【図表2】ドイツの注目企業・ビジネス
医療現場をサポートするe-ヘルスの可能性
若松 日本は医療のデジタル化が大幅に遅れており、それが新型コロナによる医療崩壊の危機を招く一因だと私は考えています。英国とドイツの医療関係のデジタル化はどこまで進んでいますか。特に英国は先進性があるように感じています。
Pinder 英国は、病院をはじめとする医療施設は全て公的機関なので、患者のカルテはデジタル化して集積され、全国の医療施設にいる医師は同じデータを共有できます。たとえ出張先で発病しても周囲の病院やクリニックへ行けば、従来の担当医が記録したカルテに基づく診察が可能になるわけです。
このような環境ですから、リモートで医療関係のサービスを提供するビジネスはかなり好調です。このコロナ禍でZoomを使ったビデオカンファレンスが今や主流になっています。また、ウエアラブルコンピューターがかなり普及しているので、それを活用して個人の健康データを医師がモニターするということも行われています。
Peikert ドイツでもオンラインで診察を受け、処方箋をもらうことができます。ただし、患者の過去の疾病歴などを記録したカルテのデジタル化は進んでいません。
若松 ドイツは医療先進国というイメージがあるので、カルテのデジタル化が進んでいないという現状は意外でした。成功している医療関連のデジタルサービス「e-ヘルス」の事例を教えてください。
Pinder 英国の成功事例として挙げられるのはLloyds Pharmacy(ロイズ・ファーマシー)の「Echo」(エコー)というアプリです。簡単な設定をするだけで、再診を必要としない常用薬の処方箋が無料で配信されます。また、Babylon Health(バビロン・ヘルス)は、スマホアプリの「GP at Hand」を使って患者がオンデマンドで医師とビデオ通話をすることができるシステムを構築しました。このアプリはAIによるチャットボット(自動会話プログラム)を使って医療に関する質問に24時間対応しています。
BtoBのサービスとしては、企業で働く従業員のメンタルヘルスを維持・向上するUnmind(アンマインド)というプラットフォームが好評です。マインドフルネス瞑想から認知行動療法によるメタファー、睡眠音楽、ストーリーテリング、ヨガ、健康レシピに至る多様なインタラクティブツールとオーディオエクササイズを提供しています。
Peikert ドイツではMedlanes(メドレーン)という企業が、Webサイトやアプリを使って医師に往診を頼むことができ、診療後もアプリを使って医師と連絡を取ることが可能なサービスを提供。ドイツの24都市で利用できます。
また、TeleClinic(テレクリニック)は医師と直接ビデオ通話ができるアプリを提供。医師の診察後に処方箋や診断書をアプリを通して入手でき、診療費の決済もアプリ上で可能にしました。
若松 日本でもアフターコロナに医療分野の大改革が起きることを願っています。今回はe-ヘルスビジネスの可能性を認識できました。本日はありがとうございました。