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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2025.01.06

海外進出の一翼を担うグローバルサイトの活用 藤井 洋志

「ついでに英語サイトも」という意識が課題

今後も続いていく国内の人口減少や経済成長の鈍化、競争の激化などを背景に、新たな市場や需要を海外に求めるべく、グローバル展開に取り組む企業は増え続けている。

だが、現地法人の設立や人材の確保、海外におけるマーケティングや市場開拓は一朝一夕でできるものではなく、かつ、大きなリスクを伴うため、「何かやらなければならないのは分かっているが、何から取り組むべきか決断できない」という企業も多い。

このような状況を打破するための手段として、グローバルサイト(海外向けウェブサイト)を積極的に活用する動きが見られる。グローバルサイトの活用は比較的リスクが少なく、予算も手頃ですぐに着手できる割に、テストマーケティングの一環として海外からの反応を得ることができるのがメリットだ。

しかし、グローバルサイトの設計、運用を安易に考えると、大きな落とし穴が待っていることを企業の担当者は把握できていない。本稿では、グローバルサイトを正しく活用するためのポイントを紹介する。

以前から運用しているグローバルサイトの効果に疑問を持ち、見直しを考えているクライアントの話を聞くと、次の4つが理由として挙げられる。

❶ 日本語のウェブサイトを翻訳しただけなので、外国人に正しく情報が伝わっているか分からない
❷「外国人」というターゲットを分解できておらず、ペルソナ(具体的なユーザー像)が描けていない
❸ 情報を掲載しているだけで営業のシナリオ(ストーリー)がなく、クロージングの仕組みがない
❹ 日本語ウェブサイトの一部をダイジェストで掲載しているが、もっと活用していきたい

このような状況に陥る原因として、「日本語のウェブサイトをリニューアルするついでにグローバルサイトもつくっておこう」といった、グローバルサイトを重要視できていない意識が挙げられる。

例えば、日本語ウェブサイトを単純に直訳してしまうと、海外顧客の需要や感性が日本と異なる点の配慮が不足し、本来の情報を適切に伝えることができない。結果、会社の信用性は低下し、問い合わせや売り上げにつながらないままサイトは放置され、運用費のみを延々と浪費する。

また、「ついで」と考えてしまうのは、海外に売りたい商品やサービスが、すでに国内で一定の認知や需要があるため、「海外でも通用する」という考えに安易に結び付けてしまうことも原因として考えられる。

現状サイトの問題点を正しく把握する

初めに取り組むべきは、「現在運用しているグローバルサイトの内容がターゲットに対して適切に伝わっているか」「問題点はどこにあるのか」を正しく把握することである。

ポイントとなるのは、ターゲットとなる国や地域と同じ言語のネイティブの視点で調査・検証することだ。これは、問題点を棚卸しできるだけでなく、「現在のグローバルサイトに要したコストと品質のギャップを把握できる」「大規模なリニューアルに着手する前に、重要な問題に絞った応急処置を検討できる」「グローバルサイト以外のツールに調査・検証結果を活用できる」などのメリットがある。

グローバルサイトの調査・検証は、発信・提供している「コンテンツの品質」、どのようなユーザーからどれだけ閲覧されているかを把握する「アクセス状況」、ウェブサイトとしての「基本構造」が重要であり、これら3つに視点を絞ることで自社のウェブサイトの現状を正確に把握できる。(【図表】)

【図表】グローバルサイトの調査・検証の流れ

出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成
❶ コンテンツの品質
グローバルサイトにおいて、伝わりにくい表現や適切ではない表現が使われていないかサンプルを抽出し、評価と見直すべき具体例を挙げる。

❷ アクセス状況
ウェブサイトの流入元や回遊性、滞在時間をはじめ、ターゲットが意図した通りにサイトにアクセスしているか、コンテンツが見られているか、などを検証する。

❸ 基本構造
ドメイン・タグ・構造など、グローバルサイトとして最低限のSEO対策(検索エンジン最適化)ができているかを確認。現況の整理と対策すべきポイントを整理する。

クライアントから、「表面的なデザインをどのように見直すべきか」という質問を受けることが多い。例えば、「中国圏であれば何色が良いのか」「欧米圏であれば写真は大きくないといけないのか」といったものである。

誤解を恐れずに言うと、これらは重要ではない。なぜなら、ウェブサイトを評価する上で、「届けるべきコンテンツの内容が正確かどうか」「ウェブサイトを見に来る人が本当にいるか」、これらがウェブサイトに求める根本的な要件であり、より重要な指標であるからだ。

事実と異なる内容を発信していたり、そもそも誰も見に来ていなかったりするウェブサイトの表面だけを変えることに意味はないのだ。

構築ありきではなくまず「問題の見える化」を

グローバルサイトの構築やリニューアルは、グローバル展開に向けた手段の1つであり、海外進出やインバウンド対策のための事業設計や体制整備、戦略策定・計画などのプロセスを経て、それらを実行する際に役立てるものである。

しかし、グローバル展開に向けて最初の一歩を踏み出せない状況において、前述のようにテストマーケティングとしてグローバルサイトを見直すことは、結果として事業の方針をスピーディーに決断することに寄与する。

ジェイスリーでは、これまで行政や自治体のグローバルサイトの活用・構築支援の実績とノウハウ、外国人ネイティブのネットワークを生かし、グローバルサイトの構築をすぐ実行に移すのではなく、まず「問題の見える化」から取り組むことを推奨している。

本稿で紹介したグローバルサイトの調査・検証に特化した支援も可能であるため、現状のグローバルサイトに課題を感じている方はぜひご相談いただきたい。

PROFILE
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藤井 洋志
HIROSHI FUJII
ジェイスリー(タナベコンサルティンググループ)
マネージャー プロデューサー
大学卒業後、システムエンジニアを経験し、2006年にジェイスリー入社。ディレクターとして、ウェブサイトやコーポレートツールなどの企画・設計から、取材、ライティングまで幅広い業務に携わる。担当クライアントは、観光・保険・商社・交通・住宅・ホテル・IT・ 機械・飲食など多岐にわたる。また、JNTO(日本政府観光局)など、自治体・企業のインバウンドコンテンツやプロモーションも手掛ける。現在は、事業部のマネジメントを行いながら、企業ブランディングを主体としたコンサルティングを行っている。