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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティング メソッド 2026.03.30

建設業DXが切り開く可能性 石丸 隆太

なぜ今、建設業にDXが求められているのか

建設業は今、かつてない転換点に立っている。就業者の高齢化や入職者不足、「働き方改革」への対応、資材・人件費の高騰など、複数の課題が同時に進行しているからである。


中でも喫緊の論点は、時間外労働の上限規制への対応と、人手不足の中でも工事を止めずに回し切る体制づくりである。これは一部の先進企業だけの課題ではなく、業界全体の「存続条件」になりつつある。


特に近年、建設業界では人材不足が企業倒産の一因として顕在化している。若年層の入職者減少と高齢化による退職増により、現場の担い手は加速度的に減っている。人が足りなければ現場運営が滞り、工期遅延や品質低下が起き、収益は悪化する。さらに外注に頼らざるを得なくなれば、コスト高に陥り、利益を残せない体質が固定化する。


帝国データバンクによれば、2025年度の建設業倒産件数は2021件に上り、2000件超は2013年度以来12年ぶりとされる。現場を回すために外注を増やし、結果として利益が残らない――。この構造は、今後さらに広がり得る。加えて、現場の属人化が強い企業ほど、担当者が抜けた瞬間に工程・品質・原価管理が不安定化しやすく、トラブル対応が後追いになるというリスクも大きい。結果として「忙しいのに儲からない」という状態が慢性化する。


就労人口が減少する社会では、「人手を増やして解決する」選択肢が取りにくい。したがって、少ない人数でも回る業務設計へ転換し、現場の効率化とデータ活用による経営判断の高度化を同時に進める必要がある。


そこで鍵となるのが、DX(デジタルトランスフォーメーション)と、AIの活用を前提に業務や意思決定を再設計するAX(AIトランスフォーメーション)である。現場の生産性だけでなく、管理のやり方、学習の仕組み、意思決定の速度まで業務全般を更新する発想が求められる。


ただし、DXやAXは単なるITツール導入や紙の電子化ではない。建設業におけるDXやAXとは、現場・経営・人材の課題を同時に解きほぐし、事業運営の仕組みそのものを再設計する「経営変革」である。生成AI、ICT施工(無人化施工を含む)、電子納品などの潮流は、建設業がすでにデジタル技術と不可分な環境に入っていることを示している。


※帝国データバンク「『建設業』の倒産動向(2025年)」(2026年1月13日)




建設業DXがもたらす3つの可能性

❶ 生産性改革による省人化・効率化
―― ICT施工で「現場そのもの」を変える

最初のインパクトは、生産性改革である。建設現場は、測量・施工・出来形管理・検査・報告とプロセスが連なり、どこか一部だけの改善では全体最適に限界がある。そこで重要となるのが、現場データを起点に工程全体を変えるICT施工である。


ICT施工は、測量、施工管理、重機制御、出来形管理をデータでつなぎ、手戻りや段取りロスを減らす。結果として、工期短縮・品質安定・省人化を同時に狙える領域となる。


例えば、丁張りや誘導員の省略、出来形測定の迅速化、施工記録の自動生成など、工程の「当たり前」を置き換え、危険作業の削減や安全性向上にも波及する。施工の再現性が高まれば、熟練者の不足が品質低下に直結しにくくなるという意味でも効果が大きい。


政策面でも追い風がある。国土交通省は、建設現場の生産性向上と働き方の変革を目的としてi-Construction/インフラ分野DXを推進し、ICT施工を含む取り組みを加速するために「i-Construction 2.0」を策定している。


建設現場のオートメーション化により省人化・生産性向上を目指す方針は、業界の方向性を公的に裏付けるものである。すなわち、従来は現場の経験や人手で支えてきた業務を、データと機械(遠隔・自動化)で再設計する流れが明確になっている。今後は「できる企業がやる」段階から、「できない企業は取り残される」段階へ移る可能性が高い。


一方で、ICT施工は「導入」だけでは成果に直結しない。現場で使いこなす人材と運用体制を並走させなければ、現場は回らない。設備投資の話に見えがちだが、本質は現場運営と人材育成の一体改革である。段階的に「できること」を増やし、組織能力として定着させる発想が不可欠となる。


