2020年 年頭指針
「ポスト2020」、“祭りの後”は例外なき業界再編が起きる
2020年が始まります。今年、開催される東京オリンピック・パラリンピックは、日本が56年ぶりに招致した一大イベントであり、心待ちにされている方も多いのではないでしょうか。思い返せば2013年9月に東京での開催が決定し、その瞬間から「2020年」にはメルクマール(指針)としての特別な意味が与えられました。つまり、2020年をターゲットとするメルクマール経済が始まったのです。
そして、ついにオリンピックイヤーを迎えました。しかし、これは同時に「ポスト2020」、すなわち“祭りの後”の日本経済の始まりを意味しています。つまり、メルクマールなき日本経済の始まりであり、まさにポスト2020へ向けた新たな戦略を構築、推進するタイミングに差し掛かっているのです。
平成の時代を一言で表現すれば、「昭和の栄光の再来を期待し続けた時代」でした。その思考が多くの変革を遅らせました。令和の時代――ポスト2020は、「新しい時代」の幕開けであると認識すべきです。この時代は、日本の企業経営者に「例外なき業界再編」という厳しい現実を突き付けるでしょう。超少子高齢化と人口減少、記録更新を続ける国の債務残高、アベノミクスの終焉など、国・地域・企業・個人の全てにおいて、かつてないほどの再編が起こります。加えて、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表される巨大デジタルプラットフォーマーが、5Gインフラを使って業界の垣根なき市場再編を仕掛け、支配していこうとします。
2020年にタナベ経営が提言する「サステナブル戦略」は、その一つの道筋を示すものです。サステナブルとは、簡単に言えば「持続可能性の追求」。今、世界は環境問題や貧困、格差拡大をはじめ、多くの深刻な課題を抱えています。そうした社会課題の解決に貢献するサステナブル経営への関心が、グローバルに高まっています。最近よく聞かれるESG投資※1やSDGs経営※2は、その代表的な取り組みと言えるでしょう。
サステナブル経営は欧米を中心に広がっていますが、実は日本では昔から理念と利益を両立させる経営が実践されてきました。日本の資本主義の父と呼ばれた渋沢栄一は、著書『論語と算盤』に「道徳と経営は合一すべき」と記しています。大事なことは、「『理念と利益』『社会性と収益性』の両者を同時に追求する戦略、経営とは何か」を問うことです。それがサステナブル戦略であり、2030年に向けた新しいメルクマールになると私は考えています。
※1 ESG 投資:財務諸表だけでは測りきれない企業価値(環境・社会・企業統治への配慮など)を重視する投資
※2 SDGs 経営:企業理念や経営戦略にSDGs(持続可能な開発目標)を関連付けた経営
世界経済は停滞日本経済はジリ貧
サステナブル戦略を解説する前に、世界経済について確認しておきます。タナベ経営はここ数年、ポスト2020を見据えて海外視察に力を入れてきました。そこから得た知見や各経済指標を踏まえて世界経済を評するならば、「世界経済は停滞基調、日本経済はジリ貧基調」。最大の要因は、2020年の米中の成長率予測が共に減速していることです。
IMF(国際通貨基金)は、世界の実質GDP(国内総生産)成長率が2019年は3.0%、2020年は3.4%になると見込んでいます。2019年の見通しが5回連続で下方修正された理由は、米中貿易摩擦の深刻化にあります。2009年7月から続く米国の景気拡大は過去最長を更新中。さらに、トランプ政権の大型減税の効果もあって失業率は過去50年で最低となる3.5%を記録しました。
米中貿易摩擦の長期化が両国の経済成長に水を差していることは否めません。IMFは米国の実質GDP成長率について、2019年は2.4%、2020年を2.1%と予測しています。
