ステップ1:ブランドバリュー分析
このプロセスのポイントは、自ブランドの現在保有するブランドバリュー(付加価値要素)を明確にすることである。自ブランドの強みと現状を正しく認識するため、どのようなブランド価値を提供するかを検討する前に、ブランドの現状を整理する。なお、新規ブランドを検討する場合は、ブランドの母体となる企業の分析を行う。
① ブランドポジション
自ブランドの対外的・相対的な位置付けである。自ブランドと競合ブランドを、提供価値基準に基づき整理することで、自ブランドが顧客に提供する付加価値の要素を明確化する。
② ブランドコアコンピタンス
自ブランドの付加価値を生み出す、他社にまねできない核となる能力(強み)である。バリューチェーンマッピングなどにより整理することで、付加価値の要素を明確化する。
③ ブランディングプロセス
自ブランドの付加価値を生み出す、具体的な企業活動や仕組みである。具体的な活動を整理することで、付加価値が生まれるプロセスを明確化する。
ステップ2:ブランドキュレーション
このプロセスのポイントは、棚卸ししたブランドバリューを基に、自ブランドが提供したい顧客にとっての価値を絞り込むことである。絞り込みができていないブランド価値を設定した場合、理想が高くなりがちで、机上の空論となり、実現性が低くなる。自ブランドが顧客に提供したい価値は何か、どのような存在でありたいかを具体化すべきである。
① ブランドベネフィット
自ブランドが約束する顧客に対しての提供付加価値である。これを考えるときには、ブランドバリューの棚卸しで整理した自ブランドが現在持つ価値を、“顧客に約束する価値=利益”という視点で昇華させる。顧客にとっての提供価値・利益のうち、どの要素を重点に置くかが重要である。また、“自社・自ブランドらしい提供価値”という独自性の視点でキュレーションを行うことも重要である。
② ブランドターゲット
ブランドベネフィットを最も求めている(最も提供したい)ターゲットは誰かを定める。つまり、自ブランドが対象とするターゲットはどのような顧客なのかという視点で考えることである。一般的には、マーケティングにおけるセグメンテーション(地理的・人口動態・心理的)の考え方で設定すると良い。また、このブランドターゲットを具体化するプロセスを通して、ブランドベフィットをさらに洗練化・具体化することができる。
③ ブランドパーソナリティー
自ブランドを人間に例え、疑似的な人格(パーソナリティー)を設定することである。これにより、ブランド価値の具体的なイメージを確認すると同時に、ブランドベネフィット、ブランドターゲットに対するキュレーションの方向性を確認できる。特に、プロジェクトなど複数のメンバーでブランドを検討する際には、このプロセスで議論を深めることで、ブランドビジョン策定以降の考えの基礎となるブランドに対しての捉え方を統一できる。
ステップ3:ブランドビジョン策定
ステップ1・ステップ2での検討内容を基に、ブランドビジョンを策定する。構成要素は、①ブランドの目指すべき姿(定性・定量目標)、②ブランドコンセプト(ブランドの目指す世界観)、③ブランド価値創造ストーリーなどである。
この際に考える「価値創造ストーリー(ブランドストーリー)」とは、ブランドビジョンを実現するための自ブランドの考え方を物語としてまとめたものである。一般的には、自ブランドのブランドにまつわる歴史、社会との関わり、創業者の思い、製品のこだわりなどを、物語として長文でまとめる。ストーリー形式でまとめることで、ブランドビジョンの具体的なイメージを社内外に認知させやすくなる。
ステップ4:ブランドデザイン
ステップ4からは、ブランドビジョンを実現するための要素を具体化していく。まずは、大きなブランドの方向性を定めるためにブランドを「デザイン」する。
このプロセスでは、一般的な“デザイン”としてイメージされるブランドアイデンティティー(ネーミング・ロゴ・タグラインなど)だけではなく、ブランドビジョンを実現するためのブランドビジネスモデルも見直すべきである。既存のビジネスモデルではブランドコンセプトやブランドビジョンを実現できない場合が多くあるからだ。
この段階で、企業としてのビジネスモデルやブランドの事業戦略を見直し、ブランド価値を最大化するためのビジネスモデルと戦略を再設計すべきである。
ステップ5:ブランディングプロセス設計
このプロセスでは、ブランドビジョンを実現するためのブランドの骨格を設計する。(【図表2】)
【図表2】ブランディングプロセス設計
①顧客に提供を約束する差別化された具体的な付加価値であるブランドプロミスバリュー、②ブランドプロミスバリューを生み出すための対外的・対内的企業活動、③顧客が自ブランドを感じる主な接点。いつ・どこで・どのように・どの程度の頻度でコアタッチポイント(顧客接点)を持つかを考える、④ブランドイメージを築き上げるための、顧客とのコミュニケーション方法、⑤顧客が正しくブランドプロミスバリューを感じ、正しいブランドイメージを持つための、ブランドの品質管理・マネジメント方法などである。
一般的には、ブランドコンセプトやブランドビジョンが定まった段階で、後述のインナー・アウターブランディング活動に移行することが多い。その際にブランド価値が認知される顧客接点と、その顧客接点の質を高める機能をどのように持つか、そもそも顧客価値が具体的にどのような内容で提供されるか、どのように顧客とコミュニケーションを取りたいかの定義が曖昧だと、結果的にブランド価値を高められない場合が多い。
また、ブランディング活動の品質を管理するためのマネジメントシステムも、この時点で設計する必要がある。
ステップ6:ブランディング施策策定
ステップ7:ブランディング施策実行
最後に行うことが、社内外に向けたブランディング活動である。これは、社内向けに行われる「インナーブランディング」と、社外向けに行われる「アウターブランディング」の2つに分けることができる。
また、ブランドの位置付けにより、企業自体のブランディング活動である「コーポレートコミュニケーション」と、対象サービスブランドのブランディング活動である「サービスコミュニケーション」を行う場合があり、それぞれアクションの種類が異なる。
ブランディングアクションを行う際には、その品質管理が重要となる。特にアウターブランディングにおいては、自部門のみではなくブランド関係者全員がブランドビジョンを正しく理解し、それに沿った正しい行動を行わなければならないため、アクションの品質は常にチェックが必要である。
そのため、ブランディングアクションの前(ステップ5)において、ブランドマネジメントを行う組織とブランディングのルール策定を行うことが重要となる。そのブランドマネジメントシステムを中心に、企業の機能としてブランディングアクションを行うことにより、ブランドは日々構築されていく。
以上が、差別化されたブランドを築くためのフレームワーク「TCGブランドバリューチェーン」である。この要素・プロセスを着実に歩むことにより、唯一無二のブランド構築をしていただきたい。