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コラム
TCG社長メッセージ
タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
コラム 2015.12.28

その先にある課題を解決せよ:若松 孝彦

2016年 年頭指針

経営理念から生まれるミッション(使命)に忠実な戦略。タナベ経営は、それを「ミッションロイヤリティ戦略」と呼ぶ。世界経済は「波乱」はあっても成長する。日本経済は「モノ余りでコト不足の時代」が加速する。2016年は、ミッションを追求することで固有技術をソリューション、課題解決技術へと昇華させ、「モノ消費」ではなく「コト解決」を提供してサステナブル(持続的な)成長を目指すべきである。

01_1601_shishin_02 ミッションの追求がソリューション価値を増大 2016年度の戦略指針は「ミッションロイヤリティ戦略」です。今は「モノ余りでコト不足の時代」。それが年々加速し、顕著になっています。コト不足の加速は、裏を返せば、社会や顧客の課題がより鮮明になっていることを表します。私たちは、コト不足を満たす価値を「ソリューション価値」、すなわち課題解決価値と定義します。皆さまの会社の商品やサービスによって、社会や顧客の課題を解決するのがソリューション価値ということです。 この価値を高めるために、経営者の持つべき思考がミッション、すなわち使命であり、ミッションの追求こそがソリューション価値の増大につながります。 ロイヤリティとは「忠実」という意味。「戦略は理念に従う」。自社の理念から生まれる使命に忠実な戦略が、ミッションロイヤリティ戦略なのです。 世界経済は波乱はあっても成長する まず、世界経済のインパクトポイントを述べます。2016年度の世界経済の基調を一言でまとめると、「波乱はあっても成長する」です。 2015年時点の世界推計人口は73億人で、30年前の1.5倍(総務省統計局『世界の統計2015』)になっています。人口増加に伴ってGDPも拡大。同局によると、全世界の名目GDPは1985年の13兆4754億ドルから、2013年には5.6倍の75兆5663億ドルになりました。1人当たりの名目GDPも3.8倍に拡大し、同GDPが1万ドルを超える国は、2005年の51カ国から2014年は70カ国へ増えています。 1人当たりの国民所得を2000年と2013年で比較すると、先進国はこの13年間で1~2倍の拡大幅にとどまります。ちなみに2013年の日本の国民所得は、G7の中でイタリアに次ぐ低水準。一方、アジアの新興国・途上国は最大11倍となり、先進国と新興国・途上国の所得格差は着実に縮まっています。(労働政策研究・研修機構『データブック国際労働比較2015』) IMF(国際通貨基金)の予測によると、2016年の世界の経済成長率は3.6%。2015年初めの予測では3.8%だったので少し下がりました。その大きな要因は、中国経済の減速です。 2016年の中国の成長率は6.3%で、2015年の6.8%からダウン。中国の経済統計の中で信頼性の高いデータとされる「電力発電・消費量、鉄道貨物輸送量、輸出入統計」を見ると、月間の発電電力量はゼロ成長、鉄道貨物輸送量は2014年以降マイナスのまま、輸出入統計では2014年11月以降、前年同月比で輸入のマイナスが続いています。中国経済の減速は予断を許さない状況です。 米国は2.8%と好調を維持。ユーロ圏は1.6%と若干ながら成長する見通し。不振のギリシャも基幹産業の観光業が堅調で0.8%と高めの水準です。 ASEANは全体的に回復基調が継続。中でも5カ国(インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム)の2016年の実質成長率は4.9%程度に回復すると見込まれます。 こうした世界情勢を踏まえた日本のチャンスは、4つあります。 1つ目が、インバウンド(訪日外客数)の激増です。2013年に1000万人を超え、2015年は10月時点で1600万人を突破し、過去最高を更新しました。政府は2020年に2000万人という目標を掲げていますが、前倒しで達成できる可能性が高いでしょう。インバウンド需要により、2015年4~9月の大阪のホテル稼働率は91%に達し、東京でも83%と毎日ほぼ満室状態が続いています。 2つ目は、新興国で拡大・高度化する消費。経済産業省『通商白書(2015年版)』によると、上位中所得国の消費支出が2004年から急増し、「世界人口の総消費者化」が進行しています。好調なのは通信やレクリエーション、教育、医療・ヘルスケア関連。これらの分野へ効果的なマーケティングを行うことで、チャンスをつかめるでしょう。  3つ目は、IoT(Internet ofThings)※です。代表的なものは、自動車の自動運転システムやアップル社の『iWatch』。米調査会社のガートナー社は、2020年のIoT市場が約2兆ドルになると予想しています。 ※  コンピューターなどの情報・通信機器だけでなく、さまざまなモノに通信機能を持たせ、インターネットに接続したり、相互に通信したりすることにより、自動認識・制御、遠隔計測などを行うこと 4つ目は、TPP(環太平洋経済連携協定)。この締結により、世界のGDPの36%と貿易額の26%を占め、人口8億人を有する経済圏が誕生することになります。賛否両論ありますが、波乱はあっても成長する世界のマーケットを取り込むチャンスと捉えるべきです。 では、世界経済に「波乱」を起こす要因とは何か。 1つ目は、金融資産、金融市場です。世界の金融資産の規模は、世界のGDPの3.7倍に達しています。2000年には2.9倍でした(内閣府『国際金融センター、金融に関する現状等について』)。つまり、金融経済が実体経済よりも速いスピードで成長しているのです。これが実体経済に影響を及ぼさないはずがありません。大国の金融市場が動揺すれば、その影響は商品・サービスの生産や販売活動、設備投資活動(実体経済)に必ず波及します。 2つ目は、テロを含めた世界各地での紛争です。これらは波乱を起こす可能性があります。 しかし、実体経済を示すGDPを長期的なスパンでみると、減速はしても成長予測です。波乱の動向に目配りしつつも、それに惑わされず、実体経済をしっかりと見極めるスタンスが、私たち経営者には求められます。 01_1601_shishin_01

