策定したビジョンを実現するためには、いつまでに何を達成し、いま何をするべきかのロードマップを考えなくてはならない。このような、目標となる未来を起点に、現在を振り返る考え方を「バックキャスト」と言う。ビジョンを実現するためのDX実践へ向けて、具体的な戦略や計画を立案し、いつまでに、どのような状態になっていたいか、ロードマップ上の目標を考えるのである。これらの目標を一般的に「マイルストーン」と呼び、これは複数設定されていることが望ましい。
DXにおけるロードマップやマイルストーンは、一度決めたら絶対に変えてはいけないというものではない。世の中の市場の変化や技術の変遷に合わせて、ビジネス上のニーズも時々刻々変化していくため、ロードマップやマイルストーンもそれに合わせて随時見直し、常に最適化・修正をしながらビジョンに向かっていくべきであろう。
DXビジョンを確実に実行して成果を出すためには、IT人材の確保・育成が必要である。DXの取り組みにおいて、真に求められている「デジタル人材」には、もちろんプログラミングができたり、技術に精通したりしていることは重要な要素ではあるが、単にそれだけではなく、事業や組織を深く理解し、そこにデジタルを組み合わせてどのような未来を描くのかを共有し、業務現場の人々と対話・議論ができる能力が求められる。
このような人材は、一般に技術と事業の両面という意味で「両利き人材」と呼ばれることがある。中核となって推進していく人材には、それに加えて、事業推進者として経営層と対話する能力が必要となる。つまり、経営層と対峙・対話ができる(事業と技術を組み合わせた結果の効果や経営的インパクト、予算管理などを説明できる)という意味で、経営という側面を持ち合わせる人材も必要である。
事業・技術・経営の3つの観点に通じ、リーダーシップを発揮できる「ヤタガラス※人材」が中心となり、DXの方向性や開発推進、事業適用を牽引していく。経営の言葉で経営者を説得し、事業の言葉で事業部門を巻き込み、技術の言葉で開発メンバーと実現可能性の議論ができる。そのような人材が組織の中心にいることで、スムーズにDXプロジェクトを立案・推進できる。
しかし、ヤタガラス人材はどの組織にもいるわけではない。内製力を強化するために、外部からヤタガラス人材を採用する企業も少なくないが、そもそもこのような人材は社外を探しても、絶対数が少ないのが現状だ。
このような状況の下、リソース確保で優先すべきはDXリーダーの育成である。そして、リーダー層に求められる資質は次の通りである。
❶変革意欲
常に「目的は何か」を考え、現状維持バイアスにとらわれずに、あるべき論で物事を捉えることができる。
❷傾聴力
円滑なコミュニケーションによって周囲の協力を得ながら、DXという手段を通じた変革のプロジェクトを前進させることができる。
❸人脈力
社内の関連部門および人材とつながり、社外協力者(ベンダー、コンサル)に人脈があり、素直に必要な協力を仰ぎ、巻き込むことができる。
特に必要なことは、健全な危機感を持ち、DXを理解し、その必要性に共感する力であり、改革に対する熱量が誰よりも上回っていることが重要である。よって究極的には、ITリテラシーの有無で選定すべきではないと思慮する。
※日本の神話に登場する3本足のカラス