2018年 年頭指針
今は戦後2番目に長い景気回復のさなかにありますが、実は水面下でポスト経済を控えて強烈な価値観の変化と産業構造の転換が起きています。従って、生産性を単純なコストダウンではなく、「生産性とは戦略である」と捉えるべきでしょう。具体的には、「ビジネスモデル投資」「働き方改革投資」「人材活躍投資」という3つの戦略投資によって生産性をカイカクすることです。
ポスト経済は、暗い経済ではありません。しかし、明るい経済でもありません。成長するために変化できるチャンスが大きい環境なのです。
波乱含みの世界経済米国と中国の動向に注視
次に、2018年の世界経済の現状について確認しておきましょう。世界経済の基調をまとめると、「波乱はあっても成長する。その成長スピードが変化する」。IMF(国際通貨基金)が2017年10月に発表した世界経済見通し(WEO)によると、2018年の世界経済の実質GDP成長率は3.7%(2017年は3.6%)。「3LOW(トリプルロー:低成長、低インフレ、低賃金)」からのステージアップがベースとなります。
米国は、トランプ政権が掲げる3大改革(医療保険制度の改廃、税制改革、インフラ投資)のうち、「オバマケア改廃法」の成立が絶望的です。しかし、共和党政権の基本政策である連邦法人税率の引き下げは、昨年11月に現行の35%から20%へ下げる税制改革法案が下院で可決されました。一方、家計債務残高が2007年のリーマン・ショック直前の水準に達しており、返済負担増加のリスクも懸念されています。特に学生ローンの割合が増加傾向にあり、トランプ政権が学生ローン向けの財政支援縮小を打ち出せば、消費低迷の引き金となる可能性もあります。
米国の2017年1~10月の新車販売台数は前年同期比1.7%減。2年連続で過去最高を更新した2016年とは違い、頭打ちの様相です。製造業のけん引役でもある自動車産業が低迷すれば、雇用・経済に与えるマイナスのインパクトは大きい。金融政策が景気の鍵を握るといえるでしょう。
欧州は、堅調な内需に支えられ好調に推移しています。欧州委員会が発表した2017年10月のユーロ圏総合景況感指数は114.0。市場予想を上回り、2001年1月以来ほぼ17年ぶりの高水準に達しています。ただ、気になるのは労働コストの上昇です。欧州連合(EU)統計局が発表した第2四半期のユーロ圏労働コストは前年同期比1.8%増と、2年ぶりとなる大幅な伸びを示しました。低賃金から脱却する動きが進んでおり、労働力コストの上昇をカバーできるだけの付加価値向上が得られるかが、今後の焦点となります。また、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が2018年から量的金融緩和の縮小を表明している点にも、注視していく必要があります。
一方、中国経済は過剰債務、住宅バブル崩壊、資金流出という3つのリスクを抱えています。IMFの独自試算によれば、中国の銀行融資のうち「不良債権、要注意先、グレーゾーン(銀行融資部分)」の合計が対GDP比で12%に達しており、債務リスクは依然として高い状態です。
過熱する不動産マネーと金融緩和縮小局面での下振れリスクにも注意が必要です。不動産やインフラを投資対象とするファンドの運用額は、2017年上半期で過去最高水準の875億ドル(約10兆円)に上ります。不動産価格は高騰しており、上海の新築住宅価格は平均年収の20倍以上ともいわれています。これが、「世界バブル」「ハイパーインフレ」と呼ばれる兆候の1つなのです。
また、中国の産業構造は第3次産業へ移行しつつあり、製造業では高度化が志向されています。GDPに占める研究開発費比率は英国を抜いてフランスに接近しており、先進国並みの水準に達しています。
ASEAN5(インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム)は、資源輸出依存度が低いフィリピンやタイ、ベトナムで資源価格の下落が追い風になっています。ベトナムとフィリピンは米中への輸出依存度が高いため、米国経済や中国経済の好不調が自国の景況に直結するでしょう。フィリピンとタイは、サービス輸出が高水準で推移しています。
国内環境は過去最高水準業績の改善を賃金に転嫁できるか
