建設業におけるこれからの打つべきポイント
取締役
竹内 建一郎
大手メーカーにて、設計・開発業務を中心とする商品開発に携わり、その後、タナベコンサルティングへ入社。企業再建から成長戦略策定まで、200 社以上のコンサルティングに携わり、企業の成長発展に向け多くの実績を挙げている。経営的視点による中長期ビジョン実現に向けた幅広いコンサルティングを展開。企業再建から、成長戦略策定まで、戦略を現場に落とし込む実践的なコンサルティングで高い評価を得ている。
企業を取り巻く環境変化
2023年度の建設投資額(見込み)は68兆4000億円であり、2000年実績の66兆2000億円を上回る見込みである。ここ数年は同様の水準で推移しているが、内訳を見ると首都圏と地方の格差がかなり拡大している。首都圏では案件数も多く受注単価規模も大きいが、首都圏以外をマーケットとする企業にとっては軽視できる状況ではない。
建設業を取り巻く環境変化については、【図表1】の通りである。
【図表1】企業を取り巻く環境変化
出所:タナベコンサルティング作成
インフレ経済は今後も継続するだろう。特にエネルギー・資源コストの上昇については、地政学上の課題もあり終息は見通しにくく、今後も上昇する前提で想定しておく必要がある。
人手不足については、日本経済全体の課題である。コロナが5類感染症へ移行したこともあり、インバウンドを含め人の動きが戻ってきているため、人手不足の課題が顕在化してきている。
環境対策については、昨今カーボンフリーやESGなどを中心に国際的にも関心が高まっている。
こうした外部環境により、経営面では利益を出しにくい傾向にある。実際、2022年度業績を見ると、受注高の順調な推移もあり、建設業界では大手・準大手・中堅企業とも売上高が前期比5~12%程度増加している。一方、売上総利益については、大手が4.4%増、準大手は2.6%減、中堅は0.4%減を計上しており、粗利益を計上しにくい現状が分かる。
現状を踏まえ、タナベコンサルティングでは来期に向け、「クオリティリーダーシップ戦略」を打ち出している。
クオリティリーダーシップ戦略は、「コストリーダーからクオリティリーダーへの転換」「ブランディング」の2つの骨子からなる。
「コストリーダーからクオリティリーダーへの転換」は、インフレ経済下における必須の戦略である。実現には、自社の固有技術、固有の価値を見極め、磨き上げることが大切になる。ビジネスモデル、バリューチェーン、非財務資本(人材)などにおける価値提供を通じ、コストではなくクオリティでリーダーシップを発揮する戦略をとるべきである。
ただ、いくら良い固有技術や戦略があっても、ブランディングができていないと世の中には浸透しない。そのため、併せて「ブランディング」についても展開する必要がある。
建設業における打つべきポイント
これらを踏まえ、建設業における打つべきポイントをまとめると、事業ポートフォリオ確立(成長ドメイン・重点ドメインへの強化)、バリューチェーンを通じた顧客価値向上、オープンイノベーション、建設サービス事業拡大、ESG・SDGsへのアプローチという5つの事業戦略、そしてそれらを支えるDX、ブランディングという2つの経営戦略に集約される。
【図表2】建設業における打つべきポイント
出所:タナベコンサルティング作成
事業ポートフォリオの確立については、「自社がどのドメイン(事業領域)で勝ち切るか」を戦略に落とし込んでいただきたい。その際、(衰退ではなく)成長しているドメイン、さらに、自社が固有技術を持つ重点ドメインを意識した上で展開していただきたい。
バリューチェーンを通じた顧客価値向上とは、「受注・設計・施工・引き渡しというフローのどの部分で自社の価値を発揮するか」である。例えば、施工において他社よりも強みがある場合、そこで顧客価値を発揮して成長戦略を描く、あるいは設計と「設計・施工」をセットにして成長戦略を描くことが考えられる。
オープンイノベーションには、連携、アライアンス、M&Aなどの施策が含まれる。事業推進のためにはどのような戦略が適切か見極め、落とし込んでほしい。