一方、中国の予測は2019年が6.1%、2020年は5.8%。いよいよ6%を割り込みました。米中貿易摩擦の影響を受けて、2019年1~9月の米国の中国製品輸入は前年同期比で13%減少する半面、ベトナムや台湾、バングラデシュ、韓国などからの輸入が大幅に増加しており、東南アジア諸国への「サプライチェーンシフト」が顕著になっています。
そうした中国の景気減速は新興国の景気落ち込みにつながり、世界経済へダイレクトに影響を及ぼしています。ちなみに、日本については2019年が0.8%、2020年はオリンピックイヤーであるにもかかわらず0.5%と減速が見込まれています。
ただ、世界経済を中長期的に見ると成長要素はあります。①人口増加と中間所得層の増加の加速、②雇用情勢の安定化、③旺盛なインフラ投資とスタートアップ投資、④ESG/SDGs市場の拡大、⑤自由貿易の伸展、⑥クロスボーダー経営など、成長につながる六つの変化を押さえておくことが重要です。
まず、世界の人口は2030年に85億人、2050年には97億人に達すると予測されており、特に中間所得層の拡大は新たなマーケットの誕生につながると期待されています。また、世界各地でインフラ投資が活発化しています。特に、通信速度、容量が飛躍的に高まる5Gの普及は、多くの産業にビジネスモデルの転換を促す可能性があります。
そして、自由貿易圏の拡大や外資系企業の台頭がもたらす世界的な連結経済の拡大。アフリカ連合55カ国中、54カ国が合意した「アフリカ大陸自由貿易圏」(AfCFTA)がスタートしたほか、中国や日本、韓国などが参加する「東アジア地域包括的経済連携」(RCEP)も、インドは離脱を表明したものの、妥結に向けた交渉が進んでいます。実現すれば、TPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)に続き、世界のGDPの約3割を占める自由貿易圏が誕生することになります。
また、この20年間で外資系企業は急速に規模を拡大しています(【図表1】)。成長スピードは世界の実質GDP成長率を大きく上回っており、グローバル企業が世界経済をけん引していると言っても過言ではありません。そして、大規模化したグローバル企業は日本独特のサプライチェーンを壊し、日本の業界再編にも影響を与え始めています。あらゆる産業を巻き込んだ例外なき業界再編の波は、すぐ近くまで来ているのです。
【図表1】クロスボーダー経済活動の成長スピード
出典:経済産業省「世界の構造変化と日本の対応」(2018年5月)
日本企業が取り組むべき三つの基本戦略
次に日本経済について確認しておきましょう。日本経済を一言でまとめるなら、「短期的には堅調、リスクは世界経済の変調」です。内閣府が2019年7月に発表した経済見通しでは、2020年の実質GDP成長率は1.2%。しかし、先述のIMFの予測は0.5%でしたから、ほぼ「横ばい」と考えるのが妥当でしょう。
国内経済をけん引するのはインバウンド需要の拡大をはじめとする内需です。一方、海外進出企業の多くは新規採用コストの増加や離職率の上昇といった人材面の課題を抱えており、これが収益低下を招いています。コストダウン型の進出戦略を採った中堅・中小企業の中には、現地の賃金上昇によって厳しい経営を強いられる企業が少なくありません。海外ローカル市場を狙う「現地化」が急務と言えるでしょう。
また、日本企業の収益力の低さも課題です。直近の時価総額トップ10社のIR資料を調べたところ、全体の7割が増収の一方、5割が減益という状況でした。東京商工リサーチの業績見通しアンケート調査(2019年度)を見ても、「増益」(経常利益ベース)を見込む中小企業は前年比4.5ポイント減の26.2%。大企業でも同6.7ポイント減の28.7%。横ばいや減益予測の企業が増加しています。