日本経済については、2018年の実質GDP成長率が0.7%(IMF予測、2017年は1.5%)。補正予算による財政効果が剥落し減速する見通しです。なお、OECD(経済協力開発機構)の見通しでは1.2%となっています。現在、企業業績は堅調に推移しています。損益状況を四半期ベースで見ると(財務省「法人企業統計」)、2017年7~9月期(金融・保険業を除く全産業、以降同)の売上高は前年同期比4.8%増と4四半期連続で増加しました。経常利益も同5.5%増と5四半期連続で増加し、7~9月期としては過去最高を更新しました。要するに「増収増益」です。さらに売上高経常利益率は全産業で5.3%。ちなみに前期(17年4~6月期)は6.8%で、これは1985年以降で最高水準でした。
個人消費に目を移すと、スマートフォンの普及やICT(情報通信技術)革新、都市化、単身化や高齢化といった変化が個人消費の構造を大きく変えていくと予測されます。また、実店舗からインターネット販売へのシフトにより、2016年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は15.1兆円(前年比9.9%増、経済産業省調べ)まで拡大しています。いずれにしましても、個人消費の鍵を握る賃金上昇に、企業の増収増益をどれだけ転嫁できるかがポイントになります。
国内消費を支えるインバウンドも増加傾向にあります。2017年の訪日外国人客数(推計値)は、11月4日時点の累計値で2016年の年間数値(2404万人)を上回り、年間合計が5年連続の過去最高となる2800万人を超える見通しとなりました。政府は新たな目標(2020年に訪日外国人客数4000万人、訪日外国人旅行消費額8兆円)を掲げましたが、空港のキャパシティーや宿泊施設の不足、宿泊施設で働く労働力不足などの課題を抱えています。特に「接客・給仕」「飲食物調理」などのサービス職の有効求人倍率は全職業平均を大きく上回っており、人手不足が深刻です。
ところで、タナベ経営では「経常利益率10%経営」を提言し続けてきました。粗利益率40%で経常利益率10%が理想のバランスです。その理由は、これがブランド力によって生み出される値だからです。たとえ戦略投資および償却後の経常利益率が8%だとしても、付加価値の額や率が高まるのであれば問題ありません。最も悪いシナリオは、低い経常利益率を放置した結果、戦略投資もできないまま、景気の腰折れによって損益分岐点を割り込んでいく経営です。
東京の人口が減少する大転換する価値観の先
日本経済は2012年末から続く緩やかな景気の回復基調と、それに伴う雇用情勢の改善によって、人手不足感がバブル期並みに高まっています。少子高齢化・人口減少が進む中、日本の生産年齢人口は2015年から2030年までの15年間で852.8万人の減少が見込まれています。帝国データバンクの調査によれば、2017年上半期(1~6月)の「人手不足倒産」が2013年の同時期と比べ約3倍になるほど、深刻な問題です。
労働力環境・採用環境を見る際のインパクトポイントは大きく3つ。1つ目は有効求人倍率の上昇です。厚生労働省が発表する有効求人倍率(季節調整値)を見ると、2017年4月(1.48倍)にバブル期のピーク(1990年7月=1.46倍)を上回り、10月(1.55倍)には1974年1月(1.64倍)以来43年9カ月ぶりの高水準となりました。特に、2018年3月卒業予定の大学生・大学院生対象の大卒求人倍率は1.78倍(リクルートワークス研究所調べ)。全国の民間企業の求人総数は前年の73.4万人から75.5万人へ2.1万人増加しました。新卒募集人数と就職希望者数の隔たりが顕著になっています。
2つ目は、18歳人口のピークアウト。「2018年問題」とは、2018年ごろに将来の労働力である18歳以下の人口が減少に転じることを指します。2018年に120万人を割り込むことが確実視されており、新卒人材の獲得競争の激化は避けられません。
3つ目のインパクトは、東京都人口のピークアウト。2025年をピークに、一極集中の東京ですら人口が減少へ向かうと予測されています。2025年は「団塊の世代」が全て75歳以上(後期高齢者)となるため、高齢者の死亡数増加による「自然減の拡大」が見込まれています。
「次元の異なる未来」がポスト経済の本質。
