タナベ 丹尾 事業ポートフォリオの再編に関わるM&Aの成功事例をお聞かせください。
GWP 長田 GWPはM&Aの売り手または買い手のサポートという形で、事業ポートフォリオの再編に取り組んできました。成功事例の1つに“虎の子売却”があります。
飲食チェーンA社は、店舗の急拡大がたたって資金繰りが悪化、M&Aによるキャッシュの獲得を図りました。GWPは買い手であるファンドをサポートしたのですが、売り手であるA社は主力事業として堅実な収益を上げていた“虎の子”事業のカーブアウトを実行。これによってA社は残った事業の立て直しを進めています。
タナベ 村上 このM&Aを知ったとき、「キャッシュを生んでいる優良事業を売却するのか!」と、とても驚きました。
GWP 長田 事業承継が絡んだ事例では、農作物の生産・販売を手掛けるB社の案件が挙げられます。
ある農作物が首都圏で売り上げを伸ばし、B社の事業は好調に推移していました。また、別事業として、余剰農地を使って他の野菜の栽培も行っていました。
高齢のB社社長は、好調で成長余地のある農作物事業は、追加投資を含め成長に向けたサポートが可能な企業への譲渡を希望するが、余剰農地での野菜栽培は地域貢献も兼ねて継続したいとの意向でした。
GWPは買い手となるファンドのアドバイザーとして関与。特に、複数取り得る事業分割の選択肢によって当事者の税負担が大きく変わるので、ストラクチャー(M&Aを実行するに当たっての手順・手法)を慎重に検討し、売り手・買い手双方に納得感のあるストラクチャーの構築をアドバイスして、カーブアウト型の事業承継M&Aの実行をサポートしました。
GWP 安藤 10年ほど前、電機メーカーC社が展開していた携帯電話事業子会社株式の大部分を同業D社へ売却しました。「巨額な開発費の回収が難しい」とのトップ判断による事実上の撤退です。
この案件で、私はC社のアドバイザーを務め、資本業務提携の交渉と契約締結を支援しました。その後、携帯電話市場から撤退するメーカーが相次いだので、絶好のタイミングでのカーブアウトだったと言えます。
タナベ 村上 逆に、M&Aの中止を提言することはありますか。
GWP 瀧日 メーカーE社が人気菓子メーカーF社のM&Aに乗り出したとき、私がアドバイザーを務めました。F社のデューデリジェンス(M&Aの対象となる会社や事業の価値やリスクなどを調査すること:以降、DD)を行うと、ほとんど利益が出ていない状態で、トップの話や事業計画からも具体的な成長戦略が見えてきません。そこでE社に「危険度が高い」と報告し、M&Aを中断してもらいました。
私たちは、実行ありきのアドバイザーではありません。DDや交渉の結果、適切な案件ではないと判断したら、M&Aの中止を明言します。
タナベ 小野 クロスボーダーM&Aについて伺います。日本企業に対する国際的な評価はどのようなものですか。
GWP 瀧日 おしなべて日本企業の信頼度は高く、手を組んで事業を展開したいと希望する経営者は世界中に数多く存在します。
タナベ 小野 クロスボーダーM&Aを行う際の注意点を教えてください。
GWP 瀧日 進出したい国・エリアの事業環境はもちろん、法制度や税制度、会計、商習慣、労務習慣などをきちんと把握した上で、買収後の運営を具体的にイメージしながら対象会社のDDを徹底して行うのがクロスボーダーM&Aの必須事項です。
M&Aの手法としては、まず業務提携を結び人材を派遣して現地で業務に当たらせ、次第に派遣人員を増やしながら資本提携を結ぶといった段階的な方法もあれば、成長著しい有望な現地企業と出会って一気に100%買収するケースもあり得ます。
また、クロスボーダーM&Aの“値付け”は、国内M&Aよりも高価になりがちです。投資回収ができるかどうかを、厳格に検討しなければなりません。
GWP 安藤 M&Aの成否を握るのがPMI(Post Merger Integration:M&A後の経営統合プロセス)です。買収した会社・事業の面倒を見る人材の選別は非常に難しいので、クロスボーダーM&Aにおいては、現地のマネジメントは従来の管理職に任せる方が良いでしょう。
買収した会社の社長やマネジメント担当者と信頼関係を結び、何でも話し合える仲間になった上で、現場をきちんとモニタリングすることが肝要です。相手から「この会社はベストパートナーだ」と思われないとPMIはうまくいきません。
タナベ 小野 クロスボーダーM&Aと国内M&Aで明確に異なるところはありますか。
GWP 安藤 契約書の作り方などは、今はだいぶ同じようになってきましたが、以前は国によって思想が全く違いました。
例えば、米国企業は弁護士が自社に100%有利な契約書を作りますが、日本企業は、自社に有利な条件を提示することは当然としても、比較的、互いにフェアな契約書を作ろうとする傾向が強いような気がします。
クロスボーダーM&Aでは、文化の異なる国の企業同士が、その理解や決定事項を誤解のないように厳密に文章化・契約化しなくてはなりません。日本の常識は通用しませんから、現地の弁護士事務所と擦り合わせをしっかりと行い、現地の常識も十分に理解した上で、決め事を文章に落とし込むことが重要です。