登壇者:タナベコンサルティンググループ代表取締役社長 若松孝彦
登壇者:Surpass(タナベコンサルティンググループ)代表取締役社長 石原 亮子氏
モデレーター:ジャパンタイムズ代表取締役会長兼社長 末松 弥奈子氏
「女性活躍」という言葉がなくなる日を目指して
Surpass(タナベコンサルティンググループ)代表取締役社長 石原 亮子氏
末松: 2024年8月、タナベコンサルティンググループ(以降、TCG)とSurpass(以降、サーパス)はM&Aにより資本業務提携契約を締結。若松社長は1000社を超える企業の経営コンサルティングを経験した後、代表取締役社長に就任し、その後の2016年9月に東証プライム(当時は東証一部)上場を実現されました。現在は合計約900名のプロフェッショナルを有する、TCGグループ8社の経営に取り組み、大企業から中堅企業の経営者やトップマネジメント層が抱える経営課題に対して、一気通貫の経営コンサルティングを提供してきました。
一方、石原社長は2008年にサーパスを創業し、女性社員を中心としたBtoBの営業アウトソーシング&コンサルティング事業を展開。「日本から女性活躍という言葉がなくなる日」を目指して、自らそのミッションを実践し、EO Beyond Japanの設立メンバーの一人として、アクセラレータ理事も務めています。
今回は、両社がどのような思いで手を結ばれたのか、約8カ月が経過した今、どのようなシナジーが生まれているかなど、双方の視点からM&Aの意義と可能性について詳しくお話を伺って参ります。
まずはサーパスをTCGにお迎えした経緯について教えていただけますか?
若松:HR(ヒューマンリソース)やマーケティング領域の新しいコンサルティングサービスを思案していた折に、石原社長とお会いしました。サーパスの「日本社会から『女性活躍』という言葉がなくなる日を目指して」というミッションを伺った瞬間、「サーパスとともにビジョンを実現したい!」」と直感したことを今でも覚えています。このミッションには石原社長の志と現代日本の社会課題解決への可能性が詰まっています。その志を経営実装している点に優秀な経営者の特徴を見ました。
石原:昨今、「女性活躍」という言葉を聞かない日はありません。しかし、日本はあまりにも遅れています。当社は創業以来17年間、女性に特化した営業代行・アウトソーシング、ダイバーシティーの推進に向けたコンサルティングや研修プログラムの提供、地方在住の女性を対象としたDXリスキリング支援「TECH WOMAN®︎(テックウーマン)」などに取り組んできました。その間、SDGs、ESG、人的資本などの文脈でDE&Iが語られる機会は以前より増えてきましたが、社会全体としては「流行」の域を出ていない印象です。
私としては、もっとスピード感をもってミッションを達成したい。そのためにも、ダイバーシティーを経営の「オプション」ではなく「デフォルト」として訴求できる方々と連携をしていきたい。そのような思いが募る中、信頼できるファイナンスアドバイザーの方からTCGをご紹介いただきました。
末松:M&Aは身近な選択肢となりつつありますが、そのプロセスは外から見えません。いざ、自社で実行するとなると、多くの経営者にとっては暗中模索のスタートだと思います。実際に対話を始めてみて、お互いにどのような印象を抱かれましたか?
タナベコンサルティンググループ代表取締役社長 若松孝彦
若松:石原社長は真面目で、まっすぐな経営者だと感じました。特に中規模の会社は経営者の資質で経営が決まります。サーパス本社を訪問して雰囲気を感じ取り、石原社長や下川副社長となら一緒に志を実現できると確信しました。また、両社が提供している価値をかけ合わせれば、クライアントはもちろん社員も幸せになれると思いました。
石原:非常に印象的だったのは、若松社長と長尾副社長が、ある食事会でお話しした内容を、後日全て提案書に落とし込み、「これらの約束は必ず守ります」と提示して下さったことです。この時、一緒に未来を目指していけると確信しました。
末松:このたびのM&Aでは、交渉の段階から両社共に中期経営計画とビジョンの作成を進めてこられたそうですね。
若松:はい。グループ経営のPMI(経営統合作業)は交渉の段階から始まります。これからどのような課題を共に解決していくのか。その志をプロセスとして見える化していく要諦は、やはり「中期経営計画の策定」であり「ビジョンの可視化」です。お互いの強みや長所に光をあてて、つなげていけば、会社は必ず強くなる。TCGが提唱している「長所連結経営」であり、チームワークの経営です。
TCGにとってのМ&Aは、弊社自身のビジョンである「唯一無二の経営コンサルティングモデルの創造(多角化)」によって、多くの企業を救うことにあるので、共に創るビジョンもその延長線上にあります。そのためには、主体的に経営に取り組める体制づくりを前提にしています。
もちろん、TCGのサポートは大切ですが、それ以上に石原社長のリーダーシップや経営陣、社員の皆さんが全力で仕事に取り組める環境をつくることが大切です。私たちの事業領域の全ては「人でできている」ので、製造業や商社のような感覚で経営はできません。そもそもビジョンの方向性が一致しているので資本提携をしたわけですからね。
石原:交渉の過程では、優秀なファイナンスアドバイザーが双方に付いていることも極めて重要だと思いました。当社にとってはM&A自体が初めての経験で、これまでM&Aを意識して社内の資料を作成してこなかったため、TCGとのデューデリジェンスで開示資料を整理し提出する際は、ファイナンスアドバイザーから手厚いサポートを受けました。
大手・中堅企業のトップへDE&I組織の重要性を提言する
ジャパンタイムズ代表取締役会長兼社長 末松 弥奈子氏
末松: グループインして約8カ月が経過しましたが、石原社長は今どのような変化を感じていらっしゃいますか?