「新たなスタンダード」を確立し直す必要があります。
「過去肯定、現状否定、未来創造」
の精神で、異次元経済へ挑む
こうした情勢を踏まえると、2018年は新たな競争に向けた分岐点となる年といえるでしょう。「ポスト経済」時代は、消費増税や東京五輪以降の「需要減」がリスクの本質ではありません。ポスト経済下に必要なのは、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ロボットなどのデジタルテクノロジー、Webを活用した異次元ともいえるビジネスモデルとの競争、そして価値観の変化や人手不足を背景にした「働き方・生産性カイカク」への取り組みだと私は考えています。
つまり、「次元の異なる未来」がポスト経済の本質であり、「新たなスタンダード」を確立し直す必要があります。結論を申し上げれば、生産性カイカクとは「ビジネスモデル/ブランド」「デジタル/ICT」「人材活躍」へ戦略投資を行い、「人が主役のビジネスモデル」を創ることに尽きます。
生産性カイカクがビジネスモデルを変える。そのような時代に着目すべき4つのポイントを、これから順にご紹介します。
① 時間は短く、価値はより高く
ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」を運営するロイヤルホールディングスは、人手不足や採用難への対応として「24時間営業の廃止」を決断しました。外食産業では長時間営業が常識でしたが、同社は2017年3月末までにロイヤルホスト全店の平均営業時間を約1時間20分短縮、ランチタイムやディナータイムの人員を増やしてサービス品質の向上に努めました。営業時間を短縮したにもかかわらず、既存店売上高は逆に上昇へ転じ、17年12月期第3四半期連結決算ではロイヤルホスト事業の売上高が約287億円(前年同期比0.2%増)、経常利益は約17億円(同22.4%増)と増収・大幅増益を実現しました。また深夜や早朝勤務がないため、アルバイトの応募者数も増えているそうです。
② 社会的課題の解決に寄り添う
ラーメン・中華料理店チェーンの「ハイデイ日高」は、2006年に焼き鳥チェーン業態へ進出しました。主力業態の「駅前立地+チョイ飲み」という独自スタイルを生かせることが進出の決め手ですが、創業者で会長の神田正氏によれば「現場で頑張って働いてくれた社員の高齢化に対応する」ことも大きな理由だったそうです。同社の中華料理店で使用する中華鍋は1㎏以上あり、1日8時間も振り続けるのは重労働。ですが、焼き鳥なら腕力は要りませんから、シニアでも仕事を続けられます。言葉を変えるなら、雇用の確保から始まったビジネスモデルともいえるわけです。
③「デジタルスピード経営」
デジタルテクノロジーの進化は事業スピードの高速化をもたらしました。「118年と33年」。前者はNTT(日本電信電話)が営業利益1兆円超えに要した年数、後者はソフトバンクグループのそれです。また、世界最大のホテルグループである米国マリオット・インターナショナルは、第1号ホテルを開業(1957年)してから総客室数110万室に達するまで59年を要しました。しかし、民泊予約サイトのAirbnb(エアービーアンドビー)はわずか7年で150万室を突破しました。このスピード感を生み出すテクノロジーこそ、全世界で20億人以上が利用するスマートフォンです。
④ プラットフォーム革命
現在、競争の次元が変わり始めています。人を取り巻く環境の変化やデジタル革命、ビジネスモデル競争の視点から、人が主役となる新たなスタンダードを確立すべき時期が来ています。日本の2016年度の名目労働生産性(時間当たり)は4828円と過去最高を更新しました。しかし、OECD加盟国との比較では低位にとどまっています。
生産性を上げる1つの指標として、タナベ経営は「1人当たり経常利益」の採用を推奨しています。目指すは、1人当たり年間経常利益300万円。従業員100名なら3億円、従業員300名なら9億円の経常利益が必要です。簡単ではありませんが、生産性カイカクを進めるのは過去肯定、現状否定、未来創造への意志です。コストダウンではなく戦略投資が必要であり、まずはリーダー自身の価値観を変えることから始まります。
人を繋ぐイノベーションが生産性とスピードを高める
最後に、生産性カイカクを実現するポイントを説明しましょう。
