•  
コンサルティング メソッドのメインビジュアル
コンサルティング メソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティング メソッド 2019.03.29

顧客の価値観を先取りする「未来型アパレルビジネス」の創造:森田 裕介

 
アパレル業界の環境を一言で言うと、「内需は縮小するも、急速な技術革新と顧客価値の変化で潜在的ビジネスチャンスが到来」となる。“アパレル業界=成熟市場”であることは誰もが知るところであるが、まだチャンスは多く存在している。そのチャンスを的確につかみ、自社のビジネスモデルでイノベーションを起こせるかが生き残りの鍵と言える。
    201904_01_method_01   【図表1】 アパレル業界の課題
⇒メーカーの課題
1.多品種小ロット、短納期対応の弊害による繁閑差の拡大
2.協力工場の減少
3.労働力の減少
⇒流通業(卸売・小売)の課題
1.売れ残りとセールの悪循環
2.商品開発力の低下
3.サプライチェーンの脆弱化
4.オムニチャネル化への対応
 
 
アパレル業界における3つの危機
 
1.マーケットサイズの縮小 経済産業省の報告書(「繊維産業の課題と経済産業省の取組」、2018年6月)によると、アパレルの国内市場規模はバブル期(1991年)の約15兆円をピークに、2016年には約10兆円と25年間で3割も縮小したという。   一方、アパレル国内供給量は同期間で約20億点から約40億点へと倍増している。市場規模縮小・国内供給量拡大という2つが意味することは、直近の衣料品購入単価が1991年に比べて6割前後の水準まで下落しているということだ。   アパレルの総小売市場規模(矢野経済研究所調べ)を見ると、2010年の8.9兆円から2016年で9.2兆円と拡大基調にあるが、これはユニクロ(ファーストリテイリング)やしまむらをはじめとする大手専門店チェーンが業績を伸ばしただけであり、中堅・中小企業はその恩恵を受けていない。   1世帯当たりの「被服及び履物」の年間消費支出額(総務省「家計調査」、農林漁家世帯を除く2人以上の世帯)も、1991年の約30万円から2016年は約14万円と半減した。消費マインドの低下に歯止めがかからない状況である。   2.国内メーカーの存在価値の低下
   
前述した経済産業省の報告書から、アパレルの国内生産の状況を見てみよう。国内繊維産業の事業所数と製造品出荷額の推移を見ると、2015年時点で、1991年の約4分の1の規模に減少している。一方、国内アパレル市場における輸入浸透率は上昇を続けており、2017年には97.6%まで増加した。海外生産へのシフトにより、いまやアパレルの国内生産比率は3%を割り込む水準となっている。   それに伴い、多くの国内メーカーが淘汰され、アパレル業界においては日本のものづくりの良さが失われつつある。また、生き残った国内メーカーにおいても、海外生産と同水準を求められ、多品種小ロットや短納期対応に迫られるといった多くの課題を抱えている。   3.低収益構造   アパレル業界の特性の一つとして挙げられるのが、「低収益構造」である。これは近年、価格競争も相まって、その傾向がますます顕著である。帝国データバンクの調査(「アパレル関連企業の経営実態調査」、2017年10月)によると、アパレル関連企業の2016年度の売上高経常利益率(平均)は1.24%。このうち卸売が1.5%、小売に至っては0.6%と極めて低い。 これまで述べてきたように、アパレル業界は伸び悩みが続く成熟期にある。加えて【図表1】に示す課題を抱えており、これらの解決とともに抜本的なビジネスモデルイノベーションにかじを切る必要がある。
   
