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コラム
TCG社長メッセージ
タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
コラム 2021.06.01

ウィズコロナでアップデートする世界:総括 前編【Vol.4】

コロナ禍によって世界中のフォーマットが変容を求められる中、経営者はコロナ後のニューノーマル(新常態)といかに対峙すべきか。本誌では、過去3回(2021年3~5月号)にわたって、タナベコンサルティンググループのトップである若松孝彦が、世界5カ国のビジネス専門家とZoomで行った緊急ディスカッションを「ワールドレポート」としてお伝えした。今回と次回(7月号)は総括として提言をお届けする。
   
タナベコンサルティンググループ タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦 タナベ経営グループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず、上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。     DXが可能にした「ワールドレポート」   コロナショックの直後、本誌2020年5~9月号の5回連載で行った緊急提言「今こそ、経営者リーダーシップの発揮を」には、多くの読者の皆さまから「勇気付けられた」「提言を参考に取り組んだ」といった声を頂きました。   今回の「ワールドレポート」は、タナベコンサルティンググループの使命として、今こそ、世界的視野から日本を俯瞰しながら、世界のビジネス状況の一端をクライアントへ届けるべきだと考えて試みた企画であり、前述した緊急提言Vol.4~5「日本経済編」の続編、「グローバル編」という位置付けです。今回と次回で、2021年3~5月号(VOL.1~3)の“世界一周レポート”を総括し、新たな提言を行います。これまでのレポートと併せてお読みいただければ幸いです。   今回のZoomの旅では、ニューヨークとシリコンバレー(米国)、ニューデリー(インド)、上海(中国)、ロンドン(英国)、ベルリン(ドイツ)という海外5カ国を短期間で訪れ、各国のビジネス専門家とディスカッションを行いました。DX(デジタルトランスフォーメーション)の成せる業であり、「距離と時間が急速に縮まるビジネスの新しい可能性」を感じたディスカッションでした。「DX恐るべし」です。   米マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏は、2020年5月にオンラインで開催した「Build 2020」の基調講演において、「この2カ月で2年分のデジタル変革が起きた」と語りました。まさにその通りであり、平時であればこれほど迅速な変革は起こらなかったのではないでしょうか。DXはコロナ禍が生みだしたアップデート現象の1つなのです。     「世界同時リセット」という新しい現実   先に結論を言えば、今回のパンデミックの影響による「世界同時リセット」が、「社会貢献価値の最大化」というアップデートを企業に求めているということです。「リセット」には、「元の状態に戻す」「切り替えるためにもう一度スタート位置に立つ」「元の位置から始める」という意味があります。   主要国の首相やリーダーがパンデミックに対して発信している声明などを振り返ると、世界の現実を理解できますし、リセット後にアップデートする方向性を示唆しています。   ドイツのメルケル首相:感染拡大初期の2020年3月に「東西ドイツの統一以来、いや第二次世界大戦以来、これほど団結が求められる試練は初めてだ」「この危機は必ず乗り越えられる。ただ、大切な人を何人失うことになるかは、私たち自身の行動にかかっている」と国民に訴えました。   フランスのマクロン大統領:2020年4月、「新型コロナウイルスのパンデミックには資本主義を作り変える力があると考えている」と言い、今の状況は「想像もできなかった」が、全ての国は今こそ「何か新しいものを発明しなければならない」と語りました。   英国のジョンソン首相:2020年3月の声明で「私は英国民に対して正直に言わなければならない。より多くの家族が、彼らの愛する人たちを寿命に先立って失うことになる」と話しました。   米国のバイデン大統領:2021年1月の執務初日、7項目のコロナ対策を発表し、この感染症と戦うには「戦時のような努力」が必要だと語りました。また、自分は科学に従って行動すると誓い、透明性と説明責任に価値を置いた政府対応を約束。7項目の対策の一部は、大統領令によってすでに実行に移されています。   グローバル経済を語るとき、地理・人種・気候・宗教など、その国特有の変数を挙げれば切りがありません。しかし、コロナパンデミックは、それらのどれよりもプライオリティー(優先順位)が高い状態で、世界中で同時に起きています。確かに、第二次世界大戦以来、世界の課題がこれほど同時に、共通になったことはありません。この危機に対して「VS人類」で戦わなければならないのが現実です。   本レポートのためにディスカッションしたどの国でも、感染拡大による外出禁止(自粛)で旅行ができないことや、観光・宿泊、交通、外食の不振と倒産が相次いでいること、医療崩壊やその危機が訪れていることを知り、「新しい現実」が同時化していると再確認しました。今の日本国内の課題と変わらない状況ですが、感染者数が圧倒的に多いため、ひっ迫の度合いも格段に大きい。これが「世界同時リセットの理由」だと分析しています。           【図表1】各国の新型コロナウイルス感染状況
