コンサルティングの現場では、候補者の選定に苦慮されているケースが多い。その際に必要なのが「あるべき社長・CEO像」と評価基準の策定である。
「あるべき社長・CEO像」を策定することは、社長・CEOを選任するまでのプロセスの中で最も根幹に当たる部分である。この部分が揺らいでしまうと、企業価値の向上につながる後継者を育成するという目的を達成できない。
「あるべき社長・CEO像」は社長・CEOに必要な資質・能力などで構成され、企業の経営理念や事業戦略・経営戦略に整合している必要がある。事業戦略は、その時々の事業のみならず、数年後、5年後、10年後と長期的なスパンで見通して検討するべきであり、さまざまな事業・市場環境、景気などを想定して複数のパターンを想定しておくべきである。社長・CEOに必要な資質・能力なども、そのような複数のパターンそれぞれに応じて検討する必要がある。
次に、後継者候補が現在保有している資質・スキルを確認した上で「あるべき社長・CEO像」と比較し、何が足りないかを検討する。その足りていない部分を補うための育成計画を策定し、実施する必要がある。
例えば、経営者には、企業の業績悪化などの「困難な課題であっても果敢に取り組む姿勢」が必要であるが、それが足りない場合には、タフ・アサインメント※が有効となる(【図表3】)。しかしながら、タフ・アサインメントとなるポジションがたまたまそのときに存在しているとは限らないため、赤字事業部門のトップなどのいくつかのポジションをあらかじめ想定しておく必要がある。
【図表3】サクセッションプランの重要な施策となるタフ・アサインメント
また、CGSガイドラインで挙げられる方法以外にも、企業のトップとして当然に持っておくべき知識(ガバナンス、リスク管理など)や資質(リーダーシップ、マネジメントなど)を、社内外の研修を活用して身に付ける機会を設けることも考えられる。
経営トップに求められるタレント・人材要件は、必ずしも一様ではなく、企業を取り巻く事業環境や経営のステージ、各社の経営理念などによって大きく異なる。そうした中でも、勘案すべき共通のポイントとして挙げられるのが、「今後のビジネスの方向性」と「自社の企業理念・価値観(らしさ)」の2つである。
今後のビジネスの方向性については、中長期的に重視する経営戦略や、今後優先的に取り組むべき事業課題とは何かを特定することが求められる。中期経営計画の達成も重要であるが、CEOの育成に10年スパンの期間を要することを考えると、長期的な視野で、どのような経営人材が求められるかを議論することが必要になるだろう。また、今後の自社および関連業界における長期見通しや、国内外の経済情勢の変化、技術革新の動向も注視しておく必要がある。
また、自社の企業理念・価値観(らしさ)のように、社内・グループで大切にしている価値観も、あるべき人材要件を設定するに当たっては重要となる。経営の指針として、グループ経営理念を明文化している企業も多い。それが各社のカルチャーを形づくっている面もあるからである。重視すべき度合いや優先度は各社なりの判断となるが、経営トップ候補たる人材が、どの程度グループ経営理念を理解・体現・実践できているかは、当然、考慮すべきであろう。
なお、あるべき人材要件と選任基準は、同じもののように語られるケースも多いが、「人材要件」は文字通りCEOに求められる要件、「選任基準」はCEOを実際に選考する過程で見ていくポイントという点で区分している。
グループ経営者(社長)の指名・選任は、企業価値に直結する重要な課題であるが、一方で従来の「現社長が後継社長を指名する」という実務慣行を塗り替える取り組みでもあり、導入のハードルが高いと考えられているかもしれない。
しかし、従来の実務慣行においても、現社長が後継社長を指名する際には、「会社を任せられるのは誰か」「会社を継続的に成長させていく素質があるのは誰か」「会社の戦略に整合する人材は誰か」という観点から指名していたはずである。これは、サクセッションプランにおいて「あるべき社長・CEO像」に適した人材を指名することと変わりない。
そのような指名・選任プロセスの透明化を図ることがサクセッションプランの目的であることを踏まえれば、単なるCGコードの順守以上に大きな価値があると考える。多くの企業が、グループ経営者育成の一環として、サクセッションプランに積極的に取り組むことを期待する。
※実務における困難な課題