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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティング メソッド 2022.05.02

2030年までの成長戦略のキーワードは「サステナブル」:巻野隆宏

企業がSDGsに取り組むべき3つの理由
  SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略で、「持続可能な開発目標」と訳されている。2015年の国連サミットで150を超える加盟国により採択された2030年までの国際目標であり、地球上の「誰一人取り残さない」ことを誓って、持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットを設定している。このSDGsになぜ今、取り組もうと考える企業が多いのか、また企業はSDGsへ向けてどのように取り組んでいくべきなのかを考える。 まず、企業がSDGsに取り組むべき理由を次の3つの視点でまとめる。   ❶2030年に向けた戦略構築においてサステナブルというキーワードが非常に重要になる   「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」という言葉をご存じだろうか?   環境変化の不確実性の高まり、社会のサステナビリティ(持続可能性)の要請の高まりという、2つの大きな外部環境の変化の中で「企業のサステナビリティ」を高めていくためには、5年、10年という長期の時間軸で、企業のサステナビリティと社会のサステナビリティを同期化させた経営戦略の立案と実行が必要となる。   具体的には、①企業としての稼ぐ力(強み・競争優位性・ビジネスモデル)を中長期で持続化・強化する、②不確実性に備え、長期的な社会の要請(社会のサステナビリティ)からバックキャスト(逆算)して中長期的な「リスク」と「オポチュニティ(機会)」を経営に反映させる、③企業と投資家が対話を繰り返し、企業の中長期的な価値創造ストーリーを磨き上げ、企業経営のレジリエンス(回復力)を高めていくことである。こうした経営の在り方、対話の在り方を、SXと呼ぶ。これはまさしく、社会性と経済性の両立を目指すSDGsの考え方と合致するものである。   「SDG Compass(SDGsの企業行動指針)」には、「すべての企業に対し、明確に、その創造性及びイノベーションを活用して、持続的発展のための課題を解決するよう求めている」と明記されている。企業がこれまで社会課題・環境課題を犠牲にして経済活動へ傾倒してきたことは否めない。今後は環境・社会・経済のサステナビリティのために、創造性とイノベーションを活用して取り組む責任がある、という意味だろう。   これからは間違いなく社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを同時に実現する考え方への転換が強く求められる。社会のサステナビリティを無視した経営戦略は成り立たないのである。   ❷事業環境面と経営環境面の両面においてSDGsへ取り組むことがチャンスを生む   事業環境面のチャンスとは、SDGsの能動的な取り組みが、サプライチェーンにおけるイニシアチブを取ることにつながるというものである。今後ますます、サプライチェーンにおける強者の取り組みの変化が、サプライチェーン全体の取り組みを左右することになっていく。   例えば、トヨタグループやイオングループが環境問題や社会問題に取り組むと表明すれば、そのサプライチェーン上にいる企業もこれらの問題を無視できなくなる。その流れは間違いなく加速していく。   流れに巻き込まれながら仕方なく対応していくのか、能動的に取り組んで流れにうまく乗り、イニシアチブを取るのかで、企業の未来は大きく変わる。言うまでもなく後者の方がビジネスチャンスをつかむことができる。   また、経営環境面では、人材採用におけるプラスの効果が見込まれる。ある人材総合サービス会社の調査では、就職活動生の就職先決定要因のトップが3年連続で「社会貢献度」となっている。SDGsへの取り組みをしっかりと社外へ伝えることで、採用強化につなげることができるのである。   逆に、社会貢献をしていない企業は、就活生から見向きもされなくなってしまう。「社会貢献事業では収益は生まれない」「環境にやさしいビジネスはコストがかかる」という考え方は非常に危険である。現在の新入社員層であり今後の市場の中心となるZ世代の社会貢献意識は非常に高く、企業の幹部層の感性や感覚とは異なることを正しく理解する必要がある。   事業環境面・経営環境面の両面において情報発信は非常に重要となる。SDGsへの本気の取り組みを社内外へ発信することが、チャンスをつかむきっかけになる。   ❸中長期ビジョンを策定するに当たり、SDGsは必要不可欠な要素となる   中長期ビジョンとSDGsの共通キーワードは「2030」。2030年までの目標を掲げるSDGsと、2030年という長期視点で社会と企業のサステナビリティに取り組む中長期ビジョンの親和性は非常に高い。今後の中長期ビジョンにSDGsの要素を組み込まないという選択肢は考えられない。   先行きが不透明で将来予測が難しい時代だからこそ、中長期ビジョンは必要なのである。「どうせ立ててもその通りにいかないからビジョンを描かない」というのは、成り行き任せの経営に他ならない。未来は予測するのではなく、自ら決める覚悟が必要である。ビジョンを明確に描くに当たってSDGsは大きな指針となる。   サステナブルな社会の実現によって企業のサステナビリティを実現するという中長期のビジョンをぜひ掲げていただきたい。2030年に向かうための最重要テーマである。     ※ディスコ「就活生の企業選びとSDGsに関する調査」(2020年8月調査)     SDG Compass(SDGsの企業行動指針) GRI(グローバル・レポーティング・イニシアチブ)、国連グローバル・コンパクト、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が開発した指針。3度にわたる協議期間において世界中の企業、政府機関、教育研究機関、市民社会組織から提供されたフィードバックを盛り込んでいる       【図表1】SDGsビジネスモデル 出所:タナベ経営作成    