1つ目は、ビジネスモデル。選ばれるビジネスモデルへと突き抜けることが重要です。具体的には、①常識を超える・絞り込む、②サービス化・専門化に磨きをかける、③自社の強みや不足を繋ぐオープンイノベーションを最大限に発揮することの3つです。
2つ目が、戦略投資。コンセプトは、成長加速に向けた投資です。①成長機会への投資、②創造開発への投資、③働きがいへの投資が不可欠です。そして3つ目は、人材育成。自立的に学び・活躍するチームをつくるには、①経営者人材を早く・多く育てる、②人を活かし・育てる思想でチームをつくる、③学び方を改革する、という3つの視点が欠かせません。
タナベ経営でも、社内大学「コンサルタントアカデミー」を設立し、人材の早期プロフェッショナル化に取り組んでいます。OJTや集合研修などに加えて、スマートフォンやタブレットを利用すれば、いつでも、どこでも、誰でも学べる。こうした環境づくりを進めることによって、働き方改革や働きがい、生産性カイカクへとつながっていきます。
つまり、学び方改革を通じて社員一人一人が活躍し、それぞれが主役となる「物語」を創る。それが社員の働きがいにつながるのです。会社の物語は、創業者や社長だけのものではありません。現場や社員、組織の中にこそあると私は考えています。
いずれにしても、生産性カイカクのスピードを高めるためには社内外を繋ぐ、オープンイノベーションの技術を身に付ける必要があります。
「ポスト2020」を見据えた「ビジョン2025」のすすめ
東証1部上場企業の2018年3月期の通期連結決算は、経常利益が過去最高を更新する見通し(時事通信社調べ)です。上場企業のIR資料を見ると、2020年までに極めて高い成長ステージを設定し、短期決戦、前倒しで計画を達成しているところが散見されます。中堅・中小企業においても、中期経営計画の策定・見直しを進めるとともに、その推進レベルを上げることが成長につながります。
そのためにもスピード感が重要なのです。繰り返しますが、社内外の知恵を結集する「オープンイノベーション」が必要です。さらに、2020年の先を見ること。新中期経営計画の出口は2025年あたりに設定すべきです。経営は、悲観的に準備して楽観的に行動することが肝要。また、企業価値を含めたコーポレートアイデンティティーを見直すことをおすすめします。企業デザインを考える上で、今の会社ロゴやコーポレート・メッセージは過去・現在・未来のビジネスを物語っているか、社員や顧客が魅力を感じるものか、世界に通用する社名だろうかといった視点から、2025年までを見据えたブランディングをする必要があります。
人材不足の時代には、男性、女性、若手、ベテランの区分に意味はありません。激しい人材獲得競争、人材活躍競争に企業は勝ち抜かねばなりません。
会社という存在が「全ての人が幸せになり、全ての人が活躍できる場所になる」よう、生産性カイカクへ取り組んでいきましょう。そして「5つのポスト」経済を迎える今こそ、成長する未来を切り拓いていきましょう。
長期的な景気回復期にありながら、水面下では強烈な価値観の変化と産業構造の転換が動き始める2018年。「5つのポスト」経済の到来を予感させる1年になりそうだ。従来の改革を超える「生産性カイカク」によって、人と組織の価値観を次のステージへと高めていただきたい。
「5つのポスト」は現状否定のチャンス
タナベ経営は2017年10月に創業60周年を迎えました。これも皆さまのご支援があってのことと心より感謝申し上げます。これからも「企業繁栄に奉仕する」という創業精神と、「ファーストコールカンパニーの創造」を使命に掲げ、コンサルティングファームのパイオニアとして活動してまいります。
新年に当たり、私共が皆さまへご提言させていただく2018年度の経営指針は、「生産性カイカク戦略―成長する未来を、いま切り拓こう」です。「改革」をカタカナにしたのは、生産性の向上とは単なるコストダウンやコストカット、効率追求ではない、というメッセージをお伝えするためです。
