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コンサルティングメソッド
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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2023.01.05

企業価値を高める人的資本経営とは?~2社の具体事例からポイントを解説~ 古田 勝久

 

人的資本経営の実践事例から考察

 

人的資本経営の必要性は、近年、あらゆる場面で提言されている。人材を資本と捉え、人材の価値向上を実現することで、企業価値の向上を図る経営手法である。

 

そこで今回は、2022年5月に経済産業省が発表した「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集」(以降、人材版伊藤レポート2.0)に掲載された企業事例の中から、ソニーグループ、丸井グループの事例研究を通じて、人的資本経営の実践と、経営者が得られる教訓について述べる。

 

 

ソニーグループの取り組み

 

最初の事例はソニーグループ。同グループには、代表取締役会長兼社長CEOである吉田憲一郎氏がまとめた「Sony’s Purpose & Values」がある。「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というPurpose(存在意義)と4つのValues(価値観)だ。

 

Valuesの1つに“Diversity(多様性)”が組み込まれており、「会社とその中で会社を動かす人がPurposeを中心に、相互成長作用を起こしていく」と考える同グループは、「Special You, Diverse Sony」という「Sony’s People Philosophy」(人事理念)を掲げている(【図表1】)。これが同グループの人的資本経営の取り組みの原点となっている。

 

 

【図表1】ソニーグループの「Sony’s People Philosophy」

【図表1】ソニーグループの「Sony's People Philosophy」

出所:ソニーグループコーポレートサイトよりタナベコンサルティング作成

 

 

ソニーグループの人事施策の礎は、1946年の設立以来、脈々と受け継がれている企業文化である。同社の創業者・井深大氏が作成した設立趣意書には、会社創立の目的の1つに「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」としたためられており、これが「個」に着目する姿勢の原点となっている。

 

こうした創業者の理念をもとに、同グループの人事は、多様な個を軸とした人事戦略を立て、従業員一人一人が力を伸ばし、最大限に発揮できる環境づくりに尽力している。

 

人材版伊藤レポート2.0によると、同社の人的資本経営実現の重要ポイントは次の3点だ。

 

①事業・地域の多様性を踏まえ、グループ全体の成長には、個の多様性が不可欠と認識し、多様性が最大限に活かされるよう、体系的な人事戦略を構築・実行している。

 

②グループの成長を駆動する多様な事業が、それぞれの事業特性や課題に応じて迅速に人事運営を行えるよう、グループ各社の人事上の責任を各社CHRO(最高人事責任者)に委任している。

 

③併せて、グループ経営に必要な「求心力」を求めてパーパスを定義した。経営陣自身がその発信・浸透にコミットし、エンゲージメント指標の改善を経営陣報酬にも反映している。

 

①については、「Special You, Diverse Sony」を人事理念とし、多様な個(人・事業)の成長の総和をグループ全体の成長と認識して、「個を求む」「個を伸ばす」「個を活かす」の3つの軸で人事戦略を体系化している。

 

②については、CHROを各社に配置し、各社CHROがグループ間で頻繁に擦り合わせをしながら、人事施策を推進している。

 

③については、社員と会社の対等な関係を前提に、双方が互いに選ばれるために覚悟と緊張感をもって真剣に向き合い、相互の成長を実現するという。具体的には、年1回全社員にエンゲージメント調査を実施。経営陣の業績連動報酬KPI(重要業績評価指標)にエンゲージメントスコアの改善度、ダイバーシティなどへの取り組みの成果を含めることで、経営と人事戦略の連動を図っている。

 

 

 

PROFILE
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古田 勝久
Katsuhisa Furuta
タナベコンサルティング HRコンサルティング部 本部長代理。自動車部品メーカー、食品メーカーの人事部門での採用・人材育成・人事労務業務を経て、タナベ経営(現タナベコンサルティング)へ入社。現場で培ったノウハウをもとに、戦略的な人事・組織の実現に向けて経営的視点からアプローチし、上場企業・中堅企業の成長を数多く支援している。著書に『経営者のための「戦略人事」入門』(ダイヤモンド社)。