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コラム
TCG社長メッセージ
タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
コラム 2021.05.06

ウィズコロナでアップデートする世界:英国・ドイツ編【Vol.3】

  ロンドンは2021年1月から3回目のロックダウンを実施。飲食店の営業は、宅配やテイクアウトを除き2月中旬まで禁止された    
コロナ禍によって世界中のフォーマットが変容を求められる中、海外のビジネス現場はどう対応し、どう変わろうとしているのか。経営者はコロナ後のニューノーマル(新常態)といかに対峙すべきか。タナベコンサルティンググループのトップである代表取締役社長の若松孝彦が、世界5カ国のビジネス専門家とZoomで緊急ディスカッションを試みた。その最終章である。   ウィズコロナ時代の持続的経営に向けたロードマップを描く本企画(全3回・特別編)の第3回は、欧州最多のコロナ感染者を抱える英国と、コロナ禍で未曾有の不況に陥ったドイツを取り上げる。コロナがもたらす課題解決に向けた多様なデジタルサービスが、社会生活と医療現場を力強くサポートする最新状況をお伝えする。
   
クリエーティブ・ループ・インターナショナル 共同創立者・代表 ニコラ・ピンダー 氏 2006 年、共同創立者のサイモン・プレストンとともに、英国で国際事業開発コンサルティング会社Creatives Loopを設立。国際事業の拡大と投資のスペシャリストであり、政府や官民パートナーシップを代表した貿易支援や投資促進キャンペーンの設計・実施・提供に20年以上の経験を持つ。2014年、ドイツのAHPインターナショナルとのジョイントベンチャーとして、独・ベルリンにオフィスを構えるCreatives Loop Internationalを設立し、代表取締役に就任。米・ペンシルベニア州の公認投資代理として共同プロジェクトを手掛けるなど、貿易・投資分野に実績多数。    
AHPインターナショナルグループ 共同創立者・代表 ステファン・ペイカート 氏 ドイツのミュンスター大学在学中、国際貿易コンサルタントとして活動を開始。MBA(経営学修士)取得後、戦略的ビジネス開発、国際化、マーケティングおよび販売、経済開発、国内投資促進の分野で独立系コンサルタントとして25年以上の経験を積む。ドイツや欧州市場への参入支援を手掛けるAHPインターナショナルグループの代表を務めるほか、AHPインターナショナルホールディングスおよびAHPマネジメントの代表、ポーランドのAHPインターナショナル代表、米ペンシルベニア州のAHPインターナショナル共同創立者・代表を兼任。    
タナベコンサルティンググループ タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦 タナベ経営グループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず、上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。     英国の感染者は欧州最多 ワクチン接種の推進に尽力   若松 ワールドレポートの第3回は、英国のニコラ・ピンダー氏、ドイツのステファン・ペイカート氏とディスカッションを行います。海外企業の進出支援や貿易・投資関連の分野で多くの実績を持つお二人に、それぞれの国のビジネスの現状をお伺いできればと思います。よろしくお願いします。   まずは、英国における新型コロナウイルスの感染状況を教えてください。   Pinder 英国では新型コロナが猛威を振るい、2021年2月中旬には累計感染者数が400万人超、累計死者数は12万人に迫っており、どちらも欧州最多となりました。変異株の割合が急増していることも懸念されています。   イングランドでは1月5日から全域がロックダウン(都市封鎖)され、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの自治政府もロックダウンと同水準の規制を発令しました。これによって不要不急の小売事業は全て停止。住民は必要不可欠な医療の受診、食料品の購入、運動、業務上必要な場所への移動といった理由のある場合を除き、ステイホームしなくてはならない状態です。   若松 ロンドンはいち早くロックダウンした都市です。ロックダウンを行うと膨大な補償金が必要になりますが、英国政府はどのようなフォローをしていますか。また、状況を大きく変える可能性のある新型コロナワクチン接種を、世界に先駆けて実施していますね。   Pinder 英国では2021年4月まで各業界の人件費を80%まで補助。さらに小売、飲食、宿泊、観光業を対象に1物件当たり最大9000ポンド(135万円、1ポンド=150円換算)の助成策も発表しました。   しかし、ビジネス環境は悪化の一途をたどり、宿泊および飲食サービス業界では75%を超える企業の収益が減少。不動産および管理サポートサービス業界では廃業が急増しました。   このような状況の中でも光明は射しています。2020年12月8日から投与が始まった米国ファイザーとドイツ・ビオンテックの新型コロナワクチンに続いて、オックスフォード大学と英国製薬大手アストラゼネカの共同開発したワクチンの接種が1月4日から始まりました。このワクチンは摂氏2~8度で保存できることから、早期普及が期待されます。政府は2021年9月までに18歳以上の全国民がコロナワクチンを接種することを目指しています。     感染拡大初期、ロックダウンで休業となったベルリンのアイスクリーム店       【図表1】英国の注目企業・ビジネス