出所:WHO(世界保健機関)新型コロナウイルス ダッシュボード(2021年4月19日現在)
    リセット後にアップデートする世界へ   アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ氏の開発したスマートフォン「iPhone」が世界に普及して人類のコミュニケーションは一変しました。コロナ禍においてもスマホの果たした役割は計り知れません。また、松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助氏は、「生産者の使命は貴重なる生活物資を、水道の水のごとく無尽蔵たらしめることである」と考えて家電製品の普及に努めました。この経営哲学は「水道哲学」と呼ばれています。   しかし、今回のパンデミックでは、それらを上回る商品、世界中が切望する商品が登場しました。それが新型コロナの「ワクチン」です。世界70億人が生き残るために切望される商品であり、なくてはならない唯一無二の価値となりました。まさに、地理・人種・気候・宗教などの違いを乗り超える「究極のソリューション」となったのです。   このソリューションの出現によって、世界経済は歴史的な転換期を迎えることになります。それがリセット後の世界を決めるとも言えそうです。ポイントを3つ、指摘します。     1.一国主義から戦略的同盟強化の時代へ   米ファイザー社のワクチンは、結果的に米国の同盟国に優先して届いています。米国・英国・EU、そして日本などです。西側諸国と東側諸国のどちらを優先しているかと言えば、西側諸国の同盟国です。   これが現実であり、ビジネスベースの自由貿易協定(経済圏)とは別次元のパワーバランスです。貿易収支や関税問題とは別次元の交渉になっています。なぜなら西側諸国は、自由・民主主義・人権といった同じ価値観を共有する同盟国だからです。すなわち「自由経済圏<同盟国」という現実です。今後は、どの国との関係を強化するか、その中でどのようなポジションを確保できるかで日本の今後が決まるでしょう。   世界から見ると日本は感染者数が少ないため(【図表1】)、ワクチンの供給が遅れ、結果、接種も遅れています。しかし、ワクチンを自国で開発できない国でありながら、最終的に全国民の接種2回分のワクチンが届くことを確約されていること自体、「恵まれている」とも言えるのです。   今後は、日本が速やかにワクチンを独自開発できるようにすることが当然の取り組みであり、戦略投資です。なぜなら、世界で日本ほどの経済規模を持った国家(および企業)は、ワクチンというソリューションで世界に貢献できる国でなければならないからです。それは国家安全保障の問題でもあるのです。     2.社会課題を解決するESG投資と国際ワクチンファンドの創設   裏を返せば、WHO(世界保健機関)のような組織が有事には機能しにくいことを意味しています。今回のパンデミックでそれが露呈しました。すなわち、中立的な機関というものは、有事には機能しないということです。これはイデオロギーの問題ではなく、最終的な責任の所在が明確ではない組織だからです。平時には機能しても、残念ながら有事では機能しにくい組織なのです。今後、感染爆発が予測される国々に対しても、何もできない可能性があります。   もちろん、こうした機関や国の支援は必要なのですが、感染予防やワクチン接種などに対する支援活動は、民間企業や一部の富裕層(経営者)、各国政府が一体となったESG投資や、基金・ファンドの立ち上げによって担われていくことになります。   ESG投資とは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に対する企業の取り組みを重視して投資する活動のことです。それぞれの言葉の頭文字から「ESG投資」と呼ばれます。環境問題の解決や労働条件の改善へ主体的に取り組む企業が評価され、こうした企業が業容を拡大することで、社会全体の持続可能性(サステナビリティー)が高まることを期待する投資です。   現時点で、パンデミックという世界的な社会課題の解決者は、ファイザーという民間企業(経営者)であり、政府でもWHOでもなかったということです。     3.民間企業への世界的戦略投資を加速する   私は有事の際、過去のある出来事を思い出します。2011年3月11日に起きた東日本大震災の数カ月後。当社のファウンダー(創業者)故・田辺昇一から「若松さん、今こそ、経営者を元気にしてください。それがビジネスドクターの仕事であり、私たちの使命です。日本を復活させるのは政府ではなく、経営者・社長・企業家ですよ」と激励されたことです。   それから10年たった今年、その通りだという実感を持つに至りました。繰り返しますが、ファイザー社は民間企業です。一企業のCEOが、世界中の首脳と交渉する構図が出来上がっています。ワクチンの開発、それを運ぶ物流やサプライチェーン、患者を受け入れる病院とワクチンを注射する医師・看護師も、大半は民間企業とその人材です。民間企業の経営者リーダーシップや従業員のチームワークによって、世界が救われているのです。   今後は、このチームワークやサプライチェーンがESGマーケットの一部と捉えられ、戦略投資されるようになります。今の日本は、水・電気・通信、そしてiPhoneと同等の価値の商品(ワクチン)を自国で生産できない、危機的な状態であることを自覚し、他国からワクチンが届けられる国際関係を維持している間に、ワクチンの開発・生産・供給体制を民間主導で確立できるよう、政府が規制改革を含めてサポート、バックアップする必要があるのです。       【図表2】DXを推進すべき4つの領域