日本市場はモノ消費からコト解決へ 2016年の日本経済をまとめると、「消費マーケットから課題マーケットへの変化と成長」。つまり、「モノ消費からコト解決へ」という傾向が顕著になります。 日本国内では人口と世帯数の減少、2020年東京オリンピック・パラリンピック後の反動減、モノに対する欲求の減退といった要因により、「消費マーケット」の縮小が加速すると予測されます。一方で、こうした要因による社会構造の変化でさまざまな課題が新たに出現し、その課題を解決するコトを望む「課題マーケット」が相次いで誕生しています。 このマーケットで顧客が求めるソリューションが増えています。市場がナノ化(細分化・極小化)され、ホワイトスペース(未開拓の分野)を生み出している状況は、中堅・中小企業にとって大きなチャンスといえます。今まで以上に顧客価値を把握し、きめ細かい価値提供を行うことが重要です。 他方、2014年の倒産件数は9731件と24年ぶりに1万件を下回りました(東京商工リサーチ調べ)。プレーヤーが減らないまま需要が減少すれば、価格競争は激化します。過当競争です。やはり、モノ消費からコト解決のビジネスモデルへとシフトし、自社の固有技術で顧客の課題を解決していけるか、そのレベルが今後の成長を左右するでしょう。 また、戦略は「何」をやるかと同じくらい「誰」がやるかが重要です。人事戦略がますます重要なポイントになります。 2016年3月卒業予定の大学生・大学院生を対象とした大卒求人倍率は1.73倍と、採用が非常に難しくなっています(リクルートワークス研究所『ワークス大卒求人倍率調査』)。若者が減って生産年齢人口が減少する中、採用戦略は非常に高度な経営課題になっています。自社に人事部・人事課がなければ設置し、人事担当の増員に努めてください。人事戦略、特に採用戦略は、あらゆる手を打っても例年並みの成果しか挙がらないでしょう。 日本経済の主要な指標としては、2016年の実質GDPは541.1兆円(1.8%増)、個人消費は313.9兆円(1.7%増)と予測されています。2017年4月の消費税再増税を控え、駆け込み需要が起きるのは2016年。消費のリズムや政策を時系列でしっかり捉えてください。 設備投資は増加傾向で77.1兆円(4.2%増)ですが、中国経済の減速もあり、一進一退です。住宅投資は14.3兆円(4.9%増)と大きく伸びる予測。ただし、消費再増税前の駆け込み需要を読んだ数字なので、増税後の備えと構造転換は欠かせません。公共投資はマイナス基調が続きます。 為替と株に関しては、米国の金利引き上げ、インバウンド需要の取り込み、日銀の金融追加緩和により円安は定着すると考えてよいでしょう。株価は、「NISA(少額投資非課税制度)」の対象枠拡大、「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」の日本株運用比率引き上げ、郵政3社(日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)の上場など官製相場の感は否めませんが、2016年も現政権のままであれば一定の水準が維持されると考えられます。 その先にある3つの課題を先取りする 2016年に取るべき基本戦略は、「その先にある課題」を他社に先駆けて見つけ出し、いち早く解決すること。その課題は次の3つです。