「経営の神様」といわれる松下幸之助翁は、「5パーセントのコストダウンをはかるより、30パーセント下げる方が容易な場合がある。5パーセントのときは、今までの延長線上で考えがちだが、30パーセントともなれば、もはや発想を根本的に転換せざるを得ず、そこからまったく新しい発想が生まれてくることがあるからである」(『松下幸之助日々のことば』PHP研究所)と述べています。同感です。5%の改善は「現状肯定」から始めることができますが、30%の改革は「現状否定」から始めないと難しい。現状否定から始め、従来の生産性アプローチを超える「超生産性アプローチ」が、生産性カイカクなのです。
これまでも、2020年をターゲットに「中期3年2回転の経営」を提言してきました。今年は2018年、後半の3年間に突入する今こそ、私たちは価値観をリセットする必要があります。一言で言えば、「『5つのポスト』経済の到来」(【図表】)。ポスト金融緩和(2018年4月?)、ポスト平成時代(2019年5月~)、ポスト消費増税(同年10月~)、ポスト東京五輪(2020年9月~)、ポスト・アベノミクス(2021年9月~)。こうした「5つのポスト」経済下に成長できる企業体質を創っていかなければなりません。
今は戦後2番目に長い景気回復のさなかにありますが、実は水面下でポスト経済を控えて強烈な価値観の変化と産業構造の転換が起きています。従って、生産性を単純なコストダウンではなく、「生産性とは戦略である」と捉えるべきでしょう。具体的には、「ビジネスモデル投資」「働き方改革投資」「人材活躍投資」という3つの戦略投資によって生産性をカイカクすることです。
ポスト経済は、暗い経済ではありません。しかし、明るい経済でもありません。成長するために変化できるチャンスが大きい環境なのです。
波乱含みの世界経済米国と中国の動向に注視
次に、2018年の世界経済の現状について確認しておきましょう。世界経済の基調をまとめると、「波乱はあっても成長する。その成長スピードが変化する」。IMF(国際通貨基金)が2017年10月に発表した世界経済見通し(WEO)によると、2018年の世界経済の実質GDP成長率は3.7%(2017年は3.6%)。「3LOW(トリプルロー:低成長、低インフレ、低賃金)」からのステージアップがベースとなります。
米国は、トランプ政権が掲げる3大改革(医療保険制度の改廃、税制改革、インフラ投資)のうち、「オバマケア改廃法」の成立が絶望的です。しかし、共和党政権の基本政策である連邦法人税率の引き下げは、昨年11月に現行の35%から20%へ下げる税制改革法案が下院で可決されました。一方、家計債務残高が2007年のリーマン・ショック直前の水準に達しており、返済負担増加のリスクも懸念されています。特に学生ローンの割合が増加傾向にあり、トランプ政権が学生ローン向けの財政支援縮小を打ち出せば、消費低迷の引き金となる可能性もあります。
米国の2017年1~10月の新車販売台数は前年同期比1.7%減。2年連続で過去最高を更新した2016年とは違い、頭打ちの様相です。製造業のけん引役でもある自動車産業が低迷すれば、雇用・経済に与えるマイナスのインパクトは大きい。金融政策が景気の鍵を握るといえるでしょう。
欧州は、堅調な内需に支えられ好調に推移しています。欧州委員会が発表した2017年10月のユーロ圏総合景況感指数は114.0。市場予想を上回り、2001年1月以来ほぼ17年ぶりの高水準に達しています。ただ、気になるのは労働コストの上昇です。欧州連合(EU)統計局が発表した第2四半期のユーロ圏労働コストは前年同期比1.8%増と、2年ぶりとなる大幅な伸びを示しました。低賃金から脱却する動きが進んでおり、労働力コストの上昇をカバーできるだけの付加価値向上が得られるかが、今後の焦点となります。また、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が2018年から量的金融緩和の縮小を表明している点にも、注視していく必要があります。
一方、中国経済は過剰債務、住宅バブル崩壊、資金流出という3つのリスクを抱えています。IMFの独自試算によれば、中国の銀行融資のうち「不良債権、要注意先、グレーゾーン(銀行融資部分)」の合計が対GDP比で12%に達しており、債務リスクは依然として高い状態です。
過熱する不動産マネーと金融緩和縮小局面での下振れリスクにも注意が必要です。不動産やインフラを投資対象とするファンドの運用額は、2017年上半期で過去最高水準の875億ドル(約10兆円)に上ります。不動産価格は高騰しており、上海の新築住宅価格は平均年収の20倍以上ともいわれています。これが、「世界バブル」「ハイパーインフレ」と呼ばれる兆候の1つなのです。