ここで重要なことは、現場業務を支える役割を段階的に育てる発想である。建設ディレクター体制の構築のステップとして、一般的に言われていることは次の通りである。


Stage1(工事書類)

電子小黒板アプリの導入(写真整理の効率化)、工事日報・安全書類・図面管理のクラウド化、ペーパーレス化


Stage2(先端技術)

ドローン/3Dスキャナーによる起工測量・出来形管理、ICT建機(マシンガイダンス/マシンコントロール)による自動・半自動施工、IoTセンサーによる建設機械の位置情報・稼働状況のリアルタイム集約


Stage3(ミドル・バックオフィス)

施工管理データと原価管理システム(会計・人事)の連携、クラウドを活用した一元的な情報共有基盤(データ連携)、AIによる工程管理・安全管理の予測と自動化


比較的取り組みやすい領域から成功体験を積み上げることで、ICT施工を特定の技術者だけの武器にせず、組織能力として根付かせやすくなるのである。


【図表】建設ディレクター体制の構築のステップ

【図表】建設ディレクター体制の構築のステップ

出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成


❷ 経営判断の高度化と収益力向上
―― データを「経営の言語」に変える

2つ目のインパクトは、経営判断の高度化である。工事の採算は、原価・出来高・変更・稼働といった情報がタイムリーに見えない限り、改善の打ち手が遅れる。原価情報が可視化され、案件ごとの収益を継続的にマネジメントできる状態になれば、赤字の兆候を早期に把握し、工程・体制・発注の見直しを前倒しで実行できる。


財務状況がリアルタイムに近い形で見えれば、資金繰りの予見性が高まり、投資判断の質も上がる。利益が出ているつもりでも、実は特定案件の遅延や手戻りが利益を食いつぶしている、といった「見えない損失」を減らせる点も大きい。


ここで重要なのは、現場DXと経営DXを分断しないことである。現場で取得される進捗しんちょく・品質・安全・稼働のデータが、原価・利益・資金繰りにつながったとき、初めて「経営に効くデジタル化」となる。ICT施工で生まれたデータを経営指標へ接続できれば、DXの価値は「効率化」から「収益力」へ拡張する。データを経営の言語に変えることが、利益体質への転換を支えるのである。


❸ 人材確保・定着を促す好循環
―― 生成AIで「知の継承」と「間接業務改革」を進める

3つ目のインパクトは、人材確保と定着である。建設業は人の産業であり、技能・判断・段取りといった暗黙知が価値をつくる。ここで追い風になり得るのが生成AIである。生成AIの強みは、肉体作業を直接置き換えることよりも、文章・情報・ナレッジを扱う間接業務を強力に支援できる点にある。


例えば、日報、議事録、報告書、手順書、教育資料、発注者向け説明資料など、文書中心の業務は膨大である。これらは現場監督や中堅社員の時間を奪い、長時間労働の温床にもなり得る。生成AIを活用すれば、文書作成・整理・要約・検索の負荷を減らし、品質・安全・段取りといった本来業務へ時間を戻せる可能性がある。


さらに、生成AIは技能継承にも効く。ベテランの経験が個人にひも付いたままでは、退職とともに技術が失われる。手順・判断基準・注意点を文章化し、検索できる形で残すことが重要となる。生成AIは、この標準化(マニュアル化)を加速し得る。つまり生成AIは、単なる効率化ツールではなく、人材育成と定着を支える基盤にもなり得るのである。



DXはIT導入ではなく「経営変革」である

DXが進まない企業の多くは「ツールを入れれば変わる」と考えがちである。しかし、本質は導入の可否ではなく、「どう活用し、何を変えるか」にある。ICT施工も生成AIも、導入自体がゴールではない。何を減らすのか(無駄・待ち・手戻り)/何を増やすのか(付加価値・安全・利益)を定義し、業務・人材・評価・役割分担まで含めて設計し直す必要がある。


また、現場の意見や課題を吸い上げ、経営層と現場が一体となってDXの目的とビジョンを共有しながら進めることが重要である。DXは組織文化や業務プロセスの変革を伴う取り組みであり、段階的な定着と試行錯誤することを前提に設計されるべきである。


