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コンサルティング メソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティング メソッド 2023.09.01

組織デザインで事業戦略を推進する 土井 大輔

 
生産性を高める4つのアプローチ
  タナベコンサルティングが2022年12月に実施したアンケート調査によると、「現在の中期経営計画の策定における課題」について、「目標数値を掲げているが具体的な戦略が不足している」という回答が54.4%、「計画・ビジョンを定めているが推進できていない」が34.4%を占めた。また、「経営戦略における来期の取り組むべき課題」として第1位が「経営企画・経営戦略立案機能の強化」で49.4%、2位が「戦略的組織再編」で47.0%となった。   ここから、多くの企業において中期経営計画で掲げる目標達成のための戦略や推進力が不足していること、中でも経営企画・戦略立案機能や、戦略的な組織再編について悩みを抱えている実態がうかがえる。   また、タナベコンサルティングが提唱する経営の原理原則の1つに1T4Mがある。Technology(固有技術)×Market(市場)が事業であり、事業の推進にはMan(人材)、Money(資本・財務)、Management(マネジメント)の3M(=経営)の整合が必要である。これらの要素の整合がミスマッチだと、どれだけ事業戦略が明確・正確でも事業は伸びないのである。   では一体、どのような組織・役割、制度・仕組みに変化すれば、高い生産性の下で適切な事業推進が行われ、掲げているビジョンや中期経営計画が達成可能となるのか。本稿ではその方法とポイントを解説する。   米国の社会心理学者、I.D.スタイナーによると、組織開発における生産性の定義は「実際の生産性=潜在的な生産性-欠損プロセスに起因するロス」とされている。   例えば、3人のチームがそれぞれ潜在的な生産性として40、60、50 を有しており、チーム全体として換算すると150だったとする。実際の生産性として、それぞれ30、50、40を発揮した場合、合計120となり、欠損プロセスに起因するロスはマイナス30といえる。このロスを限りなくゼロに近づけることが、生産性を高めることである。   ここで、欠損プロセスに起因するロスを減らし、生産性を高める4つのアプローチを紹介する。(【図表1】)  
【図表1】欠損プロセスを減少させる4つのアプローチ
【図表1】欠損プロセスを減少させる4つのアプローチ 出所 : タナベコンサルティング作成   1つ目は「人事領域」。評価・賃金制度・採用基準と採用手順の見直し、キャリアステップの明確化、人材育成体系の再構築である。   2つ目は「オペレーション(業務改善)領域」。業務フローの見える化・改善、原価マネジメント、営業活動のデジタルシフト、ERP(統合基幹業務システム)・BI(データ分析ツール)・RPA(デスクワークの自動化技術)の導入と活用などである。   3つ目は「マネジメント(管理・仕組み)領域」。各種会議の内容・資料の見直し、KPI(重要業績評価指標)の見直し・再設定、グループ経営の場合はシェアードサービス機能の見直しなどである。   4つ目は「組織戦略領域」。事業戦略を推進するための重要課題と不足している機能の明示、間接部門を企画化・ミドルオフィス化する組織再編、ブランドマネジャーの設定など、組織における資源再配分の経営判断が必要な領域である。  
組織図と役割分担が生産性を決める
  組織には3つの基本パターンがある。機能別組織、事業部制組織、マトリクス組織である。ここで注目したいのは、組織の形態や特徴ではなく、過去の組織図も含めて振り返ったときに、「事業戦略が〇〇であるので組織をこのようにした。このときの重点課題は△△なので、それを解決するために組織・役割をこのようにした」と言えるかどうかである。   当然、過去だけではなく現在の組織図にも理由があるはずだ。経営者・トップは、組織づくりにおいて、まず意志として先に箱(組織図上の部門)をつくるべきである。担当者や推進者がいなくても部門・組織図を先につくることで、会社としてどのように推進しようと考えているのか意思が伝わり、体制や人材の過不足も明確になる。ぜひ、ビジョンが実現したときの組織図を作成し、社内へ発信・共有してもらいたい。   この組織図に加えて、生産性を高めるために、地味ながらも非常に重要なことが「役割分担」である。役割分担は、「垂直分業」「水平分業」に大別される。   