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コラム
TCG社長メッセージ
タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
コラム 2015.12.28

その先にある課題を解決せよ:若松 孝彦

 

日本市場はモノ消費からコト解決へ

 

2016年の日本経済をまとめると、「消費マーケットから課題マーケットへの変化と成長」。つまり、「モノ消費からコト解決へ」という傾向が顕著になります。

 

日本国内では人口と世帯数の減少、2020年東京オリンピック・パラリンピック後の反動減、モノに対する欲求の減退といった要因により、「消費マーケット」の縮小が加速すると予測されます。一方で、こうした要因による社会構造の変化でさまざまな課題が新たに出現し、その課題を解決するコトを望む「課題マーケット」が相次いで誕生しています。

 

このマーケットで顧客が求めるソリューションが増えています。市場がナノ化(細分化・極小化)され、ホワイトスペース(未開拓の分野)を生み出している状況は、中堅・中小企業にとって大きなチャンスといえます。今まで以上に顧客価値を把握し、きめ細かい価値提供を行うことが重要です。

 

他方、2014年の倒産件数は9731件と24年ぶりに1万件を下回りました(東京商工リサーチ調べ)。プレーヤーが減らないまま需要が減少すれば、価格競争は激化します。過当競争です。やはり、モノ消費からコト解決のビジネスモデルへとシフトし、自社の固有技術で顧客の課題を解決していけるか、そのレベルが今後の成長を左右するでしょう。

 

また、戦略は「何」をやるかと同じくらい「誰」がやるかが重要です。人事戦略がますます重要なポイントになります。

 

2016年3月卒業予定の大学生・大学院生を対象とした大卒求人倍率は1.73倍と、採用が非常に難しくなっています(リクルートワークス研究所『ワークス大卒求人倍率調査』)。若者が減って生産年齢人口が減少する中、採用戦略は非常に高度な経営課題になっています。自社に人事部・人事課がなければ設置し、人事担当の増員に努めてください。人事戦略、特に採用戦略は、あらゆる手を打っても例年並みの成果しか挙がらないでしょう。

 

日本経済の主要な指標としては、2016年の実質GDPは541.1兆円(1.8%増)、個人消費は313.9兆円(1.7%増)と予測されています。2017年4月の消費税再増税を控え、駆け込み需要が起きるのは2016年。消費のリズムや政策を時系列でしっかり捉えてください。

 

設備投資は増加傾向で77.1兆円(4.2%増)ですが、中国経済の減速もあり、一進一退です。住宅投資は14.3兆円(4.9%増)と大きく伸びる予測。ただし、消費再増税前の駆け込み需要を読んだ数字なので、増税後の備えと構造転換は欠かせません。公共投資はマイナス基調が続きます。

 

為替と株に関しては、米国の金利引き上げ、インバウンド需要の取り込み、日銀の金融追加緩和により円安は定着すると考えてよいでしょう。株価は、「NISA(少額投資非課税制度)」の対象枠拡大、「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」の日本株運用比率引き上げ、郵政3社(日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)の上場など官製相場の感は否めませんが、2016年も現政権のままであれば一定の水準が維持されると考えられます。

 

その先にある3つの課題を先取りする

 

2016年に取るべき基本戦略は、「その先にある課題」を他社に先駆けて見つけ出し、いち早く解決すること。その課題は次の3つです。

 

①未来に確実に起こる顕在的課題(社会課題の視点)
…人口減少や世帯数減少など、確実視されている社会的課題

②今後起こり得る潜在的課題(顧客価値の視点)
…顧客がまだ認識していない潜在的課題

③顧客や商品の先にある課題
…顧客の先の顧客が抱える課題や商品流通過程における課題

 

繰り返しますが、「戦略は理念に従う」ので、理念から生まれる「ミッション× ソリューション」がこれからの真の戦略。ミッション(自社の使命)が顧客の課題を解決するように設計されていることが大事なのです。

 

ミッションは顧客価値とも言い換えられます。ミッションを追求するためのソリューション(事業)へ資源を配分するという考え方に立脚した事業ポートフォリオの設計が、ミッションロイヤリティ戦略の最重要ポイントになります。

 

さらに、セグメンテーション(市場の切り出し)も重要です。従来の消費マーケット型のセグメンテーションはエリアや年齢、性別、チャネルなどでしたが、ミッションロイヤリティ戦略では課題マーケット型のセグメンテーションが加わります。顧客価値のセグメンテーションへ変えることが、ミッションロイヤリティ戦略の本質といえます。

PROFILE
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若松 孝彦
Takahiko Wakamatsu
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。