こうしたプロセスを経ることで、効率化にとどまらず、組織の学習力や変化対応力が高まり、持続的成長の土台が形成される。現場が「使える」「助かる」と感じる小さな改善を積み上げることが、結果として大きな変革につながる。


特に生成AIは活用範囲が広い一方、社内ルールや適用範囲が曖昧だと定着しにくい。逆に、成果が見えやすい領域(文書業務、ナレッジ整備、教育・標準化)から段階的に広げれば、現場の納得感と成果を両立しやすい。


さらに、生成AIを積極的に活用することで、現場担当者の負担軽減や業務ミスの削減にもつながる。具体的には、日々の報告書作成や情報整理の自動化を進め、現場担当者がより価値の高い業務に集中できる環境を整備することも可能となる。


このように、生成AIとDXを効果的に組み合わせることで、建設業全体の競争力強化や人材確保にも大きな効果が期待できる。



中堅・中小建設業こそDXに取り組むべき理由

DXは大企業のものと思われがちだが、実際には中堅・中小ほど効果を感じやすい。意思決定が速く、現場と経営の距離が近いため、改善が成果として現れやすいからである。


全社一斉の大規模変革は難しくとも、負荷の大きい領域から優先順位を付けて着手し、小さな成功体験を積み上げる方法は取り入れやすい。むしろ、早い段階で「現場が助かった」「残業が減った」といった実感をつくれるかが、継続の推進力となる。


ICT施工は全現場への一斉導入ではなく、工種や案件特性に合わせた適用から始められる。生成AIも全社一括ではなく、文書作成、教育、標準化、ナレッジ検索といった間接業務から着手できる。


DXは「巨額投資」だけで決まるのではなく、「設計の巧拙」と「定着の運用」で成果が分かれる領域でもある。


中堅・中小建設業にとって、限られたリソースで競争力を維持・強化するには、段階的なDX推進が不可欠となる。大手に比べ、専任担当者やIT投資の余裕が少ない場合が多く、全社一斉の大規模変革は現実的ではない。そこで、現場の課題や業務負担が大きい部分から優先的にデジタル化や生成AIを導入し、小さな成功体験を積み重ねていく「段階設計」が効果的である。これにより現場の納得感と、導入後の定着率を高めつつ、徐々に取り組みを拡大することが可能となる。


また、中小企業ならではのフットワークの軽さと迅速な意思決定を生かし、現場のフィードバックをもとに柔軟にDX施策を見直すことも重要である。経営層と現場が一体となり、AXやDXの目的とビジョンを共有しながら進めることで、組織全体の変革推進力を高めることができるであろう。



これからの建設業に求められるDXの姿

これからの建設業に求められるのは、現場・経営・人材を分断せず、一体として捉える視点である。部分最適のデジタル化ではなく、会社全体の仕組みとしてDX/AXを設計し、成果(生産性・利益・働きやすさ)へ結び付ける必要がある。働き方改革は「残業を減らす」だけでは成立しない。生産性改革と、働きがい・働きやすさ改革を掛け合わせて初めて持続する。


ICT施工は、現場の省人化・安全性・品質に直接インパクトを与える。一方、生成AIは、間接業務の負担軽減、標準化、知の継承にインパクトを与える。両者がつながれば、現場は少ない人数で回るだけでなく、データと知識を武器に高付加価値化できる。国土交通省がi-Construction 2.0として示すように、建設現場のオートメーション化は政策としても推進されており、この流れは今後さらに強まる可能性が高い。


DX/AXは短期のコスト削減策ではなく、将来に向けた投資である。厳しい環境だからこそ、今どの変革に着手するかが数年後の企業価値を左右する。生成AIとICT施工を単体の「流行技術」として扱うのではなく、人・現場・経営を同時に強くする変革の部品として位置づけることが、建設業DXの成否を分けるのである。


PROFILE
著者画像
石丸 隆太
Ryuta Ishimaru

タナベコンサルティング 上席執行役員 ストラテジー&ドメイン
金融機関での業務経験を経てタナベコンサルティングへ入社。中堅企業や大企業に経営戦略全般を支援している。特に戦略策定から実行に移す際の数値・行動計画への落とし込みを一気通貫で支援することを得意としており、絵に描いた餅にならない論理的な計画策定はクライアントから高い評価を得ている。