その原因として約4割が「1人当たり賃金の上昇」を挙げており、少子高齢化が進む日本にとって人手不足は長期的な課題です。昨今は、人件費のアップによる固定費アップに加えて、為替による原材料のアップで変動費もアップしています。これによって損益分岐点がアップする、まさに「アップアップの状態」。今後、世界経済の減速が進めば、上昇分をカバーできずに収益が悪化することも十分に考えられます。
また、日本の人口が減少し、超少子高齢社会に突入することは明白です。生産年齢人口の減少に備えた機械化やデジタル化はもちろんですが、持続的成長を目指すなら、ブランディングや単価の見直し、コストリダクションといった利益重視の経営にシフトする必要があります。タナベ経営では「経常利益率10%以上」を重要な指標と位置付けていますが、日本の中小企業(製造業)の平均値は2.5%、零細企業に至っては0.9%※3と極めて低いのが現状です。
こうした状況を打開するには、①最適な事業ポートフォリオの構築、②新たなマーケットの創造、③デジタルトランスフォーメーションという三つの戦略が重要になります。昨今、欧米を中心とする外資系企業によるスタートアップ投資が活発化しているように、スピードの求められる時代においてスタートアップに対する投資や支援は事業を活性化させる有効な手段になり得ます。2019年、タナベ経営は世界的アクセラレーターであるプラグ・アンド・プレイと提携しました。スタートアップ支援に向けた情報発信を含めて、クライアント企業の持続的成長のサポートに務めてまいります。
※3 神戸大学大学院教授・忽那憲治氏の講演資料「地方創生のカギを握る『スタートアップとベンチャー型事業承継』」
世界で戦うためのゲームチェンジが起きている
ここまで世界経済の潮流や日本の現状を見てきましたが、問題は、国内外の環境変化が日本経済や日本企業にどのようなチャンスとリスクをもたらすのかです。ポスト2020を迎える今、世界で戦うためのゲームチェンジが起こっています。次の六つのゲームチェンジにどう対応するかで未来は大きく変わります。
新しい時代、新しい目標を創り新たに挑む!
「今日は昨日の続きであっても、明日は今日の続きではない」。未来は過去の延長線上にはないのです。令和の新しい時代、昭和の呪縛から抜け出せなかった平成時代と同じ思考に陥ってはいけません。企業を取り巻く環境は今、非連続の中で想像をはるかに超える領域に踏み込もうとしています。ゲームチェンジによって一瞬にして風景が一変する時代であり、私たちを待ち受ける未来は、さまざまな環境変化を受けた、これまでとはまったく異なるものと捉えるべきでしょう。
東京オリンピック・パラリンピックにも期待が高まりますが、ラグビーやゴルフ、サッカー、テニスなど昨今のスポーツは実に面白い。理由の一つに「世界と戦っている」「世界のナンバーワンを狙っている」ことが挙げられます。人口が減少していく日本で、世界と戦わないスポーツは衰退していくでしょう。
企業も同じです。日本一を狙うのか、アジア一を狙うのか、世界一を狙うのかで、ゲームプランも変わってきます。ポスト2020の日本企業は例外なく「世界で戦うための六つのゲームチェンジ」に挑む必要があるのです。
未来は予測するためではなく、創るためにあります。東京オリンピック・パラリンピックへのメルクマール経済が終焉を迎える中、大事なことは新たなメルクマールを見いだすこと。そのキーワードが、サステナブル戦略です。
2030年を期限とした「Future Vision 2030」を創り、世界からリスペクトされる会社「サステナブルカンパニー」を目指しましょう。それを実行するのは「経営者」であり「リーダー」でなければなりません。そうした決意を込めて、令和最初の年頭指針は次の言葉で締めくくりたいと思います。
新しい時代、自ら新しい目標を創り、新たに挑む!
