「本業で持続的に稼ぐ力」を実現するビジネスモデル設計
コーポレートガバナンス・コードの改訂や、COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)におけるカーボンニュートラル宣言などを背景に、企業における環境・社会課題への意識がますます高まる中、タナベ経営は2022年4月14日に「SDGsフォーラム」を開催。特別ゲスト2社(サラヤ、コマニー)およびタナベ経営「SDGsビジネスモデル研究会」のコンサルタント2名による講演をリアルタイムで配信した。
※登壇者の所属・役職などは開催当時のものです。
Session1 社会課題解決に通じるSDGsの取り組み
2030年までに解決しなければならない課題を明確に定め、誰一人取り残すことなく、あるべき未来の姿を実現しようとするSDGs。企業においてもSDGsを目指す意識は高まっているが、その取り組みは、本業のサステナビリティ、つまり「持続的に稼ぐ力」を実現するものでなければならない。環境・社会・経済の3面から「SDGsで何をどのように実現するのか」をいま一度考え、未来の自社ための取り組みを加速させていこう。
1.SDGsで自社の業界課題へ全技術を用いて挑戦する
(1)SDGsを自社業界の課題とひも付け、自社の技術を用いて解決に挑む事例:加賀建設株式会社
建設業界の課題(時間外労働の上限規制、技能者の高齢化・大量離職)、地域の課題(勘に頼った“家業経営”が多い、地域的な慣習が強い、専門人材の東京流出)、社内課題(3Kイメージの払しょく、大規模災害への急対応、インフラの老朽化)を、自社のDX技術で解決(河川工事のICT化、海中工事の可視化、地盤改良工事への3D CAD活用など)
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(2)世界の水と衛生課題の解決に取り組む事例:テラオライテック株式会社
給排水衛生・空調換気・電気の設備工事を手掛ける福井県の中小企業。本業の強みを生かし、上下水道の設備が整っていないカンボジアで、現地に雇用と資源をもたらす新産業を生み出し、その収益をカンボジア政府に寄付して、上下水道のインフラ整備の公共投資に回す「テラオ式」モデルを展開。
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2.経済性と社会性の両立にこだわる
(1)リサイクルの経済不合理を解決する事例:LOOPジャパン合同会社
リユース可能な容器を活用し、循環型ショッピングプラットフォームを展開。リサイクルで損をさせない仕組みによって、誰でも無理なくできる、持続可能なリユースを実現。
(2)仕組みを変えて、世界をもっと良くする事例:ラクスル株式会社
テクノロジーの力を生かし、多重下請け構造の印刷業界に直接取引のビジネスモデルを持ち込み、印刷機の非稼働時間をシェアするプラットフォームを構築。ユーザーは安価で高品質なサービスを享受でき、企業も非稼働時間を収益化できた。
3.社会課題解決を起点に新事業を打ち出す
(1)ソーシャルビジネスを通じて社会課題の解決に取り組む事例:株式会社ボーダレスジャパン
同社には、①バングラデシュの貧困層が働く場所をつくるための「革製品の製造販売」、②異文化への差別偏見をなくす環境づくりのための「国籍不問のシェアハウス」といったように、「社会課題を解決するために自分は何ができるのか」という観点で起業したソーシャルビジネスが30以上集まっている。各事業を事例として見ると、「自社の持つノウハウでどのような社会課題を解決できるのか」のヒントを得られる。
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(2)国境・文化をまたぐ団体による社会課題解決の事例:アディダスグループ
海洋環境保護団体「パーレイ・フォー・ジ・オーシャンズ」と協業し、回収した海洋廃棄プラスチックを素材としたリサイクル・プラスチックを一部使用して、定番モデルのスニーカーを作っている。自社の「顔」であるスニーカーという商品で、こうした取り組みを実行しているところに本気を感じる。

株式会社タナベ経営 中部本部 SDGsビジネスモデル研究会 サブリーダー
竹貫 裕哉