潜在的チャンスをつかむ
  とはいえ、成熟市場においても「潜在的チャンス」は多く存在する。そのチャンスをいかに的確につかみ、自社のビジネスモデルへどう反映するかが重要である。国内と海外の2つの視点で、そのチャンスを見ていこう。   1.国内のチャンス 国内アパレルの周辺分野を含めた成長マーケットは、AI、VR(バーチャル・リアリティー)、ロボット、ウエアラブルデバイスなどの最先端技術が筆頭である。2025年に開催される大阪万博(日本国際博覧会)では、VRで全世界より80億人の来場が予測されるという。   実際、アパレル業界においてもVRの活用が進んでおり、Psychic VR Lab(サイキックVRラボ、東京都新宿区)では、ファッション分野におけるVRビジネスを展開している。VRゴーグルを装着することで、展示会やファッションショーをその場で服の質感までリアルに認識することができる。家にいながら百貨店で買い物をするといった、アパレル商品の購買の在り方に革新が起こる日も近いかもしれない。   そのほか、高機能素材やEC(電子商取引)、インバウンドも拡大市場である。自社が属する市場は成長しているのか衰退しているのか、その見極めが重要となる。     2.海外のチャンス 内需は縮小するが、外需は拡大する。世界の人口は増加基調にあることから、海外におけるアパレル市場は拡大していく。しかし、日本は他国と比べ輸出戦略で大きな後れをとっている。国内生産比率が低下しているため、それは必然なのかもしれないが、いま一度、アパレルにおける「メード・イン・ジャパン」の品質の高さやストーリー性、ブランド価値を世界に伝えていきたい。   また海外には、秀逸なビジネスモデルを有するアパレル企業が多く存在する。レンタルやシェアリング、プラットフォーム型ビジネスといった日本でも注目される企業のビジネスモデルは、海外が先発である。いかに海外へ目を向けていくかがポイントになる。     3.「アパレル×○○」のビジネスモデルでイノベーションを起こす 国内・海外を含めて、成長市場をいかにして自社のビジネスモデルに取り込むかが成長の鍵となる。その視点は、「アパレル×○○」によるビジネスモデルのイノベーションである。   201904_01_method_02    
未来の顧客が求めるアパレルビジネスモデルとは
   