    ドイツも未曾有の不況 貿易収支は急速に回復   若松 ドイツの感染状況はいかがですか。   Peikert ドイツも新型コロナの感染第2波の真っただ中にあり、2021年2月18日の累計感染者数は236万人超、累計死者数は6万人超になりました。医療施設のICU(集中治療室)は満床には至っていませんが、かなり厳しい状況です。新型コロナワクチンに関してはEU(欧州連合)が加盟各国への供給調整を行っており、ドイツではそれに沿った国内接種が進行しています。   コロナ対策としては、ドイツ全土で必要不可欠な店舗以外は休業(飲食店のテイクアウトは可)、学校は休校、観光目的のホテル宿泊は禁止、美術館などの公共施設はすべて閉鎖、よその家を訪問できるのは1世帯当たり1人のみといった規制が設けられました。   若松 感染拡大初期の2020年3月18日に、メルケル首相が「東西ドイツの統一以来、いや第二次世界大戦以来、これほど団結が求められる試練は初めてだ」「この危機は必ず乗り越えられる。ただ、大切な人を何人失うことになるかは、私たち自身の行動にかかっている」と国民に訴えたスピーチは、世界中に発信されました。今回のパンデミックが人類にどれほどの影響を及ぼすのかを、多くの人に分かりやすく伝えたメッセージであり、素晴らしいリーダーシップでした。感染リスクを減らすための日常生活の制約や休業措置についても具体的に触れ、経済への影響も甚大なことが分かる内容でした。   Peikert 国内は過去に例がないほどの不況に陥っています。2021年2月末、ドイツ政府は2020年の実質GDP(国内総生産)成長率を前年比5.3%減と発表。2021年の成長率見通しは4.4%増から3.0%増へと下方修正しました。2019年のGDP水準に戻るのは、最短でも2022年になると見込まれます。   国内市場は危機的状況にありますが、海外向けの輸出はそれほど落ち込んでいません。2020年の第2四半期の輸出額は前年比23.7%減となりましたが、その後急速に回復して同年10月までの累計は前年比11.1%減に抑えました。これにより10月の貿易収支は182億ユーロ(2兆3660億円、1ユーロ=130円換算)の黒字となり、前年同期の203億ユーロ(2兆6390億円)に迫る数字になりました。   若松 ドイツの強さとして、自動車・工作機械・電機製品のような分野で世界のナンバーワンブランドを多く持っていることが挙げられます。そのパワーが危機の中でも発揮されたのでしょう。ドイツ政府の経済支援策を教えてください。   Peikert 雇用維持のための給与補償をはじめとする助成金や融資、付加価値税の一時的な減税など、総計1500億ユーロ(19兆5000億円)に達する国内支援を行いました。EUにおいても3900億ユーロ(50兆7000億円)の復興基金を決定しています。また、機械工業分野を中心に短時間労働を奨励する給付金を支給して失業率の抑制に努めています。     コロナの困り事に対応した新ビジネスが続々登場   若松 英国もドイツも非常に厳しい状況であるのは、他国と同様です。「世界同時リセット」が起こっていることを実感します。コロナ禍の中で成長しているビジネスモデルはありますか。   Pinder 英国は自国資本の製造業がほとんど存在せず、テクノロジーサービスを展開する業種が多いのが特徴です。その中でビジネスサービスやファイナンシャルサービス、テクノロジー関係が伸びています。業界規模の大きなビジネスサービスにおいてはSaaS(必要な機能を必要な分だけ利用できるソフトウエア)やVoIP(インターネット回線で音声データを送受信する技術)を活用したサービスが好調です。   若松 具体的な成長モデルの事例を、ぜひ紹介してください。   Pinder Starling Bank(スターリング銀行)というチャレンジャーバンクは、口座を持つ顧客が信頼できる友人や近所の人などに預けられるクレジットカードを発表しました。顧客本人が店舗に行けない場合は、代理人が買い物をしてこのカードで支払える仕組みです。   また、モバイル通信機器の充電ステーションで欧州最大のネットワークを持つChargedUp(チャージドアップ)は、CleanedUp(クリーンドアップ)という新ブランドを立ち上げて手指の消毒ステーションを展開。アルコール系とノンアルコール系の除菌液を供給するディスペンサーを月間1000台以上のペースで生産し、サービス拠点を拡大しています。   