また、8~9兆円規模で安定しているリニューアル・補修マーケットにおいて、いかに自社の建設サービス事業を展開・拡大していくかを検討していただきたい。
ESG・SDGsについては、先述の通り国際的に関心が高まっている。また、社会性の観点からもぜひ推進いただきたい。
さらに、組織・人材についても戦略的に検討しておく必要がある。2060年の生産年齢人口は2020年の40%減であり、建設業の求人・採用は今後ますます厳しくなる。そのため、働き方改革、D&I戦略も踏まえ、事業・経営戦略を支えるための採用戦略・育成戦略(人材イノベーション)を重点課題と捉え、対策していくべきである。
建設業のこれからとビジネスモデルの考え方
執行役員 ストラテジー&ドメイン
石丸 隆太
金融機関にて10年超の営業経験を経てタナベコンサルティングへ入社。クライアントの成長に向け、将来のマーケットシナリオ変化を踏まえたビジョン・中期経営計画・事業戦略の構築で、「今後の成長の道筋を作る」ことを得意とする。また現場においては「決めた事をやり切る」じりつ(自立・自律)した強い企業並びに社員づくりを推進し、クライアントの成長支援を数多く手掛けてきた。
今後の建設業の見通し
建設業では今後、ロボット技術・AR・VR技術の高度化・遠隔化・省人化・無人化の進展と低廉化が見込まれる。そうなると建設業の在り方も大きく変わり、ロボットとヒトの協働による労働や職種の変化が生じるであろう。特に、技術分野の人材の役割の変化、デジタル技術を扱う職種の拡大が予測される。
また、「ゼブラ建設業」が増加する見通しだ。ゼブラ企業とはサステナビリティや共存性を重視する企業であり、持続的成長や持続可能な社会を目指し、ライバル企業と共存し、経営資源を共有するような価値観を持つ。
【図表1】ゼブラ建設業が増加する
出所:タナベコンサルティング作成
今後、企業には社会性と経済性の両輪を併せ持つことが求められる。建設業においても、共存・共栄し、一緒に建設業を盛り上げる意識の企業の集合体が生まれると見ている。
さらに、新築の減少に伴い、建設業のビジネスモデルは変革を余儀なくされる。新しく建てるビジネスではなく、リフォームや中古住宅の買い取り再販など、既存の建設へのアプローチが増加していくだろう。
建設業のビジネスモデルの在り方
これらを踏まえた上で、建設業のビジネスモデルがどのように変わっていくのだろうか。ポイントは3つある。
1つ目は、「脱・労働集約型」である。つまり、デジタル化を通じ、労働者を増やさなくても、売り上げが上がるのが未来の建設業のビジネスモデルだ。
2つ目は「官×民連携事業」である。例として「オガールプロジェクト」を紹介したい。岩手県紫波郡紫波町では、かつて雪捨て場だった町有地を、民間企業の力を借りながら「人が集まる町」へ再生。その結果、今では年間約100万人が来訪する町となり、度々メディアでも取り上げられるようになった。地方ゼネコンでは、こうした官民連携、そして他社との連携により、いかに人の集まる町をつくれるかが重要になる。
3つ目は、例えば公園で遊ぶ際は公園の建設が必要であるように、「人・事業の活動には建設が必ず関わる」。そのため、建設業単体ではなく、「建設業×〇〇」という組み合わせで建設ビジネスを再定義し、建設業の視点や強みを生かしながら視野・市場を広げ、より社会性の高い事業へシフトしていく必要がある。
建設業を取り巻く環境が変化する中、ビジネスモデル視点で自社のビジョンを描いてみることである。既存事業の深化と、新規事業の探索を通じた「両利きの経営」でイノベーションを進めるべきである。
【図表2】ビジネスモデル視点で自社のビジョンを描く
出所:タナベコンサルティング作成
既存事業と新規事業を両立させるために、ポートフォリオの考え方、そして資源(投資)配分が重要になる。既存事業と新規事業は一見相反するものだが、自分たちの意志をしっかりと反映させ、10年、20年先を見据えたビジネスモデルを構築していくべきである。