デジタルツール導入や社内システムの開発(構築)では、前述のニューノーマルに基づいて導入・開発方法を選択することが重要である。その際は次の2つのパターンを使い分ける必要がある。また、デジタルツールの活用・運用においては、大きく3つのフェーズがある。
❶アジャイル型
予定していた仕様や設計の変更は当然あり得るという前提に立ち、初めから厳密に仕様を定義せず、おおよその仕様で細かい反復開発(実装・検証・修正)を繰り返しながら、徐々に進めていく手法である。後述のウオーターフォール型に比べ、スピーディーに導入・開発できる。RPA※など自動化ツールの導入がこれに当たる。
❷ウオーターフォール型
水が上から下へ垂直に落ちる滝(ウオーターフォール)のように、設計やプログラミングなど上流工程から下流工程に至る各作業を1つずつ終わらせて、次に進む方法である。順番通りに前工程の品質を確保しながら、後工程での不具合リスクを最小限に抑える古典的な手法で、基幹システムの導入・開発などがこれに当たる。
フェーズ1
ツールやシステムの運用で自動化・効率化を図り、人の作業をデジタルに置き換えていく、いわば「引き算的発想」のフェーズである。例えば、バリューチェーンの省人化、非効率アプローチの削減、RPAなどによるパソコン定型業務の自動化、グループウエアやウェブ会議の活用による場所と時間の分散化である。
フェーズ2
引き算的発想の次は、デジタルを活用して付加価値を付けていく「足し算的発想」の段階である。例えば、オンライン営業による商談・受注件数の大幅増加やSNSとウェブサイトの運用による集客数増加などである。フェーズ1と同時に進める場合も多いが、フェーズ2では、より顧客視点、従業員視点を持ったツール・システムの選定と活用が必要となる。
フェーズ3
フェーズ1、2を経て、本格的に活用していく「掛け算的発想」の段階になる。例えば、人が経験と勘と度胸で判断していた需要予測や行動予測などをAIに置き換え、幾何級数的に増加していく収集データを機械学習やディープラーニング(深層学習)などによる解析を重ね、精度の高い判断実績を積み上げていく。
※ロボティック・プロセス・オートメーション。ソフトウエアロボットによるデスクワークの代行・自動化
一方、デジタル化の推進に当たっては、ツールやシステムを選定する以前に、人の意識や考え方、計画性、そして常識に縛られない組織風土など、アナログ要素の改善も極めて重要である。私は生産性向上コンサルティングを実践する中で、デジタルツールの導入や社内システムの開発に参画することがあり、人や組織に起因するさまざまな失敗事例を見聞きしてきた。参考までに、よく見られる「陥りやすい失敗例」を紹介しよう。
ニューノーマルな時代における生産性向上は、デジタルツールを効果的に活用していくことが必須である。とはいえ、最終的に決断・行動するのは人である。単に「便利なツールがあるらしいから、導入してみようか」といった安易な取り組みだと成果は出ない。自社に最適な業務フローをデザインし、正しいステップで計画的かつ柔軟に導入・活用して生産性向上という成果へつなげていただきたい。
デジタル技術を活用し、生産性の高い自律型組織を構築することが、サステナブル経営への第一歩です。本研究会では、デジタル(DX)とアナログ(AX)を融合させた取り組みによって、自律型企業を実現するための要諦を学びます。