その他 2022.09.30

vol.6 柔軟に対応できるレジリエンスなサプライチェーンを

 

生産戦略

 

日本政府は、新型コロナウイルスの感染拡大で顕在化したサプライチェーン(供給網)のぜい弱性を踏まえ、生産拠点を国内で整備する企業の投資への支援先を決定しました。中国1カ国に生産拠点が集中してサプライチェーンが寸断するリスクを回避し、国内供給網の再構築を促進するのが狙いです。国民の安全にかかわる製品などを中心に「国内回帰」とともにサプライチェーンの見直しが進んでいます。

 

国内回帰や多元化によるリスク低減は、企業には調達や供給の在り方に対する大胆な転換が求められます。自治体行政や企業のITインフラの整備が飛躍的に進めば、生産性向上を実現でき、企業の拠点や外注先が海外から国内に戻ってくるリショアリング(生産拠点の国内移転)の動きが広がっていくと見られています。

 

製造業におけるDXとは、システムや自動化のロボットを導入するという単純な話ではありません。全ての入出荷データや生産プロセスを一元管理し、現場にリアルタイムでフィードバックすることで、現場での「生産性」や「安全性」の高いものづくりが実現できるようにすることです。製造工程をデジタル化し、あらゆるデータをネットワークでつなげることで生産性向上などを目指す動きが本格化してきています。

 

それらのDX推進のキーワードが「デジタルツイン」「スマートファクトリー」です。デジタルツインとは、リアル空間の情報をIoTなどの技術で収集、処理を行い、リアルタイムでコンピューター上に送り、現実世界の環境をデジタル世界に再現する技術という概念です。

 

 

 

 

デジタルツインを活用すれば、サイバー空間で製造工程をシミュレーションすることで、将来の設備の故障などを予測し、より正確な予防保全を実施できるようになります。

 

また、スマートファクトリーは、工場内のあらゆるデータをIoTで取得・収集し、そのデータを分析・活用することで、新たな付加価値を生み出せるようにする工場です。製造現場におけるIT化やデジタルデータ採取にとどまらず、製造部品の調達、原価管理、販売データ、営業データ、顧客管理など、全ての情報を一元管理できるような業務システム導入することができれば、DXの成果をさらに大きくすることができるでしょう。

 

 

物流戦略

 

ECの利用者の裾野が一気に広がっており、若い世代だけでなく、これまで利用の少なかったシニア世代の利用客も急増しています。オンラインシフトが加速する中、各社はEC強化に踏み出していますが、拡大のネックになるのは物流です。特にドライバー不足と配送コストが原因で需要を取り込めていない企業も多くみられます。さらなるECの拡大が予想される中、ドライバー不足や配送コストの高騰といった課題解決のためには、物流のキャパシティーを増やすことが必要不可欠です。

 

従来、EC企業にとって物流は競争領域でした。他社との差別化を図るため、送料の無料化や配送リードタイムの短縮など、各社が競争を繰り広げてきました。しかし、従来の配送インフラが破綻し始めている今、各社は物流戦略の見直しを迫られています。

 

IoTやAIなど次世代テクノロジーを活用した「省人化」と「標準化」が進む物流業界において生き残るためには、2つの戦略があります。1つは、いずれの領域におけるプラットフォーマーの地位を獲得するといった戦略。もう1つは、物流での事業基盤をベースに、新たな価値を提供するといった戦略です。

 

特に、中堅・中小企業において「物流企業でありながら物流以外のオペレーションサービスを提供する」という戦い方ができれば、独自の存在価値を発揮でき、生存競争を勝ち残ることにつながります。

 

新型コロナウイルスの感染拡大は、想定していなかった形で産業界に多大な影響を及ぼしています。そんな有事の時でも止まらない物流を確立するには、BCP(事業継続計画)観点での物流戦略が必要になってきます。

 

BCPは、災害後の組織のサービスや製品の配送を継続あるいは早期復旧するための取り組み、すなわち顧客に対してサービスやサポートを提供する組織能力と、災害前後の実行可能性を維持するための計画です。例を2つご紹介します。

 

①共通の物流拠点を活用するリスクの分散化およびコストカットの実現

 

荷主同士が同一の保管拠点を共同利用することで、投資コストを抑えながら拠点の分散化を実現することが可能です。また、物流事業会社においても、BCP戦略の一環として自社のアセットを最大限に活用することができ、拠点スペースの保管効率の向上を実現することができます。

 

②専門ドメインに特化した選択と集中による共同配送の活用と実施

 

リスク分散を行う対象として、物流拠点の他に挙げられるのが「クルマの分散化」です。物流事業会社は、自社の主軸として運んでいる荷物と相性の良いモノを選択・集中し、共同配送を行うことによって物流品質の向上を行うことができます。

 

有事にも一定の品質を担保できる物流網を構築するためには、専門ドメインに特化した物流事業会社を選別することが必要です。また複数の物流事業者にわたって運ぶ荷物を分散させるために、共同配送を利用するのも効果的です。

 

今回は、ウィズコロナ時代のサプライチェーンについて解説してきました。Vol.7では、収益モデルについて見ていきます。

 

 

※本コラムはタナベ経営主催「2021年度経営戦略セミナー」テキストを抜粋・編集したものです。

 

 

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