コミュニケーションMIXの理解には、もう1つ、メディア×クリエイティブを組み合わせたコミュニケーションの戦略的設計も欠かせない。
【図表4】のPESOモデルで、消費者と企業をつなぐ接点や仕組みを捉え直し、多様化する顧客接点の性質を分析・理解した上で、それぞれを連携させなければならない。そして、新規顧客の獲得だけではなく、既存顧客の育成や維持を行うために、広報・PR(パブリックリレーションズ)活動や投資家に対する活動なども含めた企業活動全体の「メディア×クリエイティブ」コミュニケーション設計をしていくことが必要である。
【図表4】PESOモデル
コミュニケーションMIXは、リアル×デジタルをより適切に組み合わせることであり、人的活動によるコミュニケーションも重要なポイントとなる。
営業やカスタマーサクセス、カスタマーサービスといった機能・役割の人員が、訪問・実店舗で直接的に接点を持ったり、電話やメールやチャットなどのコミュニケーションツールでつながったりして、コミュニケーション活動を行う。顧客の声を直接聞くことで、顧客との関係性が深まるメリットもあるが、人的費用、育成費用がかかるので、人的活動コミュニケーションは、主にファンやロイヤルカスタマーの育成、維持を行うためのコミュニケーション活動となる。
コミュニケーションMIXの成果は、最適な費用対効果で顧客を購買へと導くことだが、その効果は一時的なものだけではない。これまで説明したコミュニケーションをシームレスかつ立体的に組み合わせ、実行することで、効果を発揮し、顧客ロイヤルティーの向上をもたらす。
各コミュニケーションによる顧客とのつながりが、ブランディングにつながり、顧客をファンやロイヤルカスタマーにしていく効果も期待でき、顧客生涯価値(LTV)の最大化へと導く。「LTV=顧客数×購買単価×リピート」であり、顧客単価やリピート率を上げていくことが企業にとって重要である。目先の利益を追い求めるのではなく、コミュニケーションを取り、長期的な信頼関係を築いていくという考え方が求められている。
これまで述べてきたように、コミュニケーションMIXとは、目的・ターゲットに合わせ、費用対効果を最大にするような、企業と顧客をつなげる手段の組み合わせである。コミュニケーションMIXを実行する前に、企業の「本質的価値(ブランド価値)」「真の顧客(ターゲットユーザー)」をしっかりと見定めておくことが重要であることも認識していただきたい。
「本質的な価値(ブランド価値)」を、「真の顧客(ターゲットユーザー)」へ、「届け続ける(コミュニケーションMIX)」。自社・商品・サービスのブランド価値や強み、魅力などの「本質的価値」を、商品・サービスのターゲットユーザーとなる「真の顧客」へ、コミュニケーション手法を駆使して「届け続ける」。この掛け合わせがポイントである。
「何を」「誰に」「どうやって」届け続け、つながっていくか。言葉にすると簡単だが、具体的に現場で実践し、成果に結びつけていくとなると、部門任せ、担当者任せの場当たり的なものとなり、なかなかうまくいかないのが実情である。しっかりと筋道を立てて設計し、実行に移して、検証し、修正しながら、意思をもって継続していくことが大切である。
最後に、顧客の行動を全ての起点にした全社的な視点での活動をマネジメントする仕組みである、顧客のデータベース化と各部門のリレーションシップについて説明する。
デジタルツールを活用しながら、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)を実装し、顧客情報をデータベース化する。これにより、顧客との全タッチポイントを、ライン・スタッフ問わず全部門で情報を共有することができ、個々の顧客にきめ細かいコミュニケーション対応ができる。
また、顧客データ(基本情報、過去購入情報・利用状況、購入動機、問い合わせやクレーム履歴など)を生かして顧客からの質問や要望に応えたり、観客が求めそうな商品情報を提供することで、長期的に関係性を持ってくれるロイヤルカスタマーを得ることができる。
さらに、戦略的目標設定も必要になってくる。各フェーズのKPI(重要業績評価指標)を設定し、活動状況を見える化することで社内の共通言語となり、理解へとつながる。全社活動の実行推進状況を全社員が把握することで、課題が明確になり、PDCAを回すことができる。
デジタルの力で、顧客の購入前後の行動・エリア・行動時間帯などが把握できるようになり、ウェブとリアルのシームレスな顧客体験が「より良い購買体験」を醸成する。体験の価値を向上させるためには、テクノロジー偏重ではなく、リアルな顧客満足を体験させる設計がとても重要になる。
デジタルとリアルを融合させた独自のコミュニケーションMIXで、「新たな顧客コミュニケーションモデル」をデザインした仕組みをつくり、顧客提供価値を高め、具体的な成果、持続的成長拡大へつなげていただきたい。