    ビジネスにおけるワクチン(ソリューション)とは何か   したがって、今後のグローバルな社会課題の解決に対しては、ワクチンに匹敵するソリューションを生み出すための戦略投資をしなければならないのです。実はスマホやZoomのようなDXツールもそれに匹敵します。   残念ながら有事の時、個人ができる貢献には限界があります。経営者リーダーシップに優れた民間企業へ投資し、各国政府はそれを最大限にバックアップすることが必要なのです。世界的な戦略投資分野として考えられるのは、次の6つです。   1.DX投資   医療分野のデジタル化(メディカルテック)が、世界的に大幅に遅れていることが露呈しました。DX領域は、ビジネスDX、マーケティングDX、バックオフィスDX、ヒューマンリソースDXの4つに大きく分かれる(【図表2】)と考えていますが、全てにおいて国家間、地域間、企業間で格差が大きいのが現実です。これはソリューションニーズが高いことを意味しています。自社のDX戦略投資の方向性を確認いただきたいと思います。   2.BtoBデジタルマーケティング   4つの領域の中で最も必要性が高く、明暗が分かれるのがマーケティング分野です。このことは、消費財を最終消費者に届けるBtoCモデルにおいて特に鮮明になりました。EC比率の高い企業の業績は崩れなかったのに対して、リアルに依存している会社は倒産にまで追い込まれたのです。   BtoBの場合は、さらに格差が大きくなっています。米国・インド・中国・英国・ドイツも同様とのことでしたので、やはり「世界同時リセット」であることを強く体感した分野です。このままでは、世界中のBtoB企業のクロスボーダー(国際間)取引が進まず、売り上げが上がらずにジリ貧になる可能性もあります。   3.クロスボーダーM&A   「新規事業を立ち上げたい。そうしなければ自社に未来はない」。そう言って海外展開を進めている中堅企業の社長から、最近、相談を受けました。今の考えを伺うと、「社員を集めて製品開発チームを立ち上げ、試作を繰り返し、新しいマーケットを攻略するために、新しいパートナー企業を見つけて交渉していく予定です」とのことでした。   残念ながら、このシナリオは平時の開発シナリオであると言わざるを得ません。「クロスボーダー(海外)M&Aも含めて、資本提携・M&Aを戦略オプションに入れてください」とアドバイスしました。渡航どころか国内での外出もままならない状況で、今、ゼロから開発や交渉をスタートして、市場ニーズに合ったタイミングで開発・供給できるイメージが持てなかったからです。もちろん、自社開発の努力は必要なのですが、海外向けの商品となると、なおさら戦略オプションが必要です。この現象も、どの国においても起きているので、M&A戦略はグローバルに加速していくことになります。   4.HR/コミュニケーションテック   今回のワールドレポートでは、米ニューヨークにおいてはオフィスビルが1棟丸ごと封鎖され、借りている自社オフィスに立ち入れないことが多いようでした。出社3割、テレワーク7割といったテレワーク比率の問題ではなく、全社員をテレワークにしなければ会社が経営できない状況です。結果、郊外へ移住するニューヨーク市民が増えています。では、組織の生産性が落ちたかというと、落ちていない。「できる」ということなのです。   海外出張に行く際、以前は何カ月も前から準備し、現地に着いたら分刻みのスケジュールをこなしていましたが、Zoomの導入で状況は一変しました。今後は、自国にいながらビデオ会議できめ細かくコミュニケーションを取って、必要な場合だけ現地を訪問するスタイルが定着するでしょう。   こうしたグローバルコミュニケーションの様変わりも、あらゆる企業にとって大きなチャンスなのです。したがって、企業のHR/コミュニケーションテックへの投資はまだまだ必要です。DX経営へ振り切らないと、組織の生産性は向上しません。   5.サプライチェーン・バリューチェーンの新しいデザイン   世界的なリスク分散投資が鮮明になってきました。先ほど述べたように、ワクチンをはじめとする多国間取引や連携を、どの国とやっていくべきかが明確になってきたのです。   例えば、半導体などの世界的なサプライチェーンの停止や分断も、その1つです。サプライチェーンのデザイン次第で、自動車や電気製品が製造できなくなる恐れすらあります。   同盟国以外のマーケットを攻略することに変わりはないのですが、サプライチェーンやバリューチェーンとして依存し過ぎる関係は再構築しなければなりません。戦略的なリスク分散投資が必要であり、それはBCP(事業継続計画)投資でもあるのです。これは、ブランド力・価格力・品質力・物流力の全てと、その投資比率を見直さなければならないほどの変革を意味しています。   6.2030年に向けて環境・社会・統治からSDGs投資へ   SDGs(持続可能な開発目標)は、2030年までに17のゴール(目標)を達成することを目指すものです。この17の目標はもともと世界的な戦略投資テーマでしたが、新型コロナのパンデミックの影響により、これらへの投資(ESG投資)はさらに加速するでしょう。どの分野に投資していくかを、フューチャービジョン(中長期計画)で実装する技術が、企業にとって不可欠となってくるのです。(Vol.5へ続く)