SDGsにどのように取り組むべきか
  ここまでで、企業がSDGsに取り組む理由はご理解いただけたのではないだろうか。   次に、企業がどのようにSDGsに取り組むべきかについて3つの視点でまとめる。   ❶トップのリーダーシップのもと、全社員が意義を理解して取り組む   SDGsの取り組みが成果を上げている企業の特徴として、トップが本気になり、先頭に立って取り組んでいることが挙げられる。トップダウンの指示だけではなく、社会課題・環境課題に取り組まなければならないという本気の姿勢が、全社を巻き込んだ取り組みに発展するのである。   社内でSDGsへ取り組む機運を高める方法は、社員教育やSDGs新聞といった社内広報活動、また社内でのSDGsアワードといった仕組みづくりなどさまざまあるが、全てはトップが本気でリーダーシップを発揮して初めて成功する。   社長が社員に語りかける社内向けの動画を作成し視聴してもらう、経営方針発表会など重要な全社行事の中でSDGs浸透のために時間を確保するなど、自社内でSDGsのプライオリティー(優先度)を上げる取り組みを活発に行っている企業も多い。   ❷ドメインを再定義して事業を進化させる   社会課題や環境課題に自社の本業で取り組むことで、企業としての稼ぐ力を中長期で持続・強化するという善循環を築くことが重要な要素であると前述した。SDGsというフィルターを通すことで、事業をアップデートできるのである。これは次の3つのステップで進める必要がある。   第1ステップは、自社は何のためにSDGsに取り組むのか、SDGsで何を実現し、何に貢献するのかを決めることである。これをSDGs宣言としてまとめる。   第2ステップは、その宣言した内容に取り組むに当たって、自社の製品やサービスが提供すべき価値は何かを再検討し、明確にすることである。これがドメインの再定義である。   SDGsというフィルターを通すことで事業の新たな価値に気付き、貢献領域を再定義することで新たなマーケットを開拓できる。これまでになかった新たな提供価値や不足していた提供価値を創造するきっかけとなり、事業の進化につながるのである。   第3ステップでは、再定義した自社のコアバリュー(中核となる価値観)を発揮できるゴールを検討し、SDGsと事業を結び付ける。SDGsというフィルターを通して開発した製品やサービスを、従来の製品やサービスより高い利益率で提供できている企業も多く存在する。   ❸社会のサステナビリティと企業のサステナビリティの両立に取り組む   ❶と❷の取り組みの結果、「社会のサステナビリティと企業のサステナビリティの両立」が実現できる。   企業は持続的に収益が上がるビジネスモデルをつくり上げる必要がある。そのためには、自社が解決すべき社会課題・環境課題に事業として取り組み、その事業を複数つくって多角化することが重要だ。「この事業を推進すれば社会課題や環境課題が解決できる」という善循環をつくり上げることこそが、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティの両立につながる。   この考え方は、2030年に向けた事業戦略・経営戦略の構築に必要不可欠な要素となる。社会のサステナビリティと企業のサステナビリティは両輪でなければならない。うまくリンクしていなければ持続的に走り続けることはできないのである。(【図表1】)    
誰もが例外なく取り組む必要性がある
  コーポレートガバナンス・コード改訂や2050年カーボンニュートラルの実現に向けた環境省の取り組みなどを背景に、社会課題・環境課題への企業の意識が高まっていることは、まぎれもない事実である。さらに社会のサステナビリティへの取り組みが、同時に企業のサステナビリティを実現するものでなければならないというのも事実である。企業は「なぜSDGsに取り組むのか」「何をどのようにSDGsで実現するのか」を環境・社会・経済の側面で明確にする必要がある。今こそ、そうしたパーパス・ミッション・バリューについて考え、行動に移していただきたい。(【図表2】)   SDGsは「きれいごと」ではない。未来の環境や社会や経済のために必要不可欠で、誰もが例外なく取り組まなければいけない、世界を巻き込んだ“行動”なのである。掲げるだけではなく“行動”することが重要である。   ここにビジネスチャンスがあることは明白だ。「サステナブル」というキーワードを中心に置いた新たなビジネスモデルの再構築が、2030年までの企業戦略の中心となる。今こそ、事業戦略と経営戦略の両方を、SDGsのフィルターを通し、サステナブル戦略として再構築することで、持続的な成長を実現しよう。     【図表2】今後の中長期ビジョン・中期経営計画の重要テーマ(複数回答) 出所:タナベ経営「アフターコロナに向けた上場企業経営アンケート」(2021年6月)      
     
PROFILE
著者画像
巻野 隆宏
Takahiro Makino
2007年タナベ経営入社。2021年より、ドメインコンサルティング大阪本部本部長代理兼SDGs研究会リーダーに就任。専門分野は事業戦略の立案をはじめ開発・マーケティングなど多岐にわたる。企業の持続的な変化と成長のサポートに取り組み、志ある企業・経営者のパートナーとして活躍中。「高い生産性と存在価値の構築」を信条とし、明快なロジックと実践的なコンサルティングを展開。建設業、製造業を中心に中・長期ビジョン構築において事業の選択と集中で高収益ビジネスモデルへの変革を数多く手掛けてきた。