自社独自の「顧客とのコミュニケーションモデル」創造へ
顧客の購買行動が変化する中で、BtoC・BtoBビジネスともに、従来のマーケティング活動だけでは成果が上がらなくなってきた。SNSやウェビナーなど、ウェブによるダイレクトマーケティングが活況の今、企業と顧客をつなぐ接点、メッセージを届ける仕組みづくりが企業に求められている。
今、必要な「コミュニケーションMIX」とは何か。それは顧客の新たな購買行動に対し、これまで培ってきた自社の強みと、購買行動などのあらゆるデータを活用し、リアル×デジタルを適切に組み合わせ、顧客の体験価値(CX:カスタマーエクスペリエンス)を向上させる「ブランディング」「マーケティング」「セールス」が一体となった自社独自の「顧客とのコミュニケーションモデル」を創造することである。それにより、顧客をファン(ロイヤルカスタマー)へと育成することを目指すものだ。
言い換えれば、費用対効果の視点を持ち、目的・ターゲットに適したリアル×デジタルの手法を組み合わせて実行するメソッド、また、顧客の購買行動と企業との双方向性を持つコミュニケーションが求められている。これはマーケティングの根幹を形成する部分である。
自社独自のコミュニケーションモデル創造のためには、独自のマーケティングファネル※、企業側と顧客側視点のマッチング、カスタマージャーニーとタッチポイントの体系化、メディア・クリエイティブ・人的活動といった各コミュニケーションの組み合わせなどで、顧客と企業をつなぐ接点や仕組みを捉え直し、多様化する顧客接点の性質を分析・理解する必要がある。その上で、それぞれを連携させ、企業活動全体を通して立体的に組み上げていくことが重要となる。
※顧客が認知から購買に至るまでの心理的過程(行動含む)をモデル化したもの
マーケティングファネル×プロモーション
企業は、ミッション、ビジョンを実現したいという思い(ブランドストーリー)を顧客に広く伝え、自社のファンを創っていく。その一気通貫したマーケティング戦略の立案により、ターゲットにきちんと届け続けるプロモーション戦略を、顧客の購買行動を軸とした自社独自のマーケティングファネルをもとに、リアル×デジタルを組み合わせて設計する(【図表1】)。大事なのは、リアル×デジタルの両面から総合的に構築し、顧客エンゲージメント(企業と顧客との信頼関係)を高めることである。
【図表1】BtoC企業のプロモーション戦略
出所:タナベ経営作成
コミュニケーションMIXを理解する際に、企業側の視点と、顧客側の視点を重ね合わせ、物事を捉えていく必要がある。顧客は、自分にとって価値あるものの提供を受け、その対価を払う。企業は、この価値を届けるためにさまざまな活動を行っている。企業側の思いと、顧客側の思いがつながったときにビジネスが成り立つ。
マーケティング活動を表すときに用いられる4Pと4Cについて簡単に触れておこう。4P(Product:製品、Price:価格、Place:流通、Promotion:販促)は、企業側の視点から、顧客に価値を届けるためにはどのようなマーケティングを行うかを決めていくフレームワークである。一方、4Pを顧客側の視点から見直したものが4C(Customer Value:顧客価値、Cost:コスト、Convenience:利便性、Communication:コミュニケーション)であり、4Pの項目と4Cの項目は、それぞれ対になっている。
ここで重要な点は、企業側の視点(4P)=プロダクトアウト発想と、顧客側の視点(4C)=マーケットイン発想をマッチングさせることである。プロダクトアウト発想のみだと市場の理解が追い付かず、マーケットイン発想のみでも競合との差別化ができないであろう。【図表2】のPromotionとCommunicationの関係を解決するのが、フレームワークの1つであるコミュニケーションMIXであり、費用対効果を最大にできるコミュニケーションの組み合わせを考えることにある。
【図表2】4P(企業側の視点)と4C(顧客側の視点)のマッチング
出所:タナベ経営作成
リアル×デジタルが複雑に組み合わさった現在では、顧客が商品を購入するまでに、さまざまなタッチポイントで多くの情報を得ることができる。
顧客が商品を購入するまでに生じる、企業とのタッチポイントを整理したのが【図表3】である。
【図表3】商品を購入するまでに生じる企業とのタッチポイント(BtoC)
出所:タナベ経営作成
商品知識がない(A)、または購入したことはないが商品は知っている(B)状態から、注目して興味を抱き(認知)、ネット検索やカタログ請求などを行い(検討)、商品の購入やサービスの利用に至る(行動)。購買行動時点でのコミュニケーションアプローチによって、購買活動がストップするのか、商品・サービスを気に入ってリピートしてくれるのか、エバンジェリスト(伝道者)として周囲にも広めてくれるのか(推奨)が決まる。
顧客がA~Dのどの階層に位置するかによって、具体的アクションの温度は変わってくる。一度、商品購入やサービス活用の経験がある層(C)に対しても、再び①~④の流れを踏むが、AとBの層に比べリピートする確率は高まる。Dの段階に入ると、もはやファンやロイヤルカスタマーと言って良い。
このように顧客がタッチポイントのチャートを進んでいく過程を、“旅”に見立てて「カスタマージャーニー」と呼ぶ。タッチポイントごとに企業側が取るべきコミュニケーションは異なり、顧客が抱く期待や熱意に合わせた対応が必要となってくる。それぞれ適切なコミュニケーションを展開することで、顧客はカスタマージャーニーの次のステップに歩みを進め、より熱心なリピーターへと変貌を遂げていく。