垂直分業とは「戦略策定・構築」「業務遂行」という分け方である。これは組織のレイヤー(層)と密接な関係があり、レイヤー責任者がどの範囲の戦略策定とその推進責任を負うのか、業務遂行レベルでやらない範囲を明確にすることが重要である。よく「プレイングマネジャー」というが、「プレイング」の範囲とレベルが部下と同じではいけない。   次に水平分業である。水平分業にはフルプロセス分業とパートプロセス分業がある。業務遂行の範囲において、各自が案件を一貫して対応する分業(フルプロセス分業)と、案件のプロセスを専属分業するパターン(パートプロセス分業)である。   これまでは、「業務プロセスの1から10まで幅広く対応できる=一人前(フルプロセス人材)」という価値観が強かった。しかし昨今、多くの企業でフルプロセス人材のノウハウやスキルの継承が課題となっている。フルプロセス人材の育成は難しいため、パートプロセスにより生産性を高める傾向も強い。なお、パートプロセスにおける課題は、プロセスがつながって成果となるため「最も低い潜在生産性に依拠する」ことと、業務内容が部分になるので「全体最適ではなく部分最適になりやすい」ことである。   フルプロセスとパートプロセスは、組織のレベルによって配分が変わる。   生産性を高めるためには組織を見直し、業務(役割分担)を見直し、さらに管理体制や評価制度も合わせて見直す必要がある。単に研修に派遣することが人材育成ではない。戦略構築する人材〇名(〇%)の育成、自社オリジナルの動画コンテンツなどを生かしたフルプロセス人材の継承、パートプロセス人材の早期育成などに取り組むことによって、ビジョンと事業戦略、組織デザイン、各施策の整合が取れることになる。  
間接部門を企画化し、ミドルオフィスをつくる
  貴社においても「従業員1人当たりの生産性目標」を設定していることだろう。【図表2】は、組織構造から見た生産性の目標設定を算出する計算式である。全社もしくは各事業部単位で算出していただきたい。  
【図表2】生産性目標設定に関する計算式
【図表2】生産性目標設定に関する計算式 出所 : タナベコンサルティング作成   今後、人件費や福利厚生費を「未来投資」と捉えて増やしていく企業が増えるだろう。そのためには直接人員比率を高めなければ、「ライン部門に負荷を上乗せするだけ」になってしまう。重要なのは、1人当たりの付加価値額を高めることである。   過去には直接人員(フロント機能)と間接人員(バックオフィス機能)の2区分の考え方が多かったが、現在の主流はフロント/ミドル/バックオフィスの3区分である。呼称は企業によって違うが、ミドルオフィス機能を強化する企業は増えており、タナベコンサルティングとしても推奨している。特に建設業、物流業、デザイン、設計、企画、サービス業など、人材のスキルと数が業績に直結する事業においては必須と考える。   ミドルオフィスには、フロント機能が行っている業務を分解し、フロント機能がやらなければならない業務のみを残して、他を移管することが望ましい(【図表3】)。can(できる)、should(すべきである)ではなく、「must(しなければならない、価値発揮)のみを残す」という発想と風土を醸成する必要がある。   それと並行して、バックオフィス運営においては業務の標準化・簡素化・DX化を行う必要がある。具体的にはミドルオフィス1人に対し、直接人員0.5人分とカウントできるようにすることで、全体の直接人員比率が高まる。  
【図表3】間接部門のミドルオフィス化
【図表3】間接部門のミドルオフィス化 出所 : タナベコンサルティング作成   ※ タナベコンサルティング「2023年度企業経営に関するアンケート」(2022年12月実施)   ここで、ミドルオフィスを組成しても生産性が高まらない3つの失敗例を見ていこう。ミドルオフィスを組成する際の参考になれば幸いである。   ❶ 雑用担当になっている 雑用のつもりがないことは承知しているが、初めての人に口頭で伝えるだけで対応できる仕事しか依頼していない場合、生産性は高まっていない。   ❷ ミッション・ビジョン、情報の共有ができていない ミドルオフィスメンバーに作業・手法だけを伝えるのではなく、ビジョン・中期経営計画・年度方針をしっかりと共有することが重要である。また、状況に応じて優先度が変わることも理解してもらう必要がある。こうしたコミュニケーションがない状態で作業変更の依頼があると、後ろ向きな発言や行動が生まれやすくなる。   ❸ 位置付けが高まらない 人員の配置、採用、名称、会議出席と役割など、それぞれにおいてフロントよりミドルオフィスを“下に見る”ような組織では、ミドルオフィスのレベルや能力が高まっていくことはない。配置(異動)においても、「フロント機能ができないから異動する」のではなく、「特性に合わせて異動する」ことが重要だ。   採用においても、ミドルオフィス機能として募集要項で採用するようにしたい。名称も事務ではなくアシスタント、サポートなどの名称とし、名刺を持たせ、組織図にも明記する。パート社員や契約社員とは異なる位置付けであり、その役割を明確にする必要がある。
