【図表1】SDGsビジネスモデル
ここまでで、企業がSDGsに取り組む理由はご理解いただけたのではないだろうか。
次に、企業がどのようにSDGsに取り組むべきかについて3つの視点でまとめる。
❶トップのリーダーシップのもと、全社員が意義を理解して取り組む
SDGsの取り組みが成果を上げている企業の特徴として、トップが本気になり、先頭に立って取り組んでいることが挙げられる。トップダウンの指示だけではなく、社会課題・環境課題に取り組まなければならないという本気の姿勢が、全社を巻き込んだ取り組みに発展するのである。
社内でSDGsへ取り組む機運を高める方法は、社員教育やSDGs新聞といった社内広報活動、また社内でのSDGsアワードといった仕組みづくりなどさまざまあるが、全てはトップが本気でリーダーシップを発揮して初めて成功する。
社長が社員に語りかける社内向けの動画を作成し視聴してもらう、経営方針発表会など重要な全社行事の中でSDGs浸透のために時間を確保するなど、自社内でSDGsのプライオリティー(優先度)を上げる取り組みを活発に行っている企業も多い。
❷ドメインを再定義して事業を進化させる
社会課題や環境課題に自社の本業で取り組むことで、企業としての稼ぐ力を中長期で持続・強化するという善循環を築くことが重要な要素であると前述した。SDGsというフィルターを通すことで、事業をアップデートできるのである。これは次の3つのステップで進める必要がある。
第1ステップは、自社は何のためにSDGsに取り組むのか、SDGsで何を実現し、何に貢献するのかを決めることである。これをSDGs宣言としてまとめる。
第2ステップは、その宣言した内容に取り組むに当たって、自社の製品やサービスが提供すべき価値は何かを再検討し、明確にすることである。これがドメインの再定義である。
SDGsというフィルターを通すことで事業の新たな価値に気付き、貢献領域を再定義することで新たなマーケットを開拓できる。これまでになかった新たな提供価値や不足していた提供価値を創造するきっかけとなり、事業の進化につながるのである。
第3ステップでは、再定義した自社のコアバリュー(中核となる価値観)を発揮できるゴールを検討し、SDGsと事業を結び付ける。SDGsというフィルターを通して開発した製品やサービスを、従来の製品やサービスより高い利益率で提供できている企業も多く存在する。
❸社会のサステナビリティと企業のサステナビリティの両立に取り組む
❶と❷の取り組みの結果、「社会のサステナビリティと企業のサステナビリティの両立」が実現できる。
企業は持続的に収益が上がるビジネスモデルをつくり上げる必要がある。そのためには、自社が解決すべき社会課題・環境課題に事業として取り組み、その事業を複数つくって多角化することが重要だ。「この事業を推進すれば社会課題や環境課題が解決できる」という善循環をつくり上げることこそが、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティの両立につながる。
この考え方は、2030年に向けた事業戦略・経営戦略の構築に必要不可欠な要素となる。社会のサステナビリティと企業のサステナビリティは両輪でなければならない。うまくリンクしていなければ持続的に走り続けることはできないのである。(【図表1】)
コーポレートガバナンス・コード改訂や2050年カーボンニュートラルの実現に向けた環境省の取り組みなどを背景に、社会課題・環境課題への企業の意識が高まっていることは、まぎれもない事実である。さらに社会のサステナビリティへの取り組みが、同時に企業のサステナビリティを実現するものでなければならないというのも事実である。企業は「なぜSDGsに取り組むのか」「何をどのようにSDGsで実現するのか」を環境・社会・経済の側面で明確にする必要がある。今こそ、そうしたパーパス・ミッション・バリューについて考え、行動に移していただきたい。(【図表2】)
SDGsは「きれいごと」ではない。未来の環境や社会や経済のために必要不可欠で、誰もが例外なく取り組まなければいけない、世界を巻き込んだ“行動”なのである。掲げるだけではなく“行動”することが重要である。
ここにビジネスチャンスがあることは明白だ。「サステナブル」というキーワードを中心に置いた新たなビジネスモデルの再構築が、2030年までの企業戦略の中心となる。今こそ、事業戦略と経営戦略の両方を、SDGsのフィルターを通し、サステナブル戦略として再構築することで、持続的な成長を実現しよう。
【図表2】今後の中長期ビジョン・中期経営計画の重要テーマ(複数回答)