石原:若松社長はじめ、社員の皆さんのまっすぐなお人柄に触れ、私自身が経営者として大きく成長させていただいております。また、社内に新しい活気が生まれ、社員一人一人の自己成長、組織改革への意欲が高まっていることを感じます。
当社の取締役として、TCGの竹内常務取締役と盛田執行役員の方2名が経営に参画して下さるようになり、経営陣からは「新たな視点を与えてくれる相談相手が増えてとてもありがたい」という喜びの声が上がっています。自己流の経営手法から脱却して、至らぬ点の多かった開示資料などの整備も進める中、上場企業の子会社にふさわしい組織として日々アップデートを重ねているところです。
末松:若松社長はいかがでしょうか?TCGとしてどのような点にシナジーを感じますか?
若松:そうですね。サーパスの社員の皆様をお迎えしたことにより、TCGの男女比率は50:50となりました。これは、世界の経営コンサルティングファームとしても類を見ない組織デザインと言って良いでしょうね。
当社の女性社員も大いに勇気付けられています。女性管理職比率は32%まで向上しましたが、今後さらに高めていきたいところです。
私は、「D&EI組織は、現代の日本社会にとってイノベーションの源泉になる」と社内外に提言しています。すでにHRとデジタルコンサルティング分野においてサーパスによるマーケティング支援を実施していますが、今後も引き続き、石原社長とDE&Iの推進の在り方について議論を重ね、社会課題を解決していく活動を推進していきたいです。多くの顧客企業を指導する立場にある以上、「かくいうTCGは実行できているのか?」という点が常に問われます。実践主義を標榜するTCGが自ら実践していかないといけません。サーパスとの化学反応は当社にとってイノベーションの源泉なので、非常に楽しみです。
末松:両社の交流をどのように深めているのですか?
若松:企業文化や経営のスタイルのすり合わせを行うため、四半期に1回、運営会議とグループ経営会議を開催しています。上層部だけではなく、当社の次世代人材育成システム「グループジュニアボード」でTCGのビジョンを検討する場をつくり、若手経営人材の交流を促していきます。現場の皆さんが会社の未来について活発に議論できるような空気を作っていくことが大切です。
石原:会議だけではなく、TCGが発行するビジネス専門誌『TCG REVIEW』でのインタビューや、対談形式による事業紹介動画のYouTube配信など、定期的なフォローアップを通じて社員の成長と相互理解を促して下さっていることも、大変ありがたく感じています。
末松:今後、両社の強みをかけ合わせてどのような価値を創造していくお考えですか?
若松:当社は約100行を超える金融機関とアライアンスを組んでおりますので、その顧客基盤である1万社に向けてDE&Iの推進や「TECH WOMAN®︎(テックウーマン)」を軸とした新たなコンサルティングサービスを展開していく方針です。
弊社の経営コンサルティングは、「トップマネジメントアプローチ」に徹し、あえて社長や経営陣を中心に対話してきました。今後、北海道から沖縄、そして海外にも広がるTCGのネットワークを通じて、大手・中堅企業や自治体・金融機関のトップの方々に、ダイレクトにDE&Iを提案していきたいですね。
石原:全国の自治体や金融機関と確固たる信頼関係を築いているTCGの一員となったことで、これまで当社として課題に感じていた中小企業のトップマネジメント層へのリーチを一気に加速していけます。中小企業のリーダーが変わらないかぎり、日本社会から「女性活躍」という言葉をなくすことは極めて難しいでしょう。「女性活躍推進総研」や「TECH WOMAN®︎」などの事業とのシナジーをどんどん生み出していきたいと思っています。
末松:両社がМ&Aに挑んだ意志、DE&Iにかける熱意がひしひしと伝わってくるディスカッションでした。本日は、貴重なお話をありがとうございました。