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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2018.10.31

「人生100年時代」の成長ドメイン開拓:ヘルスケアビジネス成長戦略研究会

成長市場「QOL」を攻略する4つの戦略モデル

 

では、人生100年時代に対応するため、どのようにQOLマーケットを攻略すればよいのか。「脱コモディティー」の事例を基に、攻略に向けた4つのアプローチ・戦略を次に紹介する。

 

(1)「思い出づくりマーケット」攻略モデル

フォレストコーポレーション(長野県伊那市)は、思い出づくりマーケットモデルの好例である。他社とは一線を画す顧客体験(思い出)を売ることで、年間100棟もの住宅を販売している。

具体的には、「自分の山の木で家をつくる」「自分が選んだ山の木で家をつくる」「ひと手間工房で、住まいの建材・インテリアをつくる」など、施主参画型のメニューで家づくりを家族に体感してもらっている。これによって家づくりが物語になり、住まいが宝物となっている。

 

(2)「健康・自立マーケット」攻略モデル

ワイズは脳血管疾患後遺症に特化し、『脳梗塞リハビリセンター』を展開する企業である。通常、リハビリは医療・介護施設で行うものだが、「株主総会に出たい」「コンサートに行きたい」「フルマラソンを3時間台で完走したい」など、皆と同じ医療・介護サービスでは満足できない“リハビリ難民”が少数ながら存在する。

 

同社のビジネスは、病院の入院患者のうち12%しかいない脳血管疾患入院患者、さらに上位5%(全国に7.5万人しか存在しない患者)をターゲットとした、超特定少数向けビジネスである。個別の症状や目標に合わせた、完全マンツーマンのリハビリが行われる。短期間で社会復帰を実現させるサービスはどこにもないため、1クール30万円弱と高額にもかかわらず、全国から利用者を獲得できる。

 

(3)「つながり消費マーケット」攻略モデル

つながり消費マーケット攻略(現役世代から親世代、シニア世代から孫世代)の好例が、チカク(東京都渋谷区)である。スマートフォンで撮影した子どもの動画や写真が、離れて暮らす祖父母の家のテレビにすぐ届くサービス「まごチャンネル」(月額利用料980円)を提供している。同社はサービス開始に当たってクラウドファンディングで資金を募集したところ、支援額が当初予定の約6倍も集まったという。

 

インターネット環境の用意や複雑な接続作業をせずとも、同社の端末をテレビにつなぐだけで子ども・孫の写真や動画を見ることが可能。「孫が毎日のように家に遊びに来ているような体験」を、ITリテラシーの低いシニア世代が享受できるとあって大人気である。

 

その他では、かつら・ウイッグを手掛けるユキ(愛知県蒲郡市)も、つながり消費マーケット攻略モデルの成功例だ。実際の購入者は60~90歳の女性だが、購入を後押しする現役世代の娘をメインターゲットに低価格路線で参入。アデランスやアートネイチャーという2強とは異なる市場・チャネルを攻略することで、大手2強の切り崩しに成功している。

 

(4)「自己実現・王道マーケット」攻略モデル

人生100年時代対応のQOLマーケット攻略モデルの4つ目は、自己実現(QOL)支援、すなわち王道のマーケット攻略モデルである。

例えば、キャンピングカー市場が年々拡大し、2017年の総売上金額は約425億円(日本RV協会調べ)と過去最大規模に成長している。「夫婦2人で旅行を楽しむ」ための手段としてシニア層に人気で、キャンピングカーの機動力を活用した「温泉地巡り」「農産物直売所巡り」「公共交通機関ではアクセスしづらい観光地巡り」などがブームとなっている。

 

また、旅行会社のクラブツーリズム(東京都新宿区)が提供する「企画型旅行」も、このモデルである。尖とがったテーマの旅行商品を会員誌『旅の友』で提供し、会員数は首都圏を中心に800万人。現役時代に一般的なことは一通りやり尽くした、元気なシルバー層を中心にファンを抱えている。

 

「QOL」という成長市場を攻略する4つの戦略モデルを示したが、共通するキーワードは「脱コモディティー(代えが利かない)」である。繰り返しになるが、日本はこの100年で、人口が7000万人増加し、平均寿命は約40歳延び、1人当たりGDPは約20倍に成長し、一気に成熟社会へと突入した。量的豊かさを実現し、モノ・情報が自由に手に入る社会の成熟ステージにもかかわらず、質的な豊かさが足りないが故にレベルの高い消費を引き出せていない。それが今の日本である。

 

コモディティーから脱し、「個の多様なニーズに刺さるユニークな事業・サービス」で、人生100年時代の成長ドメインに存在する無数のビジネスチャンスへ挑戦していただきたい。