2021年よりSDGsビジネスモデル研究会サブリーダーに就任。中長期経営計画の策定から現場での実行サポートまで一貫して支援できる実践的なコンサルティングを強みとする。幅広い業種での中長期経営計画策定支援の経験を生かし、近年はSDGs・カーボンニュートラル実装支援を数多く手掛け、実績を残している。
Session2 未来に向けたサステナブル経営~サラヤの事例~
1.サラヤがSDGs先進企業になったきっかけ
サラヤは1952年創業の消毒剤や洗浄剤、医薬品、食品を製造する化学・日用品メーカー。戦後、赤痢や疫痢などの伝染病が多発する中、手洗いと殺菌消毒ができるトイレでおなじみの「緑色の薬用せっけん液」と「押し上げ式容器」を開発した企業でもある。
2004年、テレビ取材をきっかけに、同社の商品「ヤシノミ洗剤」の原料であるパーム油の大量摂取が東アジアの環境を破壊していると批判された。実際に無秩序な伐採が行われていることを知った同社は、2005年にRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)に日本企業として初めて参加。2007年からボルネオ島の熱帯雨林を回復させる「緑の回廊プロジェクト」に参加し、現地農家の支援を続けている。
2.アフリカの衛生向上とサラヤのビジネス
原料生産地の環境保全だけでなく、2017年にはエジプトで砂漠の緑化事業をスタートし、そこから新規事業(ホホバオイルや自然派甘味料「ラカント」製造など)を創出。現地の衛生に資する事業(手洗いせっけん液・手指消毒剤の製造)とともに新しいビジネスを育て、世界へ「手洗い文化」を普及させている。
3.SDGs達成に向けた最新の活動紹介
社長の更家氏が理事長を務めるNPO法人ゼリ・ジャパンは、持続可能な経済モデル「ブルーエコノミー」を可能にする革新的技術やビジネスモデル「ブルーイノベーション」を世界に向けて発信。自然エネルギーだけで航海する世界最大のソーラー船「ポリマ号」で日本と世界各地を巡り、実験やイベントを行っている。こうした活動を2025年の大阪・関西万博のパビリオンで展示予定。同万博の共創パートナーとして、海洋プラスチック問題の解決を支援する。
世界が直面している社会課題を発掘し、イノベーションによってそれらを解決することが、さまざまなビジネスにつながっていく。「社会課題と経営を両立するミッション」を認識し、経営手腕を磨いてビジネスを実現することが、企業に求められている。

サラヤ株式会社 代表取締役社長
更家 悠介氏
1951年生まれ。1974年大阪大学工学部卒業。1975年カリフォルニア大学バークレー校工学部衛生工学科修士課程修了。1976年サラヤ株式会社入社。1998年代表取締役社長に就任、現在に至る。日本青年会議所会頭、地球市民財団理事長などを歴任。ゼリ・ジャパン理事長、大阪商工会議所常議員、関西経済同友会常任幹事、ボルネオ保全トラスト理事などを務める。
Session3 SDGsメビウスモデルで「間仕切り」を通じた社会課題の解決へ
1.コマニーの「SDGsメビウスモデル」
コマニーは1961年にキャビネットメーカーとして創業。業界のリーディングカンパニーとして成長を続けていたが、2008年のリーマン・ショックの影響で赤字に転落。これをきっかけに経営理念に立ち返り、自分たちの事業や会社がどうあるべきなのかを考え直した。
そして、人々の幸せの創造を支える事業開発や投資を継続的に行えるようにしたいとの思いから、2016年に「サステナビリティ方針」を制定。さらに、この考え方がSDGsと通じることに気付き、SDGsの17ゴールを指針にしたサステナビリティのための行動計画を策定。SDGsの9番目「産業と技術革新の基盤をつくろう」をレバレッジポイント(テコの力点)に置いた「コマニーSDGs ∞(メビウス)モデル」を2018年9月に制定した。
(1)ガバナンス
①従業員の人間性尊重の経営
安全・安心な職場環境の構築、従業員教育やダイバーシティー&インクルージョンの推進など
②サプライヤー(取引先)との共存協栄
技術交流会による相互学習、取引先満足度調査の実施、公正な取引のためのCSR調達促進、安定供給のためのBCM(事業継続マネジメント)など
③地球環境との共存
SBT※目標設定によるCO2削減、太陽光発電システムの導入、エコ商品の拡大、脱プラスチック活動など