同じ除菌衛生関連では、「Punk IPA」(パンク アイピーエー)という商品で有名なビールメーカーBrewDog(ブリュードッグ)が、ビール工場で手指の除菌剤を製造。親しみを込めて「Punk Sanitiser」(パンクの消毒剤)と名付けられ、慈善団体や病院に無料で配られています。   若松 スターリング銀行のサービスは市場に受け入れられていますか。   Pinder 人気が高く、発行枚数は順調に増えています。今後、クレジットカードは暗証番号などを入力することなく利用できるコンタクトレス(非接触型)への移行が進むと見られます。   若松 ドイツではどのような業界が復調していますか。   Peikert 医療関係や医療関連IT、国家や地域レベルのフードバリューチェーン、IT・デジタル化・自動化、オンライン小売業、物流・フリート(車両運行)管理サービス、セキュリティー・安全管理サービスが成長しています。また、アジア圏からの工業製品の供給が滞っていることを受け、工業製品の製造業も好調です。   若松 成功事例を挙げていただけますか。   Peikert コロナ感染拡大以前のドイツではDX(デジタルトランスフォーメーション)が遅れ気味でしたが、コロナ禍の中で一気に進展しました。例えば、教育業界ではコロナ以前にクラウドの学習サービスを活用していたのは20校程度でしたが、現在は数千校で行われるようになり、こうしたサービスを提供している会社の業績は急激に伸びています。   デジタル分野では、プロサッカーチームの成績や順位、統計といった多様なデータを閲覧できるOneFootball(ワンフットボール)というサイトの人気が高まっています。コロナの蔓延で無観客試合が続く中、スタジアムに広告を出していた企業がこのサイトに出稿するようになり、売り上げはコロナ以前の10倍に達したそうです。
    【図表2】ドイツの注目企業・ビジネス
    医療現場をサポートするe-ヘルスの可能性   若松 日本は医療のデジタル化が大幅に遅れており、それが新型コロナによる医療崩壊の危機を招く一因だと私は考えています。英国とドイツの医療関係のデジタル化はどこまで進んでいますか。特に英国は先進性があるように感じています。   Pinder 英国は、病院をはじめとする医療施設は全て公的機関なので、患者のカルテはデジタル化して集積され、全国の医療施設にいる医師は同じデータを共有できます。たとえ出張先で発病しても周囲の病院やクリニックへ行けば、従来の担当医が記録したカルテに基づく診察が可能になるわけです。   このような環境ですから、リモートで医療関係のサービスを提供するビジネスはかなり好調です。このコロナ禍でZoomを使ったビデオカンファレンスが今や主流になっています。また、ウエアラブルコンピューターがかなり普及しているので、それを活用して個人の健康データを医師がモニターするということも行われています。   Peikert ドイツでもオンラインで診察を受け、処方箋をもらうことができます。ただし、患者の過去の疾病歴などを記録したカルテのデジタル化は進んでいません。   若松 ドイツは医療先進国というイメージがあるので、カルテのデジタル化が進んでいないという現状は意外でした。成功している医療関連のデジタルサービス「e-ヘルス」の事例を教えてください。   Pinder 英国の成功事例として挙げられるのはLloyds Pharmacy(ロイズ・ファーマシー)の「Echo」(エコー)というアプリです。簡単な設定をするだけで、再診を必要としない常用薬の処方箋が無料で配信されます。また、Babylon Health(バビロン・ヘルス)は、スマホアプリの「GP at Hand」を使って患者がオンデマンドで医師とビデオ通話をすることができるシステムを構築しました。このアプリはAIによるチャットボット(自動会話プログラム)を使って医療に関する質問に24時間対応しています。   BtoBのサービスとしては、企業で働く従業員のメンタルヘルスを維持・向上するUnmind(アンマインド)というプラットフォームが好評です。マインドフルネス瞑想から認知行動療法によるメタファー、睡眠音楽、ストーリーテリング、ヨガ、健康レシピに至る多様なインタラクティブツールとオーディオエクササイズを提供しています。   Peikert ドイツではMedlanes(メドレーン)という企業が、Webサイトやアプリを使って医師に往診を頼むことができ、診療後もアプリを使って医師と連絡を取ることが可能なサービスを提供。ドイツの24都市で利用できます。   また、TeleClinic(テレクリニック)は医師と直接ビデオ通話ができるアプリを提供。医師の診察後に処方箋や診断書をアプリを通して入手でき、診療費の決済もアプリ上で可能にしました。   若松 日本でもアフターコロナに医療分野の大改革が起きることを願っています。今回はe-ヘルスビジネスの可能性を認識できました。本日はありがとうございました。     英・マンチェスターのノーザンクォーター市にある壁画。新型コロナウイルスに立ち向かう「無名の英雄」の象徴として、英国の国民保健サービスNHS(National Health Service)医療機関の看護師が描かれた