メインビジュアルの画像
コンサルティングメソッド

コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2023.11.01

パーパスを起点に新たな価値を創造するバリューチェーンの革新とは?

高島 健二

事例2 アダストリア:マルチバリューチェーン

 

❷の事例としては、アダストリア(東京都渋谷区)がある。同社は、家業の紳士服小売店から、2010年にカジュアル衣料品・雑貨のSPA(製造小売業)チェーンモデルへ転換した東証プライム上場企業である。パーパスの「Play fashion!」に基づいてマルチブランド化を推進し、「グローバルワーク」「ニコアンド」「ローリーズファーム」などを中心に1435店舗(連結合計、2023年2月末時点、海外95店舗を含む)を展開している。

 

同社が秀逸なのは、他社のブランド商品に頼ったビジネスモデルから脱し、自ら企画・生産・販売まで手掛けることでバリューチェーンを大きく変革したこと。さらに、アパレルの他に飲食・ビューティーコスメ・健康・アウトドア・家具・雑貨などへ進出し、マルチカテゴリー化を図ったことだ(【図表4】)。顧客・店舗・トレンドの情報が早く、正確に企画や経営判断に反映されるのが、このバリューチェーンの強みである。

 

【図表4】アダストリアのマルチバリューチェーン 
アダストリアのマルチバリューチェーン
出所 : アダストリア「2023年2月期~2026年2月期 中期経営計画 グッドコミュニティの共創をめざして」(2022年4月13日)よりタナベコンサルティング作成

 

DXに対する投資も大きく、2014年にはウェブストア「.st(ドットエスティ)」をオープン。会員数約1550万人、国内EC売上高626億円(2023年2月期)、国内のEC売上構成比28.7%(同)に達している。

 

こうした多ブランド・多カテゴリー・多チャネル化により、同社の営業利益率は4.7%に達し、2026年2月期には同8%を見込む。現在、流通業界では大手でも営業利益率1〜2%台がやっとである中、アダストリアの好調ぶりがうかがえる。まさにコアバリューを軸とした、異業種参入の良き実例であろう。

 

 

事例3 小野建:バリューチェーントランスフォーメーション

 

❸の事例としては、東証プライム上場の鋼材・建材専門商社である小野建(福岡県北九州市)が挙げられる。同社は1926年に大分県大分市で金物商として創業し、戦後の1949年にセメント・金物、土木建築資材販売を目的とした小野建材社を設立した。現在は「存在感のある会社」を経営理念に、2500社を超える仕入れ先と8000社以上の販売先を持ち、物流センターを活用したスーパーマーケット型の事業を展開する、業界では類を見ない存在である。

 

同社が何よりも大切にしているのが「存在感」。パーパスも「存在力こそ、原点。『鉄と建材のプロ』として、お客様、さらには業界にとって、必要とされ続ける企業を目指します」「お客様にとって、また仕入先様にとっても置き換えのきかない『存在感のある企業』であり続ける」を掲げている。

 

これに基づいてバリューチェーンを組み替えた同社は、「鋼材30万トン(数百億円分)の在庫を維持する“逆張り経営”」「全国の大型ストックヤードからの多品種・小ロット・即納」を推進。顧客にとって今までにない新しい価値を提供し、営業利益率3.7%、総資本事業利益率(ROA)5.5%を実現している(連結、2023年3月期)。

 

同社は全拠点合わせて30万トン以上、金額換算で数百億円に上る大量の鋼材を常に在庫している。国際相場商品である鉄を全国の大型ストックヤードに保有し、市況に応じて世界で最も安い鋼材を調達することもできる。

 

また全国各地に物流センターを持ち、「多品種・小ロット・即納」での納入が可能だ。さらに、鉄鋼商品を素材のまま販売するだけではなく、ユーザーの要望に応じた1 次・2 次加工や、鉄骨、屋根、外壁、サッシ、杭打ちなどの請負工事まで行う。

 

つまり同社は、素材から加工・施工まで何でもそろう「ショッピングモール」型であり、かつ大量の在庫を持ち大口小口にかかわらず販売できる「スーパーマーケット」型であり、さらに多品種少量の高効率納品を行う「コンビニエンスストア」型の在庫販売を行うという、業界で唯一無二といえるバリューチェーンを有している。

 

日本企業が取るべき経営戦略の肝となるのが、シン・バリューチェーン戦略である。パーパスをデザインコンセプトとし、自社なりのバリューチェーン革新を推進していただきたい。

PROFILE
著者画像
高島 健二
Kenji Takashima
タナベコンサルティング 上席執行役員
成長戦略におけるビジネスモデルの再構築、事業戦略・経営戦略まで幅広い知見を有するトップコンサルタント。ドメイン(事業領域)とファンクション(機能)を融合させて課題解決を支援する、企業変革のプロフェッショナルとして高い評価を得ている。マーケティングDX・SDGs・新規事業開発の領域など、多岐にわたるクライアントのプロジェクトを手掛ける。