オンラインビジネスとスタートアップの台頭
若松 私は今回の現象を「世界同時リセット」と呼んでいます。世界の社会課題がここまで同時化した経験はなかったと考えます。それぞれの国におけるコロナ禍のビジネス動向を教えてください。
Kanetkar インドでは、コロナと効果的に戦うための革新的なソリューションを開発する取り組みが強化されました。例えば、Mylab Discovery Solutions(マイラボ・ディスカバリー・ソリューションズ)というバイオテクノロジー企業は、6週間という記録的な短期間で新型コロナウイルスの検査キットをインドで初めて開発。Bione(ビオーネ)というスタートアップも自宅向けスクリーニング検査キットを発売し、迅速な感染判定に貢献しています。
TATA CONSULTANCY SERVICES(タタ・コンサルタンシー・サービシズ)などのITサービス企業は、コラボレーションプラットフォームやクラウド対応のインフラ、強固なセキュリティー対策を積極的に導入。臨床検査システム向けプラットフォームの構築、自社の特許技術とフレームワークを用いた薬物分子の発見、手頃な価格で効果的な人工呼吸器やそのキットに関するアイデア探求などを推進しています。
新しいアプリ開発も盛んです。GPS(全地球測位システム)とBluetooth(ブルートゥース)を活用し、ハイリスクゾーンに近づくと警告を発するアプリは、利用者が1億6000万人もいます。
また、中小の部品メーカーでは、主要納品先の受注減少分を呼吸器の製造に充て、酸素ボンベにチューブをつないで鼻に差し込むような、シンプルで安価な呼吸器を医療機関へ供給。貧困層の治療に貢献しています。
若松 医療(ヘルスケア)ビジネス領域は、法的な整備状況などの背景が国によって違うので一概には言えませんが、コロナショックによって、世界中でこの業界の問題が噴き出した感じがします。この領域では、どのようなビジネス領域が顕著な伸びを示していますか。
Kanetkar オンラインビジネスの台頭が目立ちます。その中で注目されるのが、バンガロールに拠点を置くDunzo(ダンゾー)というスタートアップです。
コロナ禍で買い物に行けないためオンライン注文が急増しましたが、配送のキャパシティー不足で生鮮食品を注文しても当日の配達は困難でした。そこでDunzoは、アプリを介してスーパーマーケットやレストランから生鮮食品・料理・薬・雑貨などを迅速に配達するシステムを構築。生活必需品を即日配達してくれるサービスとして高く評価され、現在は国内8都市でビジネスを展開しています。
若松 今後インドが向かうべき方向性として、モディ首相は2014年に「メーク・イン・インディア(自立したインド)」を打ち出しました。経済・インフラ・テクノロジー主導のシステム・人口・需要の5本柱の下、環境整備を通じてビジネスを活性化し、投資を呼び込み、製造業振興政策の決意を強固にするという内容です。しかし、今回のコロナ禍で、特に物流(ロジスティクス)の領域は一気に課題が顕在化しました。
他方、中国のビジネス動向はいかがですか。
Rong 新しいトレンドが生まれています。その1つが「ライブストリーミング販売」です。これはウェブを介してライブ動画で商品を紹介しながら販売するスタイルで、「ブロードキャスター」と呼ばれるKOL(Key Opinion Leader:インフルエンサー的な存在)のトップスリーは、この販売方法で1日14億6000万ドル以上を売り上げています。
2つ目が「知識消費の急増」です。コロナ前から知識消費は増加傾向にありましたが、コロナ期間中に爆発的に増加。リアルで行われていた教育がオンラインプラットフォームに乗ってきただけではなく、書籍やフィットネスといった学習商材もこれまで以上の顧客ベースを獲得し、新たなラーニング習慣の形成につながっています。
3つ目が「OtoO(オンライン・ツー・オフライン)の台頭」。オンラインとオフラインを上手に使い分け、消費者のニーズをキャッチしていくマーケティング手法です。
若松 世界中で消費者のインターネットリテラシーが急速に高まり、リアルとデジタルのつながり方の変容とアップデートが同時に起きた感じがします。中国ではライブストリーミングが盛んですが、Rongさんも利用していますか。
Rong 商品説明の時間が長いので私はあまり利用しませんが、延々と見て買い物をする人も大勢います。中国で年間最大のネット通販セールが行われる「独身の日」(11月11日)は、アリババグループを筆頭とするEC大手3社が売り上げの7~8割を独占。独身の日のようなビッグイベントでいかに注目されるリテイラーになるかが成否の鍵を握ります。その中で日本の資生堂はかなり頑張っていると言えます。
【図表】インドの注目企業