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コラム
TCG社長メッセージ
タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
コラム 2021.04.09

ウィズコロナでアップデートする世界:インド・中国編【Vol.2】

  「インドのシリコンバレー」と呼ばれるバンガロールの飲食店。従業員はマスクを着用し、国が定めたコロナ対策のガイドラインを厳守して営業している    
コロナ禍によって世界中のフォーマットが変容を求められる中、海外のビジネス現場はどう対応し、どう変わろうとしているのか。経営者はコロナ後のニューノーマル(新常態)といかに対峙すべきか。タナベ経営グループのトップである代表取締役社長の若松孝彦が、世界5カ国のビジネス専門家とZoomで緊急ディスカッションを試みた。 ウィズコロナ時代の持続的経営に向けたロードマップを描く本企画(全3回・特別編)の第2回は、人口13億人のインドと14億人の中国。世界に冠たる人口大国においても、コロナ禍からの立ち直りをかけてデジタル化が加速している。ポストコロナを見据えた新しい市場参入のポイントを探った。
   
SRKアフィリエイト・SRKアソシエイツ 代表 スシャマ・R・カネットカール 氏 インドのバンガロールで国際貿易と投資誘致に向けたコンサルティングを展開。インドの主要都市や地域のビジネス文化に精通し、インド国内の微妙な文化の違いに適切に対応できる強みを生かして、市場調査や参入戦略立案、企業の信用調査、法律や許認可に関する調査、代理店開拓、関税などの情報提供、インド訪問や展示会参加などの支援を行っている。主なクライアントは米国ペンシルベニア州政府で、約400社のインド市場参入と863社の輸出支援の実績を持つ。    
アルグローリー・インベストメント 代表 アナベル・ロン 氏 中国の上海で国際的な市場参入と成長戦略をコンサルティングするアルグローリー・インベストメント社を設立。米国ノースカロライナ州の貿易・投資促進業務を通じて米国企業の中国進出を多数サポートし、30以上のFortune 500カンパニー(米フォーチュン誌の企業500選)と300以上の多国籍企業の中国進出プロジェクトを支援した実績を持つ。主な提供サービスは市場調査、参入戦略立案、代理店開拓、JV設立支援、貿易実務支援、展示会出展サポート、直接投資支援、PRやイベント開催など。    
タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦 タナベ経営グループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。     厳しいロックダウンを乗り越え回復へ   若松 スペシャルレポートの第2回は、インド・バンガロールのスシャマ・カネットカール氏、中国・上海のアナベル・ロン氏とディスカッションを行います。海外企業の進出支援や貿易関連で多くの実績をお持ちのお二人に、それぞれの国のビジネスの現状をお伺いできればと思います。よろしくお願いします。   まずは、インドにおける新型コロナウイルスの感染状況を教えてください。   Kanetkar インドは2020年12月に新型コロナウイルス感染者数が累計1000万人を超えました。感染者の累計が1000万人を超えたのは米国に続いて2カ国目です。ただし、検査インフラの包括的・継続的な増加に努めた結果、現在では1167の政府系検査施設と971の民間検査施設を有し、100万人当たりの1日の検査数はWHO(世界保健機関)基準の5倍に到達。新規感染者数も9月中旬から減少傾向に転じ、12月19日には総回復者数958万人、回復率95.8%となっています。   若松 インド政府は2020年3月下旬から全土封鎖を実施しましたが、今はどうなっていますか。   Kanetkar 4月下旬から段階的に規制緩和を行い、10月1日以降は感染者が増加傾向にある地域を除いて封鎖は完全に解除されました。   若松 中国の現状はいかがでしょうか。   Rong 中国政府の厳しいロックダウンが奏功して感染者は激減し、現在は新規感染者が1日十数人のレベルで推移しています。私は仕事で中国各地を訪れますが、「状況がかなり改善している」と感じます。逆に、上海では海外からの来訪者(中国人の帰国も含む)が新型コロナウイルスを持ち込むケースが目立つようになりました。   現在ではロックダウンなどの規制はありませんが、感染者が増加する地域が出現すると、そこから他の地域へ移動する人は必ず検査を受け、陰性を証明することが求められます。また、感染者が増加傾向にある国からの入国者は14日間隔離されるなど、警戒体制は依然として続いています。   若松 中国は“脱コロナ”のステージに進み始めています。中国と取引をしている日本企業の経営者に話を聞くと、回復した感覚を持っているようです。   Rong コロナは中国経済に深刻な影響を及ぼしました。