①未来に確実に起こる顕在的課題(社会課題の視点) …人口減少や世帯数減少など、確実視されている社会的課題 ②今後起こり得る潜在的課題(顧客価値の視点) …顧客がまだ認識していない潜在的課題 ③顧客や商品の先にある課題 …顧客の先の顧客が抱える課題や商品流通過程における課題

繰り返しますが、「戦略は理念に従う」ので、理念から生まれる「ミッション× ソリューション」がこれからの真の戦略。ミッション(自社の使命)が顧客の課題を解決するように設計されていることが大事なのです。 ミッションは顧客価値とも言い換えられます。ミッションを追求するためのソリューション(事業)へ資源を配分するという考え方に立脚した事業ポートフォリオの設計が、ミッションロイヤリティ戦略の最重要ポイントになります。 さらに、セグメンテーション(市場の切り出し)も重要です。従来の消費マーケット型のセグメンテーションはエリアや年齢、性別、チャネルなどでしたが、ミッションロイヤリティ戦略では課題マーケット型のセグメンテーションが加わります。顧客価値のセグメンテーションへ変えることが、ミッションロイヤリティ戦略の本質といえます。

ミッションロイヤリティ戦略の展開 次に、ミッションロイヤリティ戦略を、(1)事業戦略、(2)組織・経営システム、(3)収益・財務戦略へと展開する方法を提言しましょう。 (1)事業戦略 実行・推進上の着眼点は、①ビジネスモデルをフルモデルチェンジする(イノベーティブソリューションモデル)、②ホワイトスペースを発見する(フロンティアソリューションモデル)、③ソリューションを多角化する(ワンストップソリューションモデル)です。 フルモデルチェンジの戦略ケースとしては、富士フイルムが好例です。主力事業の写真関連事業がなくなってしまうという本業消滅の危機に直面し、フィルムで培ったコア技術を新たな価値へ積極的に投資。ドキュメント事業やヘルスケア事業へ進出し、成功しました。 ホワイトスペースを発見するソリューションモデルを、私は「売り場のない所に売り場をつくること」と表現しています。コト不足の時代は、市場の縮小化・専門化が進行します。顧客は「多様化」したのではなく、「専門化」しているのです。この専門的価値がホワイトスペースをつくり出す場所、環境になります。 ホワイトスペースを見つけるポイントは、B to B の場合、顧客の業務プロセスや流通プロセスをしっかりと分析すること。B to Cの場合は、顧客の思考や消費行動、ライフステージを子細に観察することです。 ソリューションを多角化するキーワードは、「高度の専門化と高度の総合化」。ポイントは、「専門が先で、総合が後」。専門性の集合が総合性なのです。これからの時代は、総合化から入ってくる会社はおしなべて個性が希薄になり、独創価値がぼやけてきます。自社の専門的価値をどう多角化するのかという着眼で考えると、ワンストップソリューションは中堅・中小企業に適合した戦略といえます。 (2)組織・経営システム ミッションロイヤリティを高める組織・経営システムを築くポイントは、①「ミッションステートメント(行動指針)」をベースにした経営システムの再構築、②持続可能性(サステナビリティー)を組織と約束するインナーブランディング、③中期ビジョンのマネジメントです。 経営者の思いを正確に組織へ伝えることを「インナーブランディング」といいます。新しいことにチャレンジしたり、それを推進したりする企業風土をつくるために大変有効です。 