過去に執着することなく、未来を恐れることなく、新しい時代の新しいビジョンに向けて取り組んでいきましょう。
東京オリンピック・パラリンピック開催を控える2020年は、「ポスト2020」への戦略転換のタイミングとなる1年でもある。
しかし、ポスト2020問題の本質は景気動向ではなく、国や企業、個人にとってオリンピックに匹敵するメルクマール(指針)がなくなることだ。社会の持続性と企業の持続性が共存する未来経営モデル「サステナブル戦略」に挑み、2030年に向けた新たなメルクマールをつくろう。それは私たちリーダーの役割であり、責任なのである。
「ポスト2020」、“祭りの後”は例外なき業界再編が起きる
2020年が始まります。今年、開催される東京オリンピック・パラリンピックは、日本が56年ぶりに招致した一大イベントであり、心待ちにされている方も多いのではないでしょうか。思い返せば2013年9月に東京での開催が決定し、その瞬間から「2020年」にはメルクマール(指針)としての特別な意味が与えられました。つまり、2020年をターゲットとするメルクマール経済が始まったのです。
そして、ついにオリンピックイヤーを迎えました。しかし、これは同時に「ポスト2020」、すなわち“祭りの後”の日本経済の始まりを意味しています。つまり、メルクマールなき日本経済の始まりであり、まさにポスト2020へ向けた新たな戦略を構築、推進するタイミングに差し掛かっているのです。
平成の時代を一言で表現すれば、「昭和の栄光の再来を期待し続けた時代」でした。その思考が多くの変革を遅らせました。令和の時代――ポスト2020は、「新しい時代」の幕開けであると認識すべきです。この時代は、日本の企業経営者に「例外なき業界再編」という厳しい現実を突き付けるでしょう。超少子高齢化と人口減少、記録更新を続ける国の債務残高、アベノミクスの終焉など、国・地域・企業・個人の全てにおいて、かつてないほどの再編が起こります。加えて、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表される巨大デジタルプラットフォーマーが、5Gインフラを使って業界の垣根なき市場再編を仕掛け、支配していこうとします。
2020年にタナベ経営が提言する「サステナブル戦略」は、その一つの道筋を示すものです。サステナブルとは、簡単に言えば「持続可能性の追求」。今、世界は環境問題や貧困、格差拡大をはじめ、多くの深刻な課題を抱えています。そうした社会課題の解決に貢献するサステナブル経営への関心が、グローバルに高まっています。最近よく聞かれるESG投資※1やSDGs経営※2は、その代表的な取り組みと言えるでしょう。
サステナブル経営は欧米を中心に広がっていますが、実は日本では昔から理念と利益を両立させる経営が実践されてきました。日本の資本主義の父と呼ばれた渋沢栄一は、著書『論語と算盤』に「道徳と経営は合一すべき」と記しています。大事なことは、「『理念と利益』『社会性と収益性』の両者を同時に追求する戦略、経営とは何か」を問うことです。それがサステナブル戦略であり、2030年に向けた新しいメルクマールになると私は考えています。
※1 ESG 投資:財務諸表だけでは測りきれない企業価値(環境・社会・企業統治への配慮など)を重視する投資
※2 SDGs 経営:企業理念や経営戦略にSDGs(持続可能な開発目標)を関連付けた経営
世界経済は停滞日本経済はジリ貧
サステナブル戦略を解説する前に、世界経済について確認しておきます。タナベ経営はここ数年、ポスト2020を見据えて海外視察に力を入れてきました。そこから得た知見や各経済指標を踏まえて世界経済を評するならば、「世界経済は停滞基調、日本経済はジリ貧基調」。最大の要因は、2020年の米中の成長率予測が共に減速していることです。
IMF(国際通貨基金)は、世界の実質GDP(国内総生産)成長率が2019年は3.0%、2020年は3.4%になると見込んでいます。2019年の見通しが5回連続で下方修正された理由は、米中貿易摩擦の深刻化にあります。2009年7月から続く米国の景気拡大は過去最長を更新中。さらに、トランプ政権の大型減税の効果もあって失業率は過去50年で最低となる3.5%を記録しました。
米中貿易摩擦の長期化が両国の経済成長に水を差していることは否めません。IMFは米国の実質GDP成長率について、2019年は2.4%、2020年を2.1%と予測しています。