地元企業登録調査プラットフォームの天眼査がまとめた「Big Data of Quarter one National Enterprises of 2020」によれば、2020年の第1四半期に登録解除または破産した企業は46万社あり、そのうち57%は起業して3年未満でした。また、中国全土で第1四半期に新規登録した企業は322万社で、前年同時期より28.9%も減少しました。   しかし、政府主導の強力なコロナ対策によって2020年4月以降は景気回復の兆しが見られ、現在では展示会などのスケジュールは通常に戻り、人々は大きな心配をせずにビジネスやレジャーで旅行をしています。とはいえ、第1四半期に生じた景気後退の悪影響は残存し、労働集約的な製造業などは海外市場の縮小を受けて受注の大部分を喪失。国内市場にシフトするしか生き残る方法がない状況です。   若松 展示会の再開や国内のビジネス・レジャー旅行ができているという事実だけでも、その回復力が分かります。インドの企業経営はどのような状況ですか。   Kanetkar パンデミックによるロックダウンは、特に中小企業へ大きな打撃を与えました。その影響を軽減するため、インド政府は倒産・破産法とその裁定プロセスを多数変更。企業活動だけでなく、銀行システムの強化やインド経済に対する国内外の投資家の信頼を後押ししました。   その結果、2020年4~6月に前年同期比23.9%減まで落ち込んだGDP(国内総生産)の実質成長率は、7~9月には同7.5%減まで回復。続く10月の製造業PMI(購買担当者景気指数)は9月の56.8から58.9へ上昇し、生産高は力強い増加を記録しました。同月のエネルギー消費の伸びは前年同月比12%増、物品サービス税の徴収額も同10%増、4~8月の外国直接投資流入額は前年比13%増となっています。     コロナ禍以前からランニングの人気が高まっていた中国・上海。ランナー専用レーン(赤色)が設けられた公園もある。2020年11月に上海国際マラソンが開催され、約9000人が参加した       バンガロールのバス車内。
インドにはマスクをつける習慣がなかったが、今は皆マスクを着用している
    オンラインビジネスとスタートアップの台頭   若松 私は今回の現象を「世界同時リセット」と呼んでいます。世界の社会課題がここまで同時化した経験はなかったと考えます。それぞれの国におけるコロナ禍のビジネス動向を教えてください。   Kanetkar インドでは、コロナと効果的に戦うための革新的なソリューションを開発する取り組みが強化されました。例えば、Mylab Discovery Solutions(マイラボ・ディスカバリー・ソリューションズ)というバイオテクノロジー企業は、6週間という記録的な短期間で新型コロナウイルスの検査キットをインドで初めて開発。Bione(ビオーネ)というスタートアップも自宅向けスクリーニング検査キットを発売し、迅速な感染判定に貢献しています。   TATA CONSULTANCY SERVICES(タタ・コンサルタンシー・サービシズ)などのITサービス企業は、コラボレーションプラットフォームやクラウド対応のインフラ、強固なセキュリティー対策を積極的に導入。臨床検査システム向けプラットフォームの構築、自社の特許技術とフレームワークを用いた薬物分子の発見、手頃な価格で効果的な人工呼吸器やそのキットに関するアイデア探求などを推進しています。   新しいアプリ開発も盛んです。GPS(全地球測位システム)とBluetooth(ブルートゥース)を活用し、ハイリスクゾーンに近づくと警告を発するアプリは、利用者が1億6000万人もいます。   また、中小の部品メーカーでは、主要納品先の受注減少分を呼吸器の製造に充て、酸素ボンベにチューブをつないで鼻に差し込むような、シンプルで安価な呼吸器を医療機関へ供給。貧困層の治療に貢献しています。   若松 医療(ヘルスケア)ビジネス領域は、法的な整備状況などの背景が国によって違うので一概には言えませんが、コロナショックによって、世界中でこの業界の問題が噴き出した感じがします。この領域では、どのようなビジネス領域が顕著な伸びを示していますか。   Kanetkar オンラインビジネスの台頭が目立ちます。その中で注目されるのが、バンガロールに拠点を置くDunzo(ダンゾー)というスタートアップです。   コロナ禍で買い物に行けないためオンライン注文が急増しましたが、配送のキャパシティー不足で生鮮食品を注文しても当日の配達は困難でした。そこでDunzoは、アプリを介してスーパーマーケットやレストランから生鮮食品・料理・薬・雑貨などを迅速に配達するシステムを構築。生活必需品を即日配達してくれるサービスとして高く評価され、現在は国内8都市でビジネスを展開しています。   若松 今後インドが向かうべき方向性として、モディ首相は2014年に「メーク・イン・インディア(自立したインド)」を打ち出しました。経済・インフラ・テクノロジー主導のシステム・人口・需要の5本柱の下、環境整備を通じてビジネスを活性化し、投資を呼び込み、製造業振興政策の決意を強固にするという内容です。