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コンサルティングメソッド

コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2024.05.01

戦略なきDXは成功しない

武政 大貴

DX戦略推進に当たり押さえておくべき5つのポイント

 

これからDX戦略を策定する企業は、次の5つのポイントを踏まえ、可能であれば5つの障壁をクリアしておくとスムーズになる(【図表1】)。すでにDX戦略を策定している企業も、ポイントを外していないか、取り除くべき障壁に直面していないかをトップ主導で確認してみると良いだろう。

 

【図表1】DX戦略の体系
【図表1】DX戦略の体系
出所 : 奥村格・武政大貴著「DX戦略の成功メソッド」(ダイヤモンド社、2023年)よりタナベコンサルティング作成

 

〈 ポイント 1 〉DXの「導入価値」を知る
DX戦略構築前に押さえておくべきポイントは、「DXで何ができるのか」、すなわちDXの導入価値を知ることである。「この仕組みをデジタル化すると、こんなメリットがある」という、導入後の効果を測定しておくことが必要だ。一口にDXといっても、どの経営領域で活用するのか、現状どの程度DXが進んでいるのかによって得られる効果は大きく変わるからである。

 

まずは、領域ごとにDXで何ができるのか。効率化、省人化、利便性の向上といった直接的価値を把握しておくことが必要だ。TCGでは、そのレベルを5つの領域で整理している(【図表2】)。

 

 

【図表2】DXレベル判定表
【図表2】DXレベル判定表
出所 : 奥村格・武政大貴著「DX戦略の成功メソッド」(ダイヤモンド社、2023年)よりタナベコンサルティング作成

 

 

〈 ポイント 2 〉導入価値の「先」に得られる付加価値を可視化する
次に、その「先」に何を得られる(得たい)のかを明確にすることである。例えば、ウェブ会議システムを導入する企業の場合、「テレワークに利用できる」「社内に不在の社員も会議に参加できる」など用途だけ見ると、「社員の通勤時間が減って、楽に仕事ができる」「会議日程の調整がしやすくなる」といった表面的なメリットしか享受できない。

 

企業によっては「そんなことのためにお金は使えない」と投資をやめてしまうかもしれない。だが本当に大切なことは、それらのメリットを活用して、何を得るかである。

 

一方で、デジタル化により失われる機能をどのようにカバーするかという視点も必要である。例えば、ウェブ会議システム導入により社員同士の雑談の機会が減った場合、「無駄話が減り、生産性が高まった」と捉えることもできるが、「コミュニケーションの欠如による人間関係の希薄化」というマイナスも大きい。

 

このように、デジタル化による「メリットの価値転嫁」については、多くの企業が持つ観点だが、「失われる機能」への視点は欠落しがちで、導入前から対策している企業はまれである。失われる機能をどのようにカバーしていくのかまで検討しておくことが、実装後のスムーズな運用につながる。

 

〈 ポイント 3 〉DXの目的を明確化する
次は「DXによって何を目指すのか」を検討する。つまり、DXビジョンの策定である。特に、DX実装プロセスの粒度が細かくなると、作業が細分化されて個々の現場では目的が見えづらくなる。そこをきちんと理解してもらうためにも、DXビジョンを正しく設計することが肝要だ。

 

DXの実装で核になるのは、「なぜ、デジタル化しなければならないのか」「デジタル化を進めて自分たちがどのようになるのか」という未来に向けた問いに答えられる「ビジョン」である。DXビジョンが中核にあることで、全ての取り組みや行動に共通する一貫した意図が伝わり、賛同・協力を得ることができる。

 

DXはあくまで「手段」であるため、策定のポイントは「自社の経営ビジョンに沿っているか」、そして「経営者の意思と覚悟が反映されているか」である。経営戦略やビジネスモデルをデジタルありきで見直し、「企業文化をも変え得る大改革を自社が目指す」という意思を、DXビジョンに吹き込むことが重要である。

 

〈 ポイント 4 〉DXにおける自社の現在地を認識する
DXビジョンにより「自社の目指すべき姿」が描けたら、その先はDX戦略、各施策へ展開していく。この段階で、目指すべきDXレベルと自社の現在地との「差」を正しく把握することが求められる。

 

まずは、領域ごとに現状のDXレベルを正しく認識する。そして、目標との差を理解した上で投資していく。これにより、DX初心者であっても各段階で確かな成長を実感でき、DXの恩恵を体感しながら次のステップへチャレンジできるようになる。

 

レベルを把握する物差しは、デジタル実装度だけではない。導入後の成果は、企業のカルチャーやビジネスモデル、人材バランスにも左右される。新しいシステムやツールの本格稼働がゴールではない。

 

DX再構築前に、事業構造、組織体制、意思決定構造、そして現在稼働中のシステムやパートナー企業の戦略の実情も、あらためて押さえておく必要がある。

 

〈 ポイント 5 〉デジタル技術の活用を通じて自己変革力を高める
自己変革力を高めるポイントは、ボトムアップでの改革推進である。経営層などの限られたメンバーのみで情報収集を行っていては、増え続ける情報量に追い付けないからだ。

 

さらに、全社員のデジタルリテラシー向上と、風通しの良い組織風土の醸成も忘れてはならない。生産性向上のためのデジタルツールに関する情報収集能力は、全社員が意識的にアンテナを張れば向上する。しかし、それが現場の改善につながらなければ意味がない。

 

また、現場から改善提案があったとしても、全社最適な意思決定ができなければ効果は弱まる。全員が感度を高く保ち、提案が活発に行われる組織風土があって初めて変革が起きるのだ。

 

 

PROFILE
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武政 大貴
Hirotaka Takemasa
タナベコンサルティング マネジメントDX 執行役員
財務省で金融機関の監督業務や法人企業統計の集計業務などを担当後、企業経営に参画した後タナベコンサルティングに入社。実行力ある企業(自律型組織)構築を研究テーマとして、見える化手法を活用した生産性改革を中心に、大手から中堅・中小企業を対象にコンサルティングを実施。生産性の改善を前提に、DXビジョン、IT構想化、ERP導入支援およびSDGs実装支援など世の中の潮流に合わせたコンサルティングメソッドを研究開発し、実行力ある企業づくりで高い評価を得ている。著書に「DX戦略の成功メソッド」「真の『見える化』が生産性を変える」(共にダイヤモンド社)がある。