ミッションロイヤリティ戦略の展開
次に、ミッションロイヤリティ戦略を、(1)事業戦略、(2)組織・経営システム、(3)収益・財務戦略へと展開する方法を提言しましょう。
(1)事業戦略
実行・推進上の着眼点は、①ビジネスモデルをフルモデルチェンジする(イノベーティブソリューションモデル)、②ホワイトスペースを発見する(フロンティアソリューションモデル)、③ソリューションを多角化する(ワンストップソリューションモデル)です。
フルモデルチェンジの戦略ケースとしては、富士フイルムが好例です。主力事業の写真関連事業がなくなってしまうという本業消滅の危機に直面し、フィルムで培ったコア技術を新たな価値へ積極的に投資。ドキュメント事業やヘルスケア事業へ進出し、成功しました。
ホワイトスペースを発見するソリューションモデルを、私は「売り場のない所に売り場をつくること」と表現しています。コト不足の時代は、市場の縮小化・専門化が進行します。顧客は「多様化」したのではなく、「専門化」しているのです。この専門的価値がホワイトスペースをつくり出す場所、環境になります。
ホワイトスペースを見つけるポイントは、B to B の場合、顧客の業務プロセスや流通プロセスをしっかりと分析すること。B to Cの場合は、顧客の思考や消費行動、ライフステージを子細に観察することです。
ソリューションを多角化するキーワードは、「高度の専門化と高度の総合化」。ポイントは、「専門が先で、総合が後」。専門性の集合が総合性なのです。これからの時代は、総合化から入ってくる会社はおしなべて個性が希薄になり、独創価値がぼやけてきます。自社の専門的価値をどう多角化するのかという着眼で考えると、ワンストップソリューションは中堅・中小企業に適合した戦略といえます。
(2)組織・経営システム
ミッションロイヤリティを高める組織・経営システムを築くポイントは、①「ミッションステートメント(行動指針)」をベースにした経営システムの再構築、②持続可能性(サステナビリティー)を組織と約束するインナーブランディング、③中期ビジョンのマネジメントです。
経営者の思いを正確に組織へ伝えることを「インナーブランディング」といいます。新しいことにチャレンジしたり、それを推進したりする企業風土をつくるために大変有効です。
インナーブランディング活動は、教育やシステムの中で展開する必要があります。タナベ経営では、それらを「3ボードシステム」というメソッドで提唱しています。これはビジョンボード(役員・執行役員・役員候補)、ジュニアボード(経営幹部候補)、ネクストボード(次世代幹部候補)という3つのチームを組成し、中期ビジョンを一気通貫でブレなく伝えて教育するメソッドであり、インナーブランディング活動そのものです。
(3)収益・財務戦略
ミッションロイヤリティ戦略で付加価値額を決定する要素は、ソリューションの大きさと数です。大きさは顧客の抱える課題の大きさと課題を抱える顧客数であり、数は課題を解決するメニューの種類になります。
ソリューションにおける付加価値を最大化させるポイントは、「顧客が抱えている解決困難な課題を解決する」「顧客が最も関心のある(解決してほしい)課題を解決する」「これらの共通の課題を持つ顧客を数多く創造する」です。こうしたソリューションを数多く生み出すことによって顧客価値を最大化することが、企業の付加価値の最大化に直結し、収益性の高い事業を生み出します。
次に、財務戦略の着眼点は、①ミッション追求を投資判断の基準とし、②投資回収スピードを上げて「ポスト2020」に備えることです。チャンスは予告通り、計画通りには訪れません。しかし、投資のタイミングとして考えた場合は、まず2017 年4 月の消費税再増税まで。それから2020 年の東京オリンピック・パラリンピックまで。さらにポストオリンピックとなる2020 年以降です。投資局面が明確に変わってくるでしょう。どのタイミングであっても投資回収スピードを上げること。戦略投資の再投入・再配分がミッションロイヤリティ戦略を実行する際に重要になります。
使命の道を歩み2020年以降も持続的成長を
理念やビジョンは、企業活動において持続的に追求していくものです。しかし、ゴールのないマラソンを走り続けることほど辛いものはありません。そのため、ビジョンの構築には「いつまでに」という期限の設定と、「どこまで成長するのか」という数値基準を明確にすることも大切です。
期限設定は、まず投資戦略と同様に2020年が大きなポイント。数値基準は、成長加速化指数[成長率(売上高前年対比伸び率)10%以上×収益率(売上高経常利益率)10%以上=100%以上]です。2020年までの累計成長率は146%で現在の約1.5倍。そのときに経常利益率10%のレベルを実現できれば、他社を寄せ付けない圧倒的なポジションを築けます。
使命は「命を使う」とも読めます。会社の運命を賭けたミッションから、取り組むべき課題や事業は何かを見つめる―。本誌2015年12月号の「100年経営対談」でも、大和ハウス工業の樋口武男会長と「結局、世の中に役に立つ会社がつぶれない会社であり、世の中に喜んでもらえる会社が100年続く企業である」という答えにたどり着きました。やはり、事業や会社の持続的(サステナブル)成長力は、「使命」の在り方が決めるのです。
2016年の年頭に当たって、「使命は道」という言葉をお贈りします。顧客の課題を解決する道を歩みながら、その使命を果たされることを祈念いたします。