また、中国の産業構造は第3次産業へ移行しつつあり、製造業では高度化が志向されています。GDPに占める研究開発費比率は英国を抜いてフランスに接近しており、先進国並みの水準に達しています。
ASEAN5(インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム)は、資源輸出依存度が低いフィリピンやタイ、ベトナムで資源価格の下落が追い風になっています。ベトナムとフィリピンは米中への輸出依存度が高いため、米国経済や中国経済の好不調が自国の景況に直結するでしょう。フィリピンとタイは、サービス輸出が高水準で推移しています。
国内環境は過去最高水準業績の改善を賃金に転嫁できるか
日本経済については、2018年の実質GDP成長率が0.7%(IMF予測、2017年は1.5%)。補正予算による財政効果が剥落し減速する見通しです。なお、OECD(経済協力開発機構)の見通しでは1.2%となっています。現在、企業業績は堅調に推移しています。損益状況を四半期ベースで見ると(財務省「法人企業統計」)、2017年7~9月期(金融・保険業を除く全産業、以降同)の売上高は前年同期比4.8%増と4四半期連続で増加しました。経常利益も同5.5%増と5四半期連続で増加し、7~9月期としては過去最高を更新しました。要するに「増収増益」です。さらに売上高経常利益率は全産業で5.3%。ちなみに前期(17年4~6月期)は6.8%で、これは1985年以降で最高水準でした。
個人消費に目を移すと、スマートフォンの普及やICT(情報通信技術)革新、都市化、単身化や高齢化といった変化が個人消費の構造を大きく変えていくと予測されます。また、実店舗からインターネット販売へのシフトにより、2016年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は15.1兆円(前年比9.9%増、経済産業省調べ)まで拡大しています。いずれにしましても、個人消費の鍵を握る賃金上昇に、企業の増収増益をどれだけ転嫁できるかがポイントになります。
国内消費を支えるインバウンドも増加傾向にあります。2017年の訪日外国人客数(推計値)は、11月4日時点の累計値で2016年の年間数値(2404万人)を上回り、年間合計が5年連続の過去最高となる2800万人を超える見通しとなりました。政府は新たな目標(2020年に訪日外国人客数4000万人、訪日外国人旅行消費額8兆円)を掲げましたが、空港のキャパシティーや宿泊施設の不足、宿泊施設で働く労働力不足などの課題を抱えています。特に「接客・給仕」「飲食物調理」などのサービス職の有効求人倍率は全職業平均を大きく上回っており、人手不足が深刻です。
ところで、タナベ経営では「経常利益率10%経営」を提言し続けてきました。粗利益率40%で経常利益率10%が理想のバランスです。その理由は、これがブランド力によって生み出される値だからです。たとえ戦略投資および償却後の経常利益率が8%だとしても、付加価値の額や率が高まるのであれば問題ありません。最も悪いシナリオは、低い経常利益率を放置した結果、戦略投資もできないまま、景気の腰折れによって損益分岐点を割り込んでいく経営です。
東京の人口が減少する大転換する価値観の先
日本経済は2012年末から続く緩やかな景気の回復基調と、それに伴う雇用情勢の改善によって、人手不足感がバブル期並みに高まっています。少子高齢化・人口減少が進む中、日本の生産年齢人口は2015年から2030年までの15年間で852.8万人の減少が見込まれています。帝国データバンクの調査によれば、2017年上半期(1~6月)の「人手不足倒産」が2013年の同時期と比べ約3倍になるほど、深刻な問題です。
労働力環境・採用環境を見る際のインパクトポイントは大きく3つ。1つ目は有効求人倍率の上昇です。厚生労働省が発表する有効求人倍率(季節調整値)を見ると、2017年4月(1.48倍)にバブル期のピーク(1990年7月=1.46倍)を上回り、10月(1.55倍)には1974年1月(1.64倍)以来43年9カ月ぶりの高水準となりました。特に、2018年3月卒業予定の大学生・大学院生対象の大卒求人倍率は1.78倍(リクルートワークス研究所調べ)。全国の民間企業の求人総数は前年の73.4万人から75.5万人へ2.1万人増加しました。新卒募集人数と就職希望者数の隔たりが顕著になっています。
