その他 2022.06.15

「HR EXPO」(2022年)から見る3つのHRトレンド

(2)エンゲージメント
戦略人事において、欠かすことのできないキーワードが「エンゲージメント」である。エンゲージメントは、大きく2種類に分けられる。仕事とのつながりや熱量を表す「ワークエンゲージメント」と、会社や組織とのつながり、愛着や信頼感を表す「従業員エンゲージメント」だ。

 

今回のHR EXPOで特に目立っていたのは、離職防止などを目的としたエンゲージメント、すなわち「従業員エンゲージメント」だった。エンゲージメントの可視化を目的とするサーベイツールや、組織内のコミュニケーションを活性化させるクラウドツールなどが多く見られ、関心の高まりがうかがえる。

 

日本企業の課題として、離職防止という観点は欠かすことのできない人事的要素であり、会社・組織への愛着を高め、信頼感を醸成する従業員エンゲージメントは極めて重要なKPI(重要業績評価指標)だ。しかし、あくまで「離職」という顕在化している課題に対するアプローチでしかなく、表面的な解決にしかならない。

 

つまり、コミュニケーションを活性化するためのツールや福利厚生を導入しても、社員がそもそも会社や仕事に興味がなければ使われず、離職防止につながらない。ここで注目すべきなのが「ワークエンゲージメント」だ。

 

仕事への熱量を向上させ、最大限のパフォーマンスを発揮できれば、社内で活躍できるようになる。活躍することでより多くの報酬を獲得できるようになり、結果的に定着につながる。

 

また、仕事への熱量が高い社員が増えるほど、組織は相乗効果的に活性化していく。仮に退職者が1名いたとしても、他の社員の熱量が高ければ、ネガティブな影響は最小限に抑えられる。

 

離職防止も重要だが、考えるべきは社員をいかにして活躍させるかである。HR EXPOで多く見られたタレントマネジメントシステム※1や、ピープルアナリティクスツール※2などは、離職といったマイナス要因の排除ではなく、パフォーマンスを向上させる仕組みとして活用すべきであろう。

 

※1 社員の情報(個人情報・スキル・経験など)をデータ化し、一元管理する仕組み。マネジメントを効率化し、人材の適正配置や人材育成に活用する。
※2 社員の属性データ(年齢や性別など)や行動データを収集・分析するシステム。採用活動や従業員満足度の向上など、人事領域の施策や意思決定、課題解決に生かす。

 

(3)マネジメント
キーワードの3つ目は「マネジメント」である。これはトレンドというよりも、従来からある課題だ。

 

タナベ経営がHR EXPOに出展した際、経営者・人事担当者を対象に行った自社HRの課題に関するヒアリング調査では、最も多かった課題が「管理職層の育成」だった。人材育成は人事の領域であるものの、管理職層の育成に関しては体系化されていないのが現実のようだ。コロナ禍以降、ワークスタイルが急速に変化したことにより、最も顕在化した課題であると言えよう。

 

HR領域において、最も注力すべきは「マネジメント」である。マネジメントのための「システム」と「スキル」を強化することが、企業にとって持続的成長のエンジンとなる。

 

「システム」は、タレントマネジメントシステムを中心としたHRテック導入によって効率化を図るとともに、経営層や現場マネジャーが使いこなせるようにサポートするのが人事部門の役割となる。

 

つまり、前述した通り「マネジメント」のキーファクターとなり、全社のマネジメントを集約・一元化するのは、人事部門であると言えよう。

 

一方、「スキル」はHRテックでは解決できない課題である。もし、自社が人材への投資を検討しているのであれば、まずは管理職層への投資を検討すべきだろう。

 

タナベ経営では、管理職を「部門経営者」と呼ぶ。”マネジメント”という言葉の意味には2通りあり、1つは”管理”、もう1つは”経営”である。管理職は部門を「経営」する役割であり、人材育成だけでなく、財務からマーケティング、事業戦略まで理解すべきスキルは多岐にわたる。これらのスキルを、ゲームを通じて体験できるようにしたのが、今回のHR EXPOでタナベ経営が出展し、好評を博した「Management Experience Online」である。

「Management Experience Online」は、オンライン上で企業経営者となり、経営を疑似体験するシミュレーションゲームだ。経営をゲームで体験することにより、インプットだけでなく実際のアウトプットにも役立つ。

 

ライバル企業と競争を繰り広げながら、何をすれば自社が成長し、何をしなければ悪化するのかを体感できる。多くの経営者と長年、伴走してきたタナベ経営が開発したシミュレーションゲームだからこそ、リアリティーある企業経営を楽しみながら経験し、その経験をマネジメントの現場で生かせるようになる。

 

もちろん、マネジメント層だけでなく、次世代のリーダーや若手社員に対しても、「社員一人一人が経営視点を持つ」ことにより、ワークエンゲージメントの向上にも活用できる。

 

課題を根本的に解決する効果的な投資を

 

HR EXPOから見るトレンドは以前と変わりないものの、実際の課題は様変わりしていることがうかがえる。

 

多くの企業が出展していたことからも分かる通り、HRにおける製品・サービスは数も種類も多い。まずは自社の課題を洗い出し、優先順位を付けた上で、何が必要かを見極める。表面的にではなく、根本的に課題を解決するため、一手に全力で投資をすることが重要だ。

 

3つのキーワード「可視化」「エンゲージメント」「マネジメント」の真の意味を捉え、効果的な投資を検討していただきたい。

 

タナベ経営

戦略総合研究所 HR 課長 久保 多聞(くぼ たもん)
HRコンサルティング事業部HR東京本部 川口 弥蘭(かわぐち みらん)
HRコンサルティング事業部HR東京本部 相場 菜美希(あいば なみき)