人口減少などを背景に、日本国内市場は縮小していくだろう。このような状況により、米国に限らず、日本企業の海外市場への事業展開・拡大は今後も増加することが予想される。前述の通り、米国市場はその規模の大きさや多様性から、多くの日本企業にとって魅力的なターゲットとなっている。米国市場の魅力を最大限に生かすためには、現地の文化やシステム、商習慣など、日本との違いを理解した上での戦略的なアプローチが求められる。
本稿で紹介したポイントは、米国市場への事業展開・拡大の初期段階における一部である。タナベコンサルティンググループでは、市場調査やパートナー探索後の具体的な営業戦略、マーケティング戦略の施策・実行まで対応が可能である。クライアントのニーズに応じたオーダーメード型の支援を提供している。
タナベコンサルティングは、海外への“進出”ではなく、海外での“成功”を実現させるためのサポートを行っているため、海外への事業展開・拡大を検討している場合はぜひお問い合わせいただきたい。
※1 Foreign Direct Investment:外国の企業に対して行う長期的な投資。日本企業が海外企業に対して直接投資を行う「対外直接投資」と、海外企業が日本企業に対して直接投資を行う「対内直接投資」がある
※2 企業が外部環境を理解し、戦略的な意思決定を行う際に使うフレームワーク
※3 Sales Representativeの略。メーカーや卸売会社の営業担当者として働く社外の個人事業主、販売代理人
グローバル チーフ
国内大手IT企業にてさまざまなエンタープライズ向けのアカウントおよびソリューションセールスを担当。国際部門では米国グループ会社へ出向し、現地日系企業のITインフラのサポート・改善に従事。帰国後、米国スタートアップの日本拠点立ち上げに参画し、マーケティング・新規顧客開拓を実施。タナベコンサルティング入社後は、コンサルティングサービスの海外展開に向け、グループ各社との連携・社内プロジェクトの推進に関わる全体総括を担当。