【図表2】DXを推進すべき4つの領域
ビジネスにおけるワクチン(ソリューション)とは何か
したがって、今後のグローバルな社会課題の解決に対しては、ワクチンに匹敵するソリューションを生み出すための戦略投資をしなければならないのです。実はスマホやZoomのようなDXツールもそれに匹敵します。
残念ながら有事の時、個人ができる貢献には限界があります。経営者リーダーシップに優れた民間企業へ投資し、各国政府はそれを最大限にバックアップすることが必要なのです。世界的な戦略投資分野として考えられるのは、次の6つです。
1.DX投資
医療分野のデジタル化(メディカルテック)が、世界的に大幅に遅れていることが露呈しました。DX領域は、ビジネスDX、マーケティングDX、バックオフィスDX、ヒューマンリソースDXの4つに大きく分かれる(【図表2】)と考えていますが、全てにおいて国家間、地域間、企業間で格差が大きいのが現実です。これはソリューションニーズが高いことを意味しています。自社のDX戦略投資の方向性を確認いただきたいと思います。
2.BtoBデジタルマーケティング
4つの領域の中で最も必要性が高く、明暗が分かれるのがマーケティング分野です。このことは、消費財を最終消費者に届けるBtoCモデルにおいて特に鮮明になりました。EC比率の高い企業の業績は崩れなかったのに対して、リアルに依存している会社は倒産にまで追い込まれたのです。
BtoBの場合は、さらに格差が大きくなっています。米国・インド・中国・英国・ドイツも同様とのことでしたので、やはり「世界同時リセット」であることを強く体感した分野です。このままでは、世界中のBtoB企業のクロスボーダー(国際間)取引が進まず、売り上げが上がらずにジリ貧になる可能性もあります。
3.クロスボーダーM&A
「新規事業を立ち上げたい。そうしなければ自社に未来はない」。そう言って海外展開を進めている中堅企業の社長から、最近、相談を受けました。今の考えを伺うと、「社員を集めて製品開発チームを立ち上げ、試作を繰り返し、新しいマーケットを攻略するために、新しいパートナー企業を見つけて交渉していく予定です」とのことでした。
残念ながら、このシナリオは平時の開発シナリオであると言わざるを得ません。「クロスボーダー(海外)M&Aも含めて、資本提携・M&Aを戦略オプションに入れてください」とアドバイスしました。渡航どころか国内での外出もままならない状況で、今、ゼロから開発や交渉をスタートして、市場ニーズに合ったタイミングで開発・供給できるイメージが持てなかったからです。もちろん、自社開発の努力は必要なのですが、海外向けの商品となると、なおさら戦略オプションが必要です。この現象も、どの国においても起きているので、M&A戦略はグローバルに加速していくことになります。
4.HR╱コミュニケーションテック
今回のワールドレポートでは、米ニューヨークにおいてはオフィスビルが1棟丸ごと封鎖され、借りている自社オフィスに立ち入れないことが多いようでした。出社3割、テレワーク7割といったテレワーク比率の問題ではなく、全社員をテレワークにしなければ会社が経営できない状況です。結果、郊外へ移住するニューヨーク市民が増えています。では、組織の生産性が落ちたかというと、落ちていない。「できる」ということなのです。
海外出張に行く際、以前は何カ月も前から準備し、現地に着いたら分刻みのスケジュールをこなしていましたが、Zoomの導入で状況は一変しました。今後は、自国にいながらビデオ会議できめ細かくコミュニケーションを取って、必要な場合だけ現地を訪問するスタイルが定着するでしょう。
こうしたグローバルコミュニケーションの様変わりも、あらゆる企業にとって大きなチャンスなのです。したがって、企業のHR╱コミュニケーションテックへの投資はまだまだ必要です。DX経営へ振り切らないと、組織の生産性は向上しません。
5.サプライチェーン・バリューチェーンの新しいデザイン
世界的なリスク分散投資が鮮明になってきました。先ほど述べたように、ワクチンをはじめとする多国間取引や連携を、どの国とやっていくべきかが明確になってきたのです。
例えば、半導体などの世界的なサプライチェーンの停止や分断も、その1つです。サプライチェーンのデザイン次第で、自動車や電気製品が製造できなくなる恐れすらあります。
同盟国以外のマーケットを攻略することに変わりはないのですが、サプライチェーンやバリューチェーンとして依存し過ぎる関係は再構築しなければなりません。戦略的なリスク分散投資が必要であり、それはBCP(事業継続計画)投資でもあるのです。これは、ブランド力・価格力・品質力・物流力の全てと、その投資比率を見直さなければならないほどの変革を意味しています。
6.2030年に向けて環境・社会・統治からSDGs投資へ
SDGs(持続可能な開発目標)は、2030年までに17のゴール(目標)を達成することを目指すものです。この17の目標はもともと世界的な戦略投資テーマでしたが、新型コロナのパンデミックの影響により、これらへの投資(ESG投資)はさらに加速するでしょう。どの分野に投資していくかを、フューチャービジョン(中長期計画)で実装する技術が、企業にとって不可欠となってくるのです。(Vol.5へ続く)