人々が購入に至る心理や行動についてはさまざまなパターンがあるが、カスタマージャーニーを体系化、プロセス化してデータで効果を検証しながら改善することで、コミュニケーションをより効率的・効果的に行うことができる。
「メディア×クリエイティブ」コミュニケーション
コミュニケーションMIXの理解には、もう1つ、メディア×クリエイティブを組み合わせたコミュニケーションの戦略的設計も欠かせない。
【図表4】のPESOモデルで、消費者と企業をつなぐ接点や仕組みを捉え直し、多様化する顧客接点の性質を分析・理解した上で、それぞれを連携させなければならない。そして、新規顧客の獲得だけではなく、既存顧客の育成や維持を行うために、広報・PR(パブリックリレーションズ)活動や投資家に対する活動なども含めた企業活動全体の「メディア×クリエイティブ」コミュニケーション設計をしていくことが必要である。
【図表4】PESOモデル
出所:タナベ経営作成
コミュニケーションMIXは、リアル×デジタルをより適切に組み合わせることであり、人的活動によるコミュニケーションも重要なポイントとなる。
営業やカスタマーサクセス、カスタマーサービスといった機能・役割の人員が、訪問・実店舗で直接的に接点を持ったり、電話やメールやチャットなどのコミュニケーションツールでつながったりして、コミュニケーション活動を行う。顧客の声を直接聞くことで、顧客との関係性が深まるメリットもあるが、人的費用、育成費用がかかるので、人的活動コミュニケーションは、主にファンやロイヤルカスタマーの育成、維持を行うためのコミュニケーション活動となる。
コミュニケーションMIXの成果は、最適な費用対効果で顧客を購買へと導くことだが、その効果は一時的なものだけではない。これまで説明したコミュニケーションをシームレスかつ立体的に組み合わせ、実行することで、効果を発揮し、顧客ロイヤルティーの向上をもたらす。
各コミュニケーションによる顧客とのつながりが、ブランディングにつながり、顧客をファンやロイヤルカスタマーにしていく効果も期待でき、顧客生涯価値(LTV)の最大化へと導く。「LTV=顧客数×購買単価×リピート」であり、顧客単価やリピート率を上げていくことが企業にとって重要である。目先の利益を追い求めるのではなく、コミュニケーションを取り、長期的な信頼関係を築いていくという考え方が求められている。
これまで述べてきたように、コミュニケーションMIXとは、目的・ターゲットに合わせ、費用対効果を最大にするような、企業と顧客をつなげる手段の組み合わせである。コミュニケーションMIXを実行する前に、企業の「本質的価値(ブランド価値)」「真の顧客(ターゲットユーザー)」をしっかりと見定めておくことが重要であることも認識していただきたい。
「本質的な価値(ブランド価値)」を、「真の顧客(ターゲットユーザー)」へ、「届け続ける(コミュニケーションMIX)」。自社・商品・サービスのブランド価値や強み、魅力などの「本質的価値」を、商品・サービスのターゲットユーザーとなる「真の顧客」へ、コミュニケーション手法を駆使して「届け続ける」。この掛け合わせがポイントである。
「何を」「誰に」「どうやって」届け続け、つながっていくか。言葉にすると簡単だが、具体的に現場で実践し、成果に結びつけていくとなると、部門任せ、担当者任せの場当たり的なものとなり、なかなかうまくいかないのが実情である。しっかりと筋道を立てて設計し、実行に移して、検証し、修正しながら、意思をもって継続していくことが大切である。
コミュニケーションMIXマネジメント
最後に、顧客の行動を全ての起点にした全社的な視点での活動をマネジメントする仕組みである、顧客のデータベース化と各部門のリレーションシップについて説明する。
デジタルツールを活用しながら、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)を実装し、顧客情報をデータベース化する。これにより、顧客との全タッチポイントを、ライン・スタッフ問わず全部門で情報を共有することができ、個々の顧客にきめ細かいコミュニケーション対応ができる。
また、顧客データ(基本情報、過去購入情報・利用状況、購入動機、問い合わせやクレーム履歴など)を生かして顧客からの質問や要望に応えたり、観客が求めそうな商品情報を提供することで、長期的に関係性を持ってくれるロイヤルカスタマーを得ることができる。
さらに、戦略的目標設定も必要になってくる。各フェーズのKPI(重要業績評価指標)を設定し、活動状況を見える化することで社内の共通言語となり、理解へとつながる。全社活動の実行推進状況を全社員が把握することで、課題が明確になり、PDCAを回すことができる。
デジタルの力で、顧客の購入前後の行動・エリア・行動時間帯などが把握できるようになり、ウェブとリアルのシームレスな顧客体験が「より良い購買体験」を醸成する。体験の価値を向上させるためには、テクノロジー偏重ではなく、リアルな顧客満足を体験させる設計がとても重要になる。
デジタルとリアルを融合させた独自のコミュニケーションMIXで、「新たな顧客コミュニケーションモデル」をデザインした仕組みをつくり、顧客提供価値を高め、具体的な成果、持続的成長拡大へつなげていただきたい。

PROFILE
飯田 和之
Kazuyuki Iida
1994年タナベ経営入社。2019年より、執行役員に就任。企業のマーケティング&ブランディング戦略パートナーとして、売上拡大・ブランド認知向上に直結する、戦略立案からマーケティング計画策定、具体的販促施策実行推進、メディア・クリエイティブ・プレミアムノベルティの企画、制作ディレクションまで一貫して支援している。