インナーブランディング活動は、教育やシステムの中で展開する必要があります。タナベ経営では、それらを「3ボードシステム」というメソッドで提唱しています。これはビジョンボード(役員・執行役員・役員候補)、ジュニアボード(経営幹部候補)、ネクストボード(次世代幹部候補)という3つのチームを組成し、中期ビジョンを一気通貫でブレなく伝えて教育するメソッドであり、インナーブランディング活動そのものです。 (3)収益・財務戦略 ミッションロイヤリティ戦略で付加価値額を決定する要素は、ソリューションの大きさと数です。大きさは顧客の抱える課題の大きさと課題を抱える顧客数であり、数は課題を解決するメニューの種類になります。 ソリューションにおける付加価値を最大化させるポイントは、「顧客が抱えている解決困難な課題を解決する」「顧客が最も関心のある(解決してほしい)課題を解決する」「これらの共通の課題を持つ顧客を数多く創造する」です。こうしたソリューションを数多く生み出すことによって顧客価値を最大化することが、企業の付加価値の最大化に直結し、収益性の高い事業を生み出します。 次に、財務戦略の着眼点は、①ミッション追求を投資判断の基準とし、②投資回収スピードを上げて「ポスト2020」に備えることです。チャンスは予告通り、計画通りには訪れません。しかし、投資のタイミングとして考えた場合は、まず2017 年4 月の消費税再増税まで。それから2020 年の東京オリンピック・パラリンピックまで。さらにポストオリンピックとなる2020 年以降です。投資局面が明確に変わってくるでしょう。どのタイミングであっても投資回収スピードを上げること。戦略投資の再投入・再配分がミッションロイヤリティ戦略を実行する際に重要になります。 使命の道を歩み2020年以降も持続的成長を 理念やビジョンは、企業活動において持続的に追求していくものです。しかし、ゴールのないマラソンを走り続けることほど辛いものはありません。そのため、ビジョンの構築には「いつまでに」という期限の設定と、「どこまで成長するのか」という数値基準を明確にすることも大切です。 期限設定は、まず投資戦略と同様に2020年が大きなポイント。数値基準は、成長加速化指数[成長率(売上高前年対比伸び率)10%以上×収益率(売上高経常利益率)10%以上=100%以上]です。2020年までの累計成長率は146%で現在の約1.5倍。そのときに経常利益率10%のレベルを実現できれば、他社を寄せ付けない圧倒的なポジションを築けます。 使命は「命を使う」とも読めます。会社の運命を賭けたミッションから、取り組むべき課題や事業は何かを見つめる―。本誌2015年12月号の「100年経営対談」でも、大和ハウス工業の樋口武男会長と「結局、世の中に役に立つ会社がつぶれない会社であり、世の中に喜んでもらえる会社が100年続く企業である」という答えにたどり着きました。やはり、事業や会社の持続的(サステナブル)成長力は、「使命」の在り方が決めるのです。 2016年の年頭に当たって、「使命は道」という言葉をお贈りします。顧客の課題を解決する道を歩みながら、その使命を果たされることを祈念いたします。

PROFILE
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若松 孝彦
Takahiko Wakamatsu
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。