しかし、今回のコロナ禍で、特に物流(ロジスティクス)の領域は一気に課題が顕在化しました。   他方、中国のビジネス動向はいかがですか。   Rong 新しいトレンドが生まれています。その1つが「ライブストリーミング販売」です。これはウェブを介してライブ動画で商品を紹介しながら販売するスタイルで、「ブロードキャスター」と呼ばれるKOL(Key Opinion Leader:インフルエンサー的な存在)のトップスリーは、この販売方法で1日14億6000万ドル以上を売り上げています。   2つ目が「知識消費の急増」です。コロナ前から知識消費は増加傾向にありましたが、コロナ期間中に爆発的に増加。リアルで行われていた教育がオンラインプラットフォームに乗ってきただけではなく、書籍やフィットネスといった学習商材もこれまで以上の顧客ベースを獲得し、新たなラーニング習慣の形成につながっています。   3つ目が「OtoO(オンライン・ツー・オフライン)の台頭」。オンラインとオフラインを上手に使い分け、消費者のニーズをキャッチしていくマーケティング手法です。   若松 世界中で消費者のインターネットリテラシーが急速に高まり、リアルとデジタルのつながり方の変容とアップデートが同時に起きた感じがします。中国ではライブストリーミングが盛んですが、Rongさんも利用していますか。   Rong 商品説明の時間が長いので私はあまり利用しませんが、延々と見て買い物をする人も大勢います。中国で年間最大のネット通販セールが行われる「独身の日」(11月11日)は、アリババグループを筆頭とするEC大手3社が売り上げの7~8割を独占。独身の日のようなビッグイベントでいかに注目されるリテイラーになるかが成否の鍵を握ります。その中で日本の資生堂はかなり頑張っていると言えます。     【図表】インドの注目企業
      【図表】中国の新しいトレンド
    ECビジネスはBtoC、BtoBともに有望   若松 このような環境激変の中においても、日本企業の商品が海外ECサイト販売で成功する可能性はありますか。   Rong 日本の会社が中国やインドに進出する上でECは非常に有効な方法だと思います。従来の方法で進出しようとすると、卸売会社や代理店を探したり、拠点の開設地を模索したりしなくてはなりません。広大で人口も多い国の場合は、地域ごとに専門の卸売会社と付き合わねばならないなど大変です。しかし、ECで市場に参入すれば、一気に全国展開を図れます。   もちろん、ECなりの難しさがあります。強豪渦巻く過当競争の中でいかに認知度を上げるか、どのようにネットワークトラフィック(通信量)を強化するかといった難題を解決しなくてはなりません。   若松 今回の社会変革は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)と呼ばれるようにBtoB領域にも及びます。インドも中国も、デジタル領域の先端分野が数多くあります。BtoBのデジタル化については、どのような変化が起きていますか。   Kanetkar インドにはBtoBのオンライン取引を仲介するプラットフォームがあります。オンライン取引は卸売会社を介する従来のチャネルよりもマージンが若干低いので、デジタルとリアルを組み合わせてBtoBの展開を図るのが最善策でしょう。インドではBtoCよりもBtoBの方が市場に参入するチャンスがあると思います。   Rong 中国のアリババグループはBtoBからスタートし、そのプラットフォームは今でも健在です。それを介して海外の商品を販売することは十分に考えられます。また、カスタマイズ商品・サービスを手掛けるプラットフォームも存在しますが、BtoCのように巨大なプラットフォームはありませんから、個々の市場やケースに応じたプラットフォームを探す必要があります。   若松 最後に、ポストコロナ時代に成長が見込まれる市場を教えてください。   Kanetkar デジタル化には多くのチャンスがあります。現在インドは、政府や企業、組織が新たなソリューションの実現に活用できる共有デジタルインフラ「Open Digital Ecosystems(オープン・デジタル・エコシステム)」を構築。モディ首相も2020年8月に「国家デジタルヘルスミッション」を発表し、あらゆる医療関連サービスのために相互運用性を持つ統合型デジタルヘルスプラットフォームの構築を目指しています。自動化、AI、IoT、機械学習などに関連する市場の成長が期待できます。   Rong 中国ではヘルスケアと生物化学、食品と飲料、農産物とアグリテック、高齢者向け、IoTと電気通信、自動車産業(特に電気自動車関連)といった領域の成長が見込まれます。   若松 世界人口の約37%を占める両国の動向は、日本の企業経営者も注目しています。本日は貴重なご意見をいただき、ありがとうございました。     厳しい管理体制が敷かれていた上海では、健康のために意識して運動を行うようになった人も多い