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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2019.03.29

顧客の価値観を先取りする「未来型アパレルビジネス」の創造:森田 裕介

未来の顧客が求めるアパレルビジネスモデルとは

 

 

直近の変化だけではなく、顧客の価値観を先取りしたビジネスモデルにイノベーションできるか――。時間軸としても最低、10年先は考えたい。

 

そこで、業界におけるビジネスモデルの成功パターンとして4つのモデルを提言したい。

 

 

1.ジャパンブランドモデル

国内メーカー、また国内ブランドはいま一度、自社の存在価値を再定義する時期に来ている。存在価値とは、世の中が求めていることと自社の持ち味との接点にあり、役割や使命を指す。

 

世の中や顧客が求めていることが変われば、当然、自社の存在価値は低下していく。自社が世の中からなくなると、どういったことで社会や顧客が困るか、徹底して追求する必要があるのではないか。本特集で紹介したライフスタイルアクセントは、国内工場の自立化支援を掲げ、ジャパンブランドの価値向上を存在価値としている。

 

近年では、一般社団法人日本ファッション産業協議会が主導する「J∞QUALITY制度」が代表的だ。織り・編み、染色整理加工、縫製、企画・販売という4つの工程を全て国内で行った、純正の日本製アパレルであることを示す新しい認証制度である。ぜひ、自社・自ブランドの存在価値を再定義し、日本全体で「メード・イン・ジャパン」を再興したい。

 

 

2.カテゴリーキラーモデル

カテゴリーキラー(特定分野商品を豊富に品ぞろえし、低価格で販売する業態)の成長が注目されて久しい。しかしながら、自社でも取り組みたいのに踏み切れないという経営者が多い。これは特化すること、他をやめることで、業績が著しく低迷することへの懸念を払拭できないからである。

 

何でもあることを特長に謳う企業は、何一つ顧客から選ばれることがないという裏返しである。バリュープランニングでは、女性用ストレッチパンツに特化した「B-Three」という直営店を展開している。店舗には腰が曲がったマネキンに同社商品を着用させ、屈んでも下着が見えない商品特性を顧客へ伝えている。

 

さらに女性用ストレッチパンツで認知度を高めた後、男性用ストレッチパンツへと商品を展開。良い意味で尖ったビジネスモデルを形成することも必要である。

 

 

3.事業革新モデル

「ジャーナルスタンダード」や「イエナ」、「エディフィス」などのアパレルブランドを展開するベイクルーズグループは、「衣食住美」を事業領域として掲げ、業容を拡大させている。アパレルブランドにとどまらず、食分野ではカフェレストランをはじめとする複数の外食業態、住分野では2つのインテリア業態、美分野ではフィットネススタジオを展開する。

 

さらには、グループ会社であるWILLWORKSではファッション分野への人材派遣業を展開し、社会課題である人材不足の解決策を提供している。成熟環境下にある自社のビジネスをどう革新していくか、親和性のある成長領域へとシフトを考えねばならない。

 

 

4.プラットフォームモデル

ZOZOの「ZOZOTOWN」に代表されるビジネスモデルである。プラットフォームを構築することにより、企業、消費者が自然と集まってくる。また、エアークローゼットが展開するファッションレンタルサービス「airCloset」は、普段着を月額制でレンタルできる、業界の常識を覆したビジネスモデルだ。

 

このプラットフォームモデルは、特にシステム系のベンチャー企業が多く参入しており、アパレル業を本業とする企業にはなかなかハードルが高い。キーワードは「集める」から、「集まる」。いかにパートナー先を早期に見つけ、アライアンスによってビジネスモデルを構築していくかが鍵である。

 

 

5.ファッションテックモデル

今、多くの産業で注目されている「×Tech」は、アパレル業界では「ファッションテック」と呼ばれている。この登場によって、アパレルにおける価値観が「モノからコトへ」「所有から共有へ」「自前から連携へ」と変化をたどっている。

 

前述した通り、AIやVR、ロボットといった成長著しい最先端技術を自社のビジネスモデルに取り入れ、業界の価値観そのものを自社が先行して変えていく、創っていく発想が重要である。既存の概念にとらわれず、業界の非常識に挑戦していくことが大事だ。この分野への参入に際し、かかる費用をコストではなく、戦略投資として考えることが肝要である。

 

アパレル業界はスタートアップ企業の台頭が目覚ましい。前述したビジネスモデルのうち、プラットフォームモデル、ファッションテックモデルで成功する企業のほとんどはスタートアップ企業だ。老舗企業ほど、台頭するスタートアップ企業の秀逸なビジネスモデルから学びを得ることが肝要である。

 

最後に、アパレル企業のビジネスモデルイノベーションに向けた着眼を【図表2】にまとめた。ぜひ、未来の顧客の価値観を先取りしたビジネスモデルを創造していただきたい。

 

 

【図表2】
アパレルビジネスモデルにおけるイノベーションの着眼点

⇒業界の非常識に挑戦する

アパレル業界はスタートアップ企業の台頭が目覚ましく、その共通点はいずれも業界の非常識に挑戦していることにある。まずは業界の常識を疑うことが肝要である。

⇒自前主義を取っ払う

業界内ではアライアンス(提携)によるビジネスイノベーションが多く存在する。自社では対応できない事業・商品・サービスはアライアンスによってノウハウを補完する。

⇒成長市場へシフトする

アパレル業界は成熟市場でありながら、いまだ多くの成長市場が存在する。既存事業の革新や新規事業の開発など、成長市場をいかに取り込むかが鍵である。

⇒収益構造の抜本的見直しを行う

業種的に収益が流行や季節要因に左右されやすい。いかに固定的な収益基盤を確保できるかが、収益安定化のポイントとなる。

 

 

PROFILE
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森田 裕介
Yusuke Morita
タナベ経営 経営コンサルティング本部 部長 戦略コンサルタント。大手アパレルSPA企業での経験を生かし、小売業の事業戦略構築、出店戦略、店舗改革を得意とする。理論だけでなく、現場の意見に基づく戦略構築から実行まで、顧客と一体となった実践的なコンサルティングを展開。「お客さまに喜んでいただけるまで妥協しない」をモットーに、業績向上を図っている。