一方、中国の予測は2019年が6.1%、2020年は5.8%。いよいよ6%を割り込みました。米中貿易摩擦の影響を受けて、2019年1~9月の米国の中国製品輸入は前年同期比で13%減少する半面、ベトナムや台湾、バングラデシュ、韓国などからの輸入が大幅に増加しており、東南アジア諸国への「サプライチェーンシフト」が顕著になっています。
そうした中国の景気減速は新興国の景気落ち込みにつながり、世界経済へダイレクトに影響を及ぼしています。ちなみに、日本については2019年が0.8%、2020年はオリンピックイヤーであるにもかかわらず0.5%と減速が見込まれています。
ただ、世界経済を中長期的に見ると成長要素はあります。①人口増加と中間所得層の増加の加速、②雇用情勢の安定化、③旺盛なインフラ投資とスタートアップ投資、④ESG/SDGs市場の拡大、⑤自由貿易の伸展、⑥クロスボーダー経営など、成長につながる六つの変化を押さえておくことが重要です。
まず、世界の人口は2030年に85億人、2050年には97億人に達すると予測されており、特に中間所得層の拡大は新たなマーケットの誕生につながると期待されています。また、世界各地でインフラ投資が活発化しています。特に、通信速度、容量が飛躍的に高まる5Gの普及は、多くの産業にビジネスモデルの転換を促す可能性があります。
そして、自由貿易圏の拡大や外資系企業の台頭がもたらす世界的な連結経済の拡大。アフリカ連合55カ国中、54カ国が合意した「アフリカ大陸自由貿易圏」(AfCFTA)がスタートしたほか、中国や日本、韓国などが参加する「東アジア地域包括的経済連携」(RCEP)も、インドは離脱を表明したものの、妥結に向けた交渉が進んでいます。実現すれば、TPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)に続き、世界のGDPの約3割を占める自由貿易圏が誕生することになります。
また、この20年間で外資系企業は急速に規模を拡大しています(【図表1】)。成長スピードは世界の実質GDP成長率を大きく上回っており、グローバル企業が世界経済をけん引していると言っても過言ではありません。そして、大規模化したグローバル企業は日本独特のサプライチェーンを壊し、日本の業界再編にも影響を与え始めています。あらゆる産業を巻き込んだ例外なき業界再編の波は、すぐ近くまで来ているのです。
【図表1】クロスボーダー経済活動の成長スピード
出典:経済産業省「世界の構造変化と日本の対応」(2018年5月)
日本企業が取り組むべき三つの基本戦略
次に日本経済について確認しておきましょう。日本経済を一言でまとめるなら、「短期的には堅調、リスクは世界経済の変調」です。内閣府が2019年7月に発表した経済見通しでは、2020年の実質GDP成長率は1.2%。しかし、先述のIMFの予測は0.5%でしたから、ほぼ「横ばい」と考えるのが妥当でしょう。
国内経済をけん引するのはインバウンド需要の拡大をはじめとする内需です。一方、海外進出企業の多くは新規採用コストの増加や離職率の上昇といった人材面の課題を抱えており、これが収益低下を招いています。コストダウン型の進出戦略を採った中堅・中小企業の中には、現地の賃金上昇によって厳しい経営を強いられる企業が少なくありません。海外ローカル市場を狙う「現地化」が急務と言えるでしょう。
また、日本企業の収益力の低さも課題です。直近の時価総額トップ10社のIR資料を調べたところ、全体の7割が増収の一方、5割が減益という状況でした。東京商工リサーチの業績見通しアンケート調査(2019年度)を見ても、「増益」(経常利益ベース)を見込む中小企業は前年比4.5ポイント減の26.2%。大企業でも同6.7ポイント減の28.7%。横ばいや減益予測の企業が増加しています。
その原因として約4割が「1人当たり賃金の上昇」を挙げており、少子高齢化が進む日本にとって人手不足は長期的な課題です。昨今は、人件費のアップによる固定費アップに加えて、為替による原材料のアップで変動費もアップしています。これによって損益分岐点がアップする、まさに「アップアップの状態」。今後、世界経済の減速が進めば、上昇分をカバーできずに収益が悪化することも十分に考えられます。
