1 中堅企業の定義、中小企業・大企業との違い
2 中堅企業向けの支援策
3 中堅企業の特徴や今後の可能性 など
2024年2月、政府は「中堅企業」を対象に、投資やM&A、雇用の拡大、賃上げなどの税制優遇や金融支援を行う「産業競争力強化法改正案」を新たに閣議決定した。全国約9000社が対象となる。
経済産業省によると、中堅企業とは、中小企業を卒業した企業。規模の拡大に伴い、経営の高度化や商圏の拡大・事業の多角化といったビジネスの発展が見られる段階の企業群である。そして中堅企業の定義を、常時使用する従業員の数が 2000人以下の会社等(中小企業者を除く)としている。
出所:首相官邸ホームページ「中堅企業成長促進パッケージ」
中堅企業は国内で事業・投資を拡大し、地域での賃上げにも貢献している重要な存在だ。しかしながら、中堅企業から大企業へ成長する企業の割合は国際的に低い状況である。その背景には、国内外の大企業と競争するための成長投資策、税制優遇などが十分でなかったなどの課題が存在する。
そもそも、中小企業基本法では「従業員300人以下または資本金3億円以下の企業」(製造業、建設業、運輸業などの場合)が中小企業と定められており、その規模を超える場合は大企業という位置付けであった。つまり、多くの中堅企業は実質上、中小企業向け支援策の対象外となっていたのである。
そこでこのほど、経済産業省が中堅企業を「常時使用する従業員の数が2000人以下の会社等(中小企業を除く)」と定義し、政府が支援策を実施することとなった。
「中堅企業元年」となった2024年。3月には経済産業省が中堅企業の成長を促進するため、中堅企業の成長促進に効果的な18の支援策を厳選し、取りまとめた「中堅企業成長促進パッケージ」を策定・公表した。
なお、18の支援策のほか、首相官邸公式サイトには、関連施策190事業も含めたパッケージが掲載されている。
出所:首相官邸ホームページ「中堅企業成長促進パッケージ」
中堅企業成長促進パッケージは、以下の4つの柱で構成されている。
2.良質な雇用の実現
3.外需獲得(グローバル展開・インバウンド取込)の支援など
4.経営基盤の強化・整備
1.国内投資拡大・イノベーションの促進
中堅企業が国内での事業や投資を拡大し、イノベーションを促進するための支援となる。
(1)企業立地・投資への支援
中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金【経産省】
(2)設備投資・生産性向上
(3)地域課題の解決
(4)GX・DX等への投資
2.良質な雇用の実現
賃上げやキャリアアップ助成、人材開発支援助成、地域における人材育成、海外人材格闘のためのイベント実施などを通じて、中堅・中小企業の賃金水準向上と良質な雇用の創出を目指す支援策をまとめている。
(1)中堅・中小企業の賃上げ
キャリアアップ助成金【厚労省】、賃上げ促進税制における中堅企業枠の創設【経産省・中企庁】
(2)リ・スキリングによる能力向上支援
(3)地域における人材の育成獲得・インターンシップの促進
プロフェッショナル人材事業、先導的人材マッチング事業【内閣官房・内閣府】
(4)海外からの人材・資金を呼び込むためのアクションプランなどの推進
マッチングイベント等の実施による特定技能制度の活用促進【入管庁】
3.外需獲得(グローバル展開・インバウンド取り込み)の支援など
海外の販路開拓、海外展開
輸出物流の構築、開発途上国の課題解決型ビジネスづくり、インバウンド消費の拡大・質向上などに向けた支援である。
(1)海外への販路開拓支援
効率的な輸出物流の構築・輸出向けHACCP等対応施設の整備【農水省】
(2)海外展開への支援
開発途上国の課題解決型ビジネスづくり支援【外務省】、HACCP等への対応支援【農水省】
(3)インバウンド戦略の展開
特別な体験の提供などによるインバウンド消費の拡大・質向上推進事業【国交省】
4.経営基盤の強化・整備
中堅・中小企業の新事業展開や、経営改善・事業再生を支援するための施策である。
(1)経営力の向上
新事業展開などへの集中支援【経産省】
(2)経営改善・事業再生
中堅・中小グループ化税制【経産省・中企庁】
全国約9000社といわれる中堅企業。その特徴について、タナベコンサルティング取締役副社長の長尾吉邦は、「リージョン(地域)」「独自性と卓越性」「グループ経営」「若く挑戦意欲の高い経営者」と言えるという。
長尾吉邦「新設『中堅企業』、次世代型の成長へ」(『TCG REVIEW』2024年5月1日号)より、以下を引用する。
_____________
まず、中堅企業は大企業と異なり、東京に集中しているわけではない。むしろ、各地域にこそ優秀な中堅企業が多い。地域愛が強く、雇用拡大をはじめ地域活性化に貢献する社会価値も高い。
また、歴史の中で培ってきた独自性と卓越性を持ち、グローバルニッチトップなど国際競争力を有する企業が多い。それだけに収益力も資金力も抜群だ。
近年は、M&Aや新しい事業の開発で事業数が拡大したことにより、ホールディングス・グループ経営体制を取り、さらなる成長に向けた経営体制へ変貌を遂げる企業が増えてきた。
若い経営者が多いのも特徴だ。肌感だが、大手上場企業と比べて10歳ほど若いのではないだろうか。挑戦意欲おう盛で、設備やM&Aなどへの投資、デジタルなど新しい経営技術の導入にも積極的である。
____________
つまり、日本経済の中でもとりわけ地域経済をけん引する存在として、中堅企業の活躍への期待は高い。
また、早稲田大学大学院経営管理研究科の教授・入山章栄氏は、「これからは地方企業も東京を目指すのではなく、いきなり世界進出を目指す時代。(中略)そうした企業が実際に表れており、これからの時代、感度の高い経営者の経営する中堅企業には大きな可能性がある」「これからの時代、中堅企業には勝機があり、変化の習慣化はとてつもないイノベーションを起こす可能性を秘めている」とし、「高い現場力」と「デジタル」を融合して唯一無二の強みを発揮する中堅企業事例を4社挙げている。(入山章栄氏「イノベーションが生まれる中堅・中小企業の組織とは」2023年10月、タナベコンサルティング「トップマネジメントカンファレンス」講演リポート)
タナベコンサルティンググループ(TCG)のクライアントの中で多いのは、まさに中堅企業である。創業者の田辺昇一は1974年、著書「田辺昇一の経営ノウハウ 中堅企業の経営再点検」(ダイヤモンド社)の中で、日本で初めて中堅企業の経営を定義した。創業時から中堅企業と向き合い、経営コンサルティングを継続してきたTCGは、いわば日本の中堅企業を知り尽くす唯一無二の経営コンサルティングファームであり、これからも中堅企業を志す企業の期待に応えていく。
中堅企業の成長は、日本経済・地域経済にとってインパクトが大きい。中小企業は中堅企業へ進化し、中堅企業は日本経済の先頭に立ち、リーダーシップを発揮していこう。