その他 2023.09.01

高収益企業に見る組織デザインの要諦 名倉 克明

 

事業戦略と組織デザイン

 

組織デザインとは、長期ビジョンや中期経営計画の実現に必要な事業戦略を効率的に推進できる組織構造をつくることである。「組織開発」という名称も昨今注目を集めているが、組織開発とは「組織で働く人と人との関係性を深め、組織を活性化させる取り組みや支援を行うこと」であり、主に「人材」にフォーカスした取り組みが多いため、事業戦略の推進に十分とはいえない。

 

もちろん、現在の採用難や従業員の高齢化に伴う人材不足を踏まえ、採用強化や離職防止などの対策を講じることは必要不可欠である。

 

しかし、「収益性」という視点からみると、人員数の維持・拡大は売上高には直結するものの、企業生産性の向上にはなかなか直結しない。企業は人材で成り立っており、人材にフォーカスした取り組みは必要だが、事業戦略を推進し、収益力および企業生産性を高める視点では、組織機能に役割を付与することが重要だ。そのため、ビジョン・中期経営計画を実現する事業戦略の策定と、事業に連動した組織デザインが必要となる。

 

組織には、大きく①機能別組織、②事業部制組織、③マトリクス組織の3種がある(【図表1、2、3】、ホールディングスによるグループ経営やカンパニー体制は除く)。それぞれメリット・デメリットがあるので、ビジョン・中期経営計画を実現するために必要な組織を計画的にデザインし、事業規模や従業員数の拡大と連動させて、組織を成長させていく必要がある。

 

【図表1】機能別組織、事業部制組織、マトリクス組織の例
出所 : タナベコンサルティング作成

 

❶ 機能別組織

メリットは、「必要な組織機能の役割と、個人の業務分掌が明確になる」「機能別のノウハウを集約しやすく、各機能の知識やスキルの開発が促進される」「スペシャリストの輩出、技術承継が円滑にできる」ことである。

 

一方、デメリットとして「セクショナリズムや部門間対立が発生しやすい」「部門最適に陥ってしまった場合、イノベーションが起きにくくなる」「調整機能や業績責任がトップに集中する」ことが挙げられる。

 

業績が拡大すればするほど、事業責任者に権限が集中し、後継者の輩出が困難になる。機能別責任者の輩出と事業責任者の輩出では、育成方法が全く異なるため、長期での後継計画を策定しなければいけない。また、部門間連携を強化するため、業績に基づいたレイヤー別の共有会議や対策会議を行い、部門内で対策を推進する必要がある。

 

❷ 事業部制組織

メリットは、「(固有技術由来ではなく)マーケット志向の運営が可能となり、顧客ニーズへ柔軟に対応できる」「機能別組織のデメリットである部門間連携の問題が軽減される」「事業部ごとの業績責任が明確になり、部門経営者が育ちやすい」などである。

 

特に、エリア展開による成長を目指す企業に適した組織となる。事業部単位の例としては、商品別やブランド別・エリア別などがある。事業部長は“一企業の社長”に類似した位置付けとなるため、事業部制組織は機能別組織よりも後継者の輩出がスムーズになる。ビジョンの中で分社化を構想している企業は、必ずしも事業部制組織に変える必要はないが、事業責任者を輩出する観点では、事業部組織から分社化した方がスムーズといえる。

 

一方、デメリットとしては、「各事業部の機能が重複し、組織が肥大化する可能性がある」「事業部間のコミュニケーションが減少し、全社視点が希薄化する」「各事業部が同じような開発を行うなど無駄が発生する可能性がある」ことである。

 

全社視点が希薄化する過程で、利益貢献度が最も高い事業部の意見が強くなるケースもある。そのため、「事業部長に全社最適の視点を持たせる」「経営システムとして、事業部長の決裁権限・業務分掌・評価と分配のバランスを取る」ことも重要となる。

 

❸ マトリクス組織

メリットは、「機能別組織(縦)と事業別制組織(横)など、複数の組織を組み合わせた網の目構造となり、機能別組織と事業部制組織のデメリットを補完できる」ことである。一方、デメリットは「縦軸(機能)と横軸(事業部・プロジェクト)の意見が対立する可能性がある」「ツーボス( 1 人の担当者が2 人の上司から指示を受けること)による混乱が起きやすい」ことである。ツーボスによる混乱を防ぐために、明確な個人別KPI(重要業績評価指標)の設定、定期的な進捗管理や見える化(ダッシュボードマネジメント)が重要となる。

 

機能強化による高収益を実現

 

前述の3組織のうち、機能別組織、マトリクス組織で高収益を実現している企業事例を紹介したい。

 

機能別組織:開発機能強化による高収益体制

機能別組織を採用する建設業A社は、自社内での継続的な工法開発や改善により、安定的な売上総利益(粗利益)計上を実現。売上総利益率は30%を超える。

 

同社では「工法開発を極める」というビジョン実現に向け、少数精鋭の技術者で技術開発部を組成。重点施策およびKPIとして“自社施工比率”を設定することで、外注比率に一定の基準を設け、社員一人一人のノウハウを組織に蓄積し続けている。

 

結果として社員のスキルと、1人当たり生産性が高まり、企業生産性が向上。利益を社員の採用や育成へ継続的に投資し、企業成長における善循環を生み出している。

 

マトリクス組織:横串機能強化による高収益体制

エリア展開により複数の支店を持つB社は、事業統括責任者として各支店に支店長を配置。全社横断の横串部門を組織デザインし、支店の配下にある営業・製造・調達・管理・サポートの5部門を、横串部門がそれぞれサポートしている。これにより、直接売上高および利益に関わる支店内の部門が、横串部門による全社管理および成果標準化のためのサポートを受けることができ、全社の収益性が向上している。

 

この2社の事例のように、独自の組織デザインや機能強化により、高収益を実現できる。収益力および企業生産性を高め、ビジョンを実現するための組織デザインについて、貴社でも今一度、検討いただきたい。

PROFILE
著者画像
名倉 克明
Katuaki Nagura
タナベコンサルティング ストラテジー&ドメイン ゼネラルマネジャー。教育業界で統括業務、事業戦略の立案・推進担当役員を経て、タナベコンサルティングに入社。中長期経営ビジョン策定・組織開発・人材育成を強みとし、経営計画立案と推進を支援する。多くのクライアントの業績を改善してきた経験を持つ。