また、日本の人口が減少し、超少子高齢社会に突入することは明白です。生産年齢人口の減少に備えた機械化やデジタル化はもちろんですが、持続的成長を目指すなら、ブランディングや単価の見直し、コストリダクションといった利益重視の経営にシフトする必要があります。タナベ経営では「経常利益率10%以上」を重要な指標と位置付けていますが、日本の中小企業(製造業)の平均値は2.5%、零細企業に至っては0.9%※3と極めて低いのが現状です。
こうした状況を打開するには、①最適な事業ポートフォリオの構築、②新たなマーケットの創造、③デジタルトランスフォーメーションという三つの戦略が重要になります。昨今、欧米を中心とする外資系企業によるスタートアップ投資が活発化しているように、スピードの求められる時代においてスタートアップに対する投資や支援は事業を活性化させる有効な手段になり得ます。2019年、タナベ経営は世界的アクセラレーターであるプラグ・アンド・プレイと提携しました。スタートアップ支援に向けた情報発信を含めて、クライアント企業の持続的成長のサポートに務めてまいります。
※3 神戸大学大学院教授・忽那憲治氏の講演資料「地方創生のカギを握る『スタートアップとベンチャー型事業承継』」
世界で戦うためのゲームチェンジが起きている
ここまで世界経済の潮流や日本の現状を見てきましたが、問題は、国内外の環境変化が日本経済や日本企業にどのようなチャンスとリスクをもたらすのかです。ポスト2020を迎える今、世界で戦うためのゲームチェンジが起こっています。次の六つのゲームチェンジにどう対応するかで未来は大きく変わります。
〈世界で戦うための六つのゲームチェンジ〉
まず、改善すべきは低い収益性です。日本企業と世界企業の売上高純利益率(2006~15年平均)を比較すると、世界企業の平均6.88%に対して、日本企業は3.61%と半分程度の水準※4にとどまっています。利益率の低さは未来投資の少なさを表しています。コストダウンを追い掛けるだけでは、世界企業との利益率の格差は埋められません。要するに「ビジネスモデル戦略」や「ブランド戦略」が鍵になります。
次に、人材育成。スイスのIMD(国際経営開発研究所)の世界競争力センターが2019年11月に発表した「ワールド・タレント・ランキング2019」によれば、日本の人材競争力は世界63カ国・地域中35位。日本の労働者は読み書きなどの基礎力が高いものの、経営教育、管理職の能力、国際性(語学力、海外経験)など、高度な能力は低いという厳しい評価が下されました。グローバル市場で戦うためには、人材レベルの高度化が不可欠です。
さらに、デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れも深刻です。DXとは、クラウド、AI、IoT、ICTを活用して新しい商品やサービス、新しい組織やコミュニケーションを再構築する活動のこと。日本企業のIT投資は業務プロセスの改善やコスト削減が中心でしたが、製品・サービスの開発やマーケティングといった新たな価値を生み出すIT投資にも、積極的に取り組むべきだと私は考えています。欧米企業はこの分野へIT投資をしており、その結果、ビジネスモデル力やブランド力が高まっています。経営者がデジタルリーダーシップを発揮することが重要です。
ここまで暗い話が続きましたが、明るい話題もあります。IMDが2019年5月に発表した「世界競争力ランキング」で、日本は30位(2018年は25位)と順位を下げたものの、持続可能性に関する長期的な基準のうち「持続可能な開発」が1位、「環境関連の技術」で2位を獲得しました。
私は、日本の価値はここにあると思います。サステナブル分野において、日本は世界から高い評価を得ているのです。日本が100年先も選ばれる国になるには、こうした持ち味を生かし、伸ばし、ブランディングしていくことです。2030年に向けて、このコンセプトを世界に発信できる会社、事業を目指しましょう。サステナブルな事業、サステナブルなブランド、サステナブルな組織、サステナブルな収益体質を実現するのは経営者の皆さんです。
※4 経済産業省「世界の構造変化と日本の対応」(2018年5月)
挑む--
新しい時代、「Future Vision 2030」へ
世界からリスペクトされるサステナブル戦略へ挑む