間接部門のミドルオフィス化とKPI
  間接部門と呼ばれる作業型組織を企画化することで、生産性を向上できる。以降、間接部門に関する新しい役割(組織形態)を紹介する。   管理部(旧組織) → コーポレート戦略本部(新組織) 人事部や総務部を強化・レベルアップし、全社をグリップすることがコーポレート戦略本部の在るべき姿である。具体的には、未来戦略構築・推進機能として位置付け、強化する。各本部を連携させることで、受け身の管理ではなくライン部門をコントロールする機能にする。   人事部 → HR本部 働きがいや使命感の醸成、専門人財の強化、全社員活躍は、どの企業にとっても必要である。そこで、KPIとして「採用人数」ではなく「定着年数」「入社後の昇進・昇格スピード」「専門人財・組織の多様化指数」などを設定し、目標達成を目指すことが、直接部門の後押しにつながる。   経理部 → 財務戦略本部 バランス・シート計画、M&Aの推進、グループマネジメントの構築など、結果数値をまとめるのではなく、「未来の財務」に向けた企画を行う。   総務部 → 総務企画本部 健康経営やダイバーシティー・エクイティー&インクルージョン(DE&I)、オフィス環境の向上を提案し、採用や定着の向上につながる制度や取り組みを推進する。   情報室(電算室) → デジタル戦略部 デジタルを活用して業務の効率化と顧客価値の拡大を実現する。CRM(顧客関係管理)・BI・MA(マーケティング・オートメーション)・RPAなどを活用して、ビジネスモデル刷新と「働き方改革」などをKPIとして設ける。   営業事務 → CRMサポート 休眠顧客の掘り起こし、既存顧客へのシェアアップ、新規顧客との接点づくりをサポートし、顧客数とリピート率を向上させる。   企画室 → 経営企画部 社内情報のリアルタイム共有、社外向けステークホルダーへの発信と自社の価値向上、社内向けエンゲージメント向上策を推進する。   営業企画 → ラボ(研究所) 自社のナレッジを蓄積し高めていく。競合他社・ベンチマークとの比較・研究を行う。   以降ではHR本部のミドルオフィス化に有効なKPIについて、いくつか紹介したい。   組織変革KPI 総人件費、労働分配率、中長期人員計画、人的資本ROI(投資収益率)、労働生産性   ジョブ変革KPI プロフェッショナル人材数、プロフェッショナル人材の充足率、ラインポストの充足率、中途採用比率、社外取締役比率、平均年収、男女間の給与の差   DE&I KPI 属性別の社員・経営層の比率(女性役員・管理職比率)、外国人技術者比率、内部異動数、新卒・キャリア比率、男性育児休業取得率、出産・育児休暇後復職率   採用におけるKPI プロフェッショナル人材採用数、1人当たり採用コスト、採用計画達成率、各採用フローにおける達成率(母集団形成率、書類選考通過率、面接通過率、内定率など)   育成におけるKPI リーダー育成人数、社員1人当たりの研修平均時間、年間教育予算、テーマ別研修受講人数、階層別研修受講人数、定着率   後継者育成におけるKPI 等級別プール人材数、等級別候補者割合、後継者カバー率、後継者準備率、後継者有効率   競争が激化し、価値創造がこれまで以上に求められる中、間接部門という発想は今後、次第になくなると筆者は考える。全ての機能や役割が、価値発揮の役割・目標を設定することで「直接部門化」するだろう。   本稿では、生産性を高める組織デザインについて紹介してきた。貴社においても、ビジョン実現と価値創造を見据えた上で、戦略的な組織デザインに取り組んでいただきたい。  
PROFILE
著者画像
土井 大輔
Daisuke Doi
タナベコンサルティング ストラテジー&ドメイン 執行役員。大手システム機器商社を経てタナベコンサルティングに入社。2016年より“物流が世の中を支えている”と物流経営研究会を立ち上げ、物流業のサステナブルモデルを開発。荷主側の経営課題を把握した上で物流会社の事業戦略構築を得意とする。また、製造・卸売・小売・サービス・建設業の経営支援も数多く手掛け、熱意あふれるクライアントファーストの姿勢でのコンサルティング展開で多くのファンを持つ。