2つ目は、18歳人口のピークアウト。「2018年問題」とは、2018年ごろに将来の労働力である18歳以下の人口が減少に転じることを指します。2018年に120万人を割り込むことが確実視されており、新卒人材の獲得競争の激化は避けられません。
3つ目のインパクトは、東京都人口のピークアウト。2025年をピークに、一極集中の東京ですら人口が減少へ向かうと予測されています。2025年は「団塊の世代」が全て75歳以上(後期高齢者)となるため、高齢者の死亡数増加による「自然減の拡大」が見込まれています。
「次元の異なる未来」がポスト経済の本質。
「新たなスタンダード」を確立し直す必要があります。
「過去肯定、現状否定、未来創造」
の精神で、異次元経済へ挑む
こうした情勢を踏まえると、2018年は新たな競争に向けた分岐点となる年といえるでしょう。「ポスト経済」時代は、消費増税や東京五輪以降の「需要減」がリスクの本質ではありません。ポスト経済下に必要なのは、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ロボットなどのデジタルテクノロジー、Webを活用した異次元ともいえるビジネスモデルとの競争、そして価値観の変化や人手不足を背景にした「働き方・生産性カイカク」への取り組みだと私は考えています。
つまり、「次元の異なる未来」がポスト経済の本質であり、「新たなスタンダード」を確立し直す必要があります。結論を申し上げれば、生産性カイカクとは「ビジネスモデル/ブランド」「デジタル/ICT」「人材活躍」へ戦略投資を行い、「人が主役のビジネスモデル」を創ることに尽きます。
生産性カイカクがビジネスモデルを変える。そのような時代に着目すべき4つのポイントを、これから順にご紹介します。
① 時間は短く、価値はより高く
ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」を運営するロイヤルホールディングスは、人手不足や採用難への対応として「24時間営業の廃止」を決断しました。外食産業では長時間営業が常識でしたが、同社は2017年3月末までにロイヤルホスト全店の平均営業時間を約1時間20分短縮、ランチタイムやディナータイムの人員を増やしてサービス品質の向上に努めました。営業時間を短縮したにもかかわらず、既存店売上高は逆に上昇へ転じ、17年12月期第3四半期連結決算ではロイヤルホスト事業の売上高が約287億円(前年同期比0.2%増)、経常利益は約17億円(同22.4%増)と増収・大幅増益を実現しました。また深夜や早朝勤務がないため、アルバイトの応募者数も増えているそうです。
② 社会的課題の解決に寄り添う
ラーメン・中華料理店チェーンの「ハイデイ日高」は、2006年に焼き鳥チェーン業態へ進出しました。主力業態の「駅前立地+チョイ飲み」という独自スタイルを生かせることが進出の決め手ですが、創業者で会長の神田正氏によれば「現場で頑張って働いてくれた社員の高齢化に対応する」ことも大きな理由だったそうです。同社の中華料理店で使用する中華鍋は1㎏以上あり、1日8時間も振り続けるのは重労働。ですが、焼き鳥なら腕力は要りませんから、シニアでも仕事を続けられます。言葉を変えるなら、雇用の確保から始まったビジネスモデルともいえるわけです。
③「デジタルスピード経営」
デジタルテクノロジーの進化は事業スピードの高速化をもたらしました。「118年と33年」。前者はNTT(日本電信電話)が営業利益1兆円超えに要した年数、後者はソフトバンクグループのそれです。また、世界最大のホテルグループである米国マリオット・インターナショナルは、第1号ホテルを開業(1957年)してから総客室数110万室に達するまで59年を要しました。しかし、民泊予約サイトのAirbnb(エアービーアンドビー)はわずか7年で150万室を突破しました。このスピード感を生み出すテクノロジーこそ、全世界で20億人以上が利用するスマートフォンです。
④ プラットフォーム革命