※SBT(Science Based Targets)イニシアチブ:産業革命前からの気温上昇を2℃未満に抑えるための、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標達成の推進を目的として、CDP(旧名:カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、国連グローバル・コンパクト、WRI(世界資源研究所)、WWF(世界自然保護基金)の4団体が2015年に共同で設立した国際的なイニシアチブ
④地域社会への貢献活動
石川県小松市とののSDGsパートナー協定、災害ボランティア活動、カンボジアの村の自立支援など
(2)プロダクト・サービス(開発事例)
①震度7相当に耐える高耐震の間仕切り「Synchron(シンクロン)」
②避難所で安心・安全・きれいに過ごすための、工具なしで組み立てられるブース「Mamoroom(マモルーム)」
③抗菌・抗ウイルス・アレルゲン物質の分解などの効果があるコーティング事業「Health Bright Evolution®」
2.インナーブランディング(社内PR)の施策、社員の意識変化
①社内で「コマニーSDGs新聞」を不定期発行(ニュースとして社内の取り組みを発信)
②全社員参加で「SDGs記念イベント」を開催(記念グッズを配るなど楽しい雰囲気を醸成)
③SDGs5周年記念オンラインイベント「SDGs WEEK」を開催(社員が講師としてチームの取り組みを紹介するなど)
⇒活動で浸透させていくことで、社員がSDGsを「自分事化」。自部門の改善に自主的に取り組み始めた(プラごみの削減など)
3.SDGsに取り組んだ効果
①新たなビジネスへの挑戦機会を得た
②選択と集中の明確化(やめる事業を決めた)
③事業活動の高次化
④ブランディングとしての役割(→新卒採用に好影響、「大学生就職人気企業ランキング(北陸部門)」で2位など)/国連グローバル・コンパクト「日中韓ラウンドテーブル」の招待を受けて発表、SDGsビジネス賞や各種アワードなどを受賞)
⑤パートナーシップの可能性の拡大(有名女性誌の編集長から「避難所に設置する個別ブースのニーズがある。自誌は女性の声を聞くネットワークを持っているから協業しよう」と声がかかり、新製品開発につながったなど)

コマニー株式会社 取締役 常務執行役員 経営企画開発統括本部 本部長
塚本 直之氏
1981年石川県生まれ。成蹊大学経済学部経営学科卒。スタンレー電気(株)、トヨタ自動車(株)出向を経て、2010年コマニー(株)へ戻る。現在は、コマニーが目指す「関わるすべての人の幸福に貢献する経営」を実現するため、同社の経営にSDGsを実装したサステナビリティ経営を推進。2018年には、広島SDGsビジネスコンテスト 優秀賞、SDGsビジネスアワード グローバルイノベーター賞を受賞。
Session4 SDGsを経営統合する具体策
1.SDGs経営実現の3つのポイント
SDGs経営とは「事業を通じて社会に貢献すること」。SDGs経営の3つのポイントは次の通り。
①トップのリーダーシップのもと全社員がSDGsの意義を理解し取り組む
②ドメイン(事業領域)の再定義で事業を進化させる
③社会のサステナビリティと企業のサステナビリティの両立に取り組む
2.SDGsにはこのように取り組む!SDGs推進ステップ
3.SDGsで中期ビジョンをブラッシュアップしよう
中長期ビジョンとSDGsの共通キーワードは「2030年」。SDGsのフィルターを通した中期ビジョンにアップデートし、本業で社会課題を解決するビジネスモデルを構築しよう。

株式会社タナベ経営 ストラテジー&ドメイン大阪本部 本部長代理 SDGsビジネスモデル研究会 リーダー
巻野 隆宏
2007年タナベ経営入社。2021年より、ストラテジー&ドメインコンサルティング大阪本部本部長代理兼SDGsビジネスモデル研究会リーダーに就任。専門分野は事業戦略の立案をはじめ開発・マーケティングなど多岐にわたる。企業の持続的な変化と成長のサポートに取り組み、志ある企業・経営者のパートナーとして活躍中。「高い生産性と存在価値の構築」を信条とし、明快なロジックと実践的なコンサルティングを展開。建設業、製造業を中心に中長期ビジョン構築において事業の選択と集中で高収益ビジネスモデルへの変革を数多く手掛けてきた。