サステナブル戦略は、慈善事業とも、短期利益追求モデルとも一線を画する、社会性と経済性を高い次元で両立させる持続可能経営モデルです。タナベ経営は、サステナブル戦略を「社会の持続性と企業の持続性が共存した未来経営モデルの実現」と定義しました。方程式で表すなら「企業の社会的価値×企業の経済的価値=企業価値」です。
サステナブル戦略のスタート地点は、「私たちは未来の世界に何をもたらすべきなのか」を考えること。それを「社会や顧客の願いを叶える、実現したい未来」に置き換えて、ビジョンとして発信するところから始まります。加えて、それらを実現するのは「戦略投資」、すなわち“そろばん”が欠かせません。指数化すると、「サステナブル指数(100)=売上高経常利益率(10%)×連続増益期間(10年)」となります。目標とすべき経営指標は、「粗利益率40%、経常利益率10%、経常利益成長率10%、連続増益10年、無借金経営」。トリプルテン(利益率10%、成長率10%、連続10年)を目指す経営が求められます。
ただ、ここまでに指摘した通り、利益率の低さは日本企業の大きな課題です。サステナブル戦略を実現するには、「持続可能なビジネスモデル」「持続可能な組織モデル」「持続可能な収益モデル」という三つのサステナブルへの取り組みが欠かせません。事業の数を増やし、最適なポートフォリオを設計することが持続的成長につながります。まずは数多くの社会課題を発見し、それを解決する事業と適合するビジネスモデルをつくることです。
では、具体的にどのようにサステナブル戦略を推進していくか。ポイントとなるのは、五つの「新しい戦略技術」と「新しい経営技術」です(【図表2】)。2030年までの道標となる「Future Vision 2030」を策定し、全10テーマの「新しい戦略技術」「新しい経営技術」を組み込むことをお勧めします。目標を掲げ、道筋を明確にすること。そこから全ての行動が始まります。
【図表2】長期ビジョン「Future Vision 2030」 世界の人々(顧客)の願いを叶かなえる、実現したい未来をビジョンとして掲げる
- ①収益力の向上
- ②海外に通用する人材の育成
- ③デジタルトランスフォーメーションへの取り組み
- ④M&Aによる海外へのスピード展開
- ⑤サステナブル企業を目指す
- ⑥サプライチェーンの再構築
新しい時代、新しい目標を創り新たに挑む!
「今日は昨日の続きであっても、明日は今日の続きではない」。未来は過去の延長線上にはないのです。令和の新しい時代、昭和の呪縛から抜け出せなかった平成時代と同じ思考に陥ってはいけません。企業を取り巻く環境は今、非連続の中で想像をはるかに超える領域に踏み込もうとしています。ゲームチェンジによって一瞬にして風景が一変する時代であり、私たちを待ち受ける未来は、さまざまな環境変化を受けた、これまでとはまったく異なるものと捉えるべきでしょう。
東京オリンピック・パラリンピックにも期待が高まりますが、ラグビーやゴルフ、サッカー、テニスなど昨今のスポーツは実に面白い。理由の一つに「世界と戦っている」「世界のナンバーワンを狙っている」ことが挙げられます。人口が減少していく日本で、世界と戦わないスポーツは衰退していくでしょう。
企業も同じです。日本一を狙うのか、アジア一を狙うのか、世界一を狙うのかで、ゲームプランも変わってきます。ポスト2020の日本企業は例外なく「世界で戦うための六つのゲームチェンジ」に挑む必要があるのです。
未来は予測するためではなく、創るためにあります。東京オリンピック・パラリンピックへのメルクマール経済が終焉を迎える中、大事なことは新たなメルクマールを見いだすこと。そのキーワードが、サステナブル戦略です。
2030年を期限とした「Future Vision 2030」を創り、世界からリスペクトされる会社「サステナブルカンパニー」を目指しましょう。それを実行するのは「経営者」であり「リーダー」でなければなりません。そうした決意を込めて、令和最初の年頭指針は次の言葉で締めくくりたいと思います。
新しい時代、自ら新しい目標を創り、新たに挑む!
過去に執着することなく、未来を恐れることなく、新しい時代の新しいビジョンに向けて取り組んでいきましょう。
PROFILE
若松 孝彦
Takahiko Wakamatsu
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。