現在、競争の次元が変わり始めています。人を取り巻く環境の変化やデジタル革命、ビジネスモデル競争の視点から、人が主役となる新たなスタンダードを確立すべき時期が来ています。日本の2016年度の名目労働生産性(時間当たり)は4828円と過去最高を更新しました。しかし、OECD加盟国との比較では低位にとどまっています。
生産性を上げる1つの指標として、タナベ経営は「1人当たり経常利益」の採用を推奨しています。目指すは、1人当たり年間経常利益300万円。従業員100名なら3億円、従業員300名なら9億円の経常利益が必要です。簡単ではありませんが、生産性カイカクを進めるのは過去肯定、現状否定、未来創造への意志です。コストダウンではなく戦略投資が必要であり、まずはリーダー自身の価値観を変えることから始まります。
人を繋ぐイノベーションが生産性とスピードを高める
最後に、生産性カイカクを実現するポイントを説明しましょう。
1つ目は、ビジネスモデル。選ばれるビジネスモデルへと突き抜けることが重要です。具体的には、①常識を超える・絞り込む、②サービス化・専門化に磨きをかける、③自社の強みや不足を繋ぐオープンイノベーションを最大限に発揮することの3つです。
2つ目が、戦略投資。コンセプトは、成長加速に向けた投資です。①成長機会への投資、②創造開発への投資、③働きがいへの投資が不可欠です。そして3つ目は、人材育成。自立的に学び・活躍するチームをつくるには、①経営者人材を早く・多く育てる、②人を活かし・育てる思想でチームをつくる、③学び方を改革する、という3つの視点が欠かせません。
タナベ経営でも、社内大学「コンサルタントアカデミー」を設立し、人材の早期プロフェッショナル化に取り組んでいます。OJTや集合研修などに加えて、スマートフォンやタブレットを利用すれば、いつでも、どこでも、誰でも学べる。こうした環境づくりを進めることによって、働き方改革や働きがい、生産性カイカクへとつながっていきます。
つまり、学び方改革を通じて社員一人一人が活躍し、それぞれが主役となる「物語」を創る。それが社員の働きがいにつながるのです。会社の物語は、創業者や社長だけのものではありません。現場や社員、組織の中にこそあると私は考えています。
いずれにしても、生産性カイカクのスピードを高めるためには社内外を繋ぐ、オープンイノベーションの技術を身に付ける必要があります。
「ポスト2020」を見据えた「ビジョン2025」のすすめ
東証1部上場企業の2018年3月期の通期連結決算は、経常利益が過去最高を更新する見通し(時事通信社調べ)です。上場企業のIR資料を見ると、2020年までに極めて高い成長ステージを設定し、短期決戦、前倒しで計画を達成しているところが散見されます。中堅・中小企業においても、中期経営計画の策定・見直しを進めるとともに、その推進レベルを上げることが成長につながります。
そのためにもスピード感が重要なのです。繰り返しますが、社内外の知恵を結集する「オープンイノベーション」が必要です。さらに、2020年の先を見ること。新中期経営計画の出口は2025年あたりに設定すべきです。経営は、悲観的に準備して楽観的に行動することが肝要。また、企業価値を含めたコーポレートアイデンティティーを見直すことをおすすめします。企業デザインを考える上で、今の会社ロゴやコーポレート・メッセージは過去・現在・未来のビジネスを物語っているか、社員や顧客が魅力を感じるものか、世界に通用する社名だろうかといった視点から、2025年までを見据えたブランディングをする必要があります。
人材不足の時代には、男性、女性、若手、ベテランの区分に意味はありません。激しい人材獲得競争、人材活躍競争に企業は勝ち抜かねばなりません。
会社という存在が「全ての人が幸せになり、全ての人が活躍できる場所になる」よう、生産性カイカクへ取り組んでいきましょう。そして「5つのポスト」経済を迎える今こそ、成長する未来を切り拓いていきましょう。
PROFILE
若松 孝彦
Takahiko Wakamatsu
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。
関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。