直近の変化だけではなく、顧客の価値観を先取りしたビジネスモデルにイノベーションできるか――。時間軸としても最低、10年先は考えたい。   そこで、業界におけるビジネスモデルの成功パターンとして4つのモデルを提言したい。     1.ジャパンブランドモデル 国内メーカー、また国内ブランドはいま一度、自社の存在価値を再定義する時期に来ている。存在価値とは、世の中が求めていることと自社の持ち味との接点にあり、役割や使命を指す。   世の中や顧客が求めていることが変われば、当然、自社の存在価値は低下していく。自社が世の中からなくなると、どういったことで社会や顧客が困るか、徹底して追求する必要があるのではないか。本特集で紹介したライフスタイルアクセントは、国内工場の自立化支援を掲げ、ジャパンブランドの価値向上を存在価値としている。   近年では、一般社団法人日本ファッション産業協議会が主導する「J∞QUALITY制度」が代表的だ。織り・編み、染色整理加工、縫製、企画・販売という4つの工程を全て国内で行った、純正の日本製アパレルであることを示す新しい認証制度である。ぜひ、自社・自ブランドの存在価値を再定義し、日本全体で「メード・イン・ジャパン」を再興したい。     2.カテゴリーキラーモデル カテゴリーキラー(特定分野商品を豊富に品ぞろえし、低価格で販売する業態)の成長が注目されて久しい。しかしながら、自社でも取り組みたいのに踏み切れないという経営者が多い。これは特化すること、他をやめることで、業績が著しく低迷することへの懸念を払拭できないからである。   何でもあることを特長に謳う企業は、何一つ顧客から選ばれることがないという裏返しである。バリュープランニングでは、女性用ストレッチパンツに特化した「B-Three」という直営店を展開している。店舗には腰が曲がったマネキンに同社商品を着用させ、屈んでも下着が見えない商品特性を顧客へ伝えている。   さらに女性用ストレッチパンツで認知度を高めた後、男性用ストレッチパンツへと商品を展開。良い意味で尖ったビジネスモデルを形成することも必要である。     3.事業革新モデル 「ジャーナルスタンダード」や「イエナ」、「エディフィス」などのアパレルブランドを展開するベイクルーズグループは、「衣食住美」を事業領域として掲げ、業容を拡大させている。アパレルブランドにとどまらず、食分野ではカフェレストランをはじめとする複数の外食業態、住分野では2つのインテリア業態、美分野ではフィットネススタジオを展開する。   さらには、グループ会社であるWILLWORKSではファッション分野への人材派遣業を展開し、社会課題である人材不足の解決策を提供している。成熟環境下にある自社のビジネスをどう革新していくか、親和性のある成長領域へとシフトを考えねばならない。     4.プラットフォームモデル ZOZOの「ZOZOTOWN」に代表されるビジネスモデルである。プラットフォームを構築することにより、企業、消費者が自然と集まってくる。また、エアークローゼットが展開するファッションレンタルサービス「airCloset」は、普段着を月額制でレンタルできる、業界の常識を覆したビジネスモデルだ。   このプラットフォームモデルは、特にシステム系のベンチャー企業が多く参入しており、アパレル業を本業とする企業にはなかなかハードルが高い。キーワードは「集める」から、「集まる」。いかにパートナー先を早期に見つけ、アライアンスによってビジネスモデルを構築していくかが鍵である。     5.ファッションテックモデル 今、多くの産業で注目されている「×Tech」は、アパレル業界では「ファッションテック」と呼ばれている。この登場によって、アパレルにおける価値観が「モノからコトへ」「所有から共有へ」「自前から連携へ」と変化をたどっている。   前述した通り、AIやVR、ロボットといった成長著しい最先端技術を自社のビジネスモデルに取り入れ、業界の価値観そのものを自社が先行して変えていく、創っていく発想が重要である。既存の概念にとらわれず、業界の非常識に挑戦していくことが大事だ。この分野への参入に際し、かかる費用をコストではなく、戦略投資として考えることが肝要である。   アパレル業界はスタートアップ企業の台頭が目覚ましい。前述したビジネスモデルのうち、プラットフォームモデル、ファッションテックモデルで成功する企業のほとんどはスタートアップ企業だ。老舗企業ほど、台頭するスタートアップ企業の秀逸なビジネスモデルから学びを得ることが肝要である。   最後に、アパレル企業のビジネスモデルイノベーションに向けた着眼を【図表2】にまとめた。ぜひ、未来の顧客の価値観を先取りしたビジネスモデルを創造していただきたい。     【図表2】 アパレルビジネスモデルにおけるイノベーションの着眼点
⇒業界の非常識に挑戦する
アパレル業界はスタートアップ企業の台頭が目覚ましく、その共通点はいずれも業界の非常識に挑戦していることにある。まずは業界の常識を疑うことが肝要である。
⇒自前主義を取っ払う
業界内ではアライアンス(提携)によるビジネスイノベーションが多く存在する。自社では対応できない事業・商品・サービスはアライアンスによってノウハウを補完する。
⇒成長市場へシフトする
アパレル業界は成熟市場でありながら、いまだ多くの成長市場が存在する。既存事業の革新や新規事業の開発など、成長市場をいかに取り込むかが鍵である。
⇒収益構造の抜本的見直しを行う
業種的に収益が流行や季節要因に左右されやすい。いかに固定的な収益基盤を確保できるかが、収益安定化のポイントとなる。
 
 
PROFILE
著者画像
森田 裕介
Yusuke Morita
タナベ経営 経営コンサルティング本部 部長 戦略コンサルタント。大手アパレルSPA企業での経験を生かし、小売業の事業戦略構築、出店戦略、店舗改革を得意とする。理論だけでなく、現場の意見に基づく戦略構築から実行まで、顧客と一体となった実践的なコンサルティングを展開。「お客さまに喜んでいただけるまで妥協しない」をモットーに、業績向上を図っている。 ?