マーケティングDXとは、デジタル技術を活用し、商品開発や流通チャネルの設計、プロモーションなど、マーケティングのさまざまなプロセスを変革することで、企業の競争優位性を確立する取り組みである。
マーケティングは元来、顧客との関係構築や競合企業との差別化を図るための活動だ。つまりマーケティングDXは、顧客創造活動を劇的に変化させ、企業の持続的な成長を実現する可能性を秘めている。
類似する言葉に「デジタルマーケティング」「ウェブマーケティング」「マーケティングオートメーション」などがあるが、これらは全てデジタルツールを用いたマーケティングの手法だ。
いずれも重要であるが、マーケティングDXを検討する際は、どの手法を取るかで議論が終始しないように気を付けなければならない。
デジタルツールの活用を基盤としながらも、オフラインのイベントやチラシ配布、マス広告の展開、セールス活動なども含む既存のマーケティング施策も活用し、抜本的にマーケティングプロセスを改革していくことが重要である。
マーケティングDXは、【図表1】のように大きく3つの戦略カテゴリーに分けられる。
【図表1】マーケティングDXにおける3つの戦略カテゴリー
1つ目は、「非効率アプローチの削減」である。このカテゴリーは、営業経費や広告宣伝活動費などのコスト、機会損失などのリスクの最小化を目指す。BtoB、BtoCにかかわらず、顧客の情報取得源や購入プロセスは目まぐるしく変化、複雑化している。このような環境において、企業側は自社のターゲットがどのような行動特性を持っているかを見極め、ターゲットが接触する媒体に適切な形で情報発信を行い、顧客接点を最適化する必要がある。
具体的な施策として、BtoBの場合は、営業活動のオンライン化を目的としたマーケティングサイトでの情報発信などがある。BtoCの場合は、店舗とECサイトを融合させた顧客体験の創出などが挙げられる。
2つ目は、「顧客育成の最適化」である。見込み顧客を「資産」と捉え、活用を進めていく。自社商品・サービスの認知から、購入、そしてファンになるまでの一連のプロセスで顧客が感じる感情や経験であるCX(顧客体験価値)の観点に立ち、戦略を組み立てることが重要である。
BtoBの場合は、主にオンライン上で獲得した新規見込み顧客(リード)を受注可能性の高い見込み顧客(ホットリード)に育成して、営業部門にその情報を引き継ぎ、収益の最大化につなげる「デマンドジェネレーション」(【図表2】)が有効である。
【図表2】デマンドジェネレーションの流れ
BtoCの場合は、実際の顧客の意識や行動に基づき、顧客主導でマーケティングプロセスを構築する「カスタマードリブン」という考え方が基本となる。
3つ目は、「顧客価値・需要の予測」である。顧客のデータを統合、分析し、問題点やビジネスチャンスを見つける。
具体的な施策として、BtoBの場合は、アカウント・ベースド・マーケティング※を用いて、顧客データベースからターゲットを絞り込み、興味・関心を示す商品情報やコンテンツを自動で発信する方法などがある。
BtoCの場合は、ウェブサイトやオウンドメディア、ソーシャルメディアなどで役立つ情報を提供し、自社を見つけてもらい、見込み顧客を獲得、育成するインバウンドマーケティングなどが挙げられる。
マーケティングDXにおける具体的な施策を検討する際に留意いただきたいのは、「特定の部門のみで検討を進めない」ということである。
例えば、新規開拓をミッションに掲げるマーケティング部門と、効率良く業績を上げるために既存顧客を中心に対応する営業部門、あるいは、顧客の利便性を目的にECサイトを立ち上げる本部機能と、エリアで商圏をつくる地域拠点など、部門・拠点ごとに抱えるミッションや課題は異なる。マーケティングDXの取り組みを特定の部門だけで起案すると、利益相反により社内浸透が進まないのだ。
また、ボトムアップの発想の場合、部分的に最適化された施策しか立案されず、全社でのマーケティングプロセスの改革に至らないケースも少なくない。
マーケティングDXを進める際は、組織全体の在り方や業界・業務内容、人事評価なども考慮し、取り組みに対する経営陣のコミットメントや部門横断型のプロジェクトチームの組成などを行いながら、マーケティングDXを経営課題として捉え、取り組むことが肝要である。