■はじめに
『中堅企業白書2026』では、全国の中堅企業を対象に「中堅企業経営に関するアンケート調査」を実施した。今回はその調査結果を、M&Aに関する回答を中心に再分析し、白書2027のテーマである「グループ成長」の視点から読み解く。
見えてきたのは、企業規模が大きくなるにつれてM&Aへの意識が高まる一方、経営層と現場層の間では認識にギャップが生じている可能性である。M&Aを一過性の取引で終わらせず、グループ全体の成長を実現する経営手段として活用するには、何が必要なのか。
1.売上規模が大きくなるほど、M&Aが選択肢に入る
まず、売上規模別に「M&A・資本提携の予定はない」と「買収を実施・検討していない」の回答を比較すると、売上規模が大きくなるほど、いずれの回答も減少する傾向が見られた。特に「M&A・資本提携の予定はない」は、規模の拡大に伴って63.0%から32.6%へとほぼ半減している。

出所:『中堅企業白書2026』をもとにタナベコンサルティング作成
この結果から、売上高100億円を超える成長ステージでは、M&Aや資本提携が「将来の選択肢」として意識されやすくなり、さらに規模が大きくなると、買収の実施・検討へと踏み込む企業が増える可能性が示唆される。
成長の初期段階では、自社の商品・サービスやブランドを磨き、既存事業を伸ばす「オーガニック成長」が中心になる。
しかし、事業領域や地域、顧客基盤を広げる段階に入ると、自社だけで時間をかけて構築するのではなく、外部の経営資源を取り込む「インオーガニック成長」が重要な選択肢になる。
なお、今回の結果は企業規模とM&Aへの意識の相関を示すものであり、「M&Aを実施すれば企業が成長する」といった因果関係を示すものではない。
2.規模が大きい企業ほど、「守り」から「攻め」のM&Aへ
買収を実施・検討する際に重視する目的を見ると、企業規模の拡大に伴い、「新規事業の拡充」が増加する傾向が見られた。

出所:『中堅企業白書2026』をもとにタナベコンサルティング作成
M&Aの目的には、人材の獲得、技術・ノウハウの取得、市場・販売網の拡大などがある。これらは、自社に不足する経営資源を補完する、いわば「足りないものを埋める」M&Aである。
規模の大きい企業では、「新規事業の拡充」に加え、「競合との統合・業界再編への対応」や「海外展開の足がかりの確保」も重視される傾向が見られた。サンプル数には留意が必要ですが、M&Aを既存事業の補完にとどめず、新たな事業ポートフォリオを構築するための成長投資として捉える企業が増えていると考えられる。
これは、M&Aの目的が「自社を大きくする」だけではなく、「グループとしてどの領域で成長するか」を実現することへ広がっていることを意味する。
3.経営層と現場層の間に、M&Aの認識ギャップ
次に、回答者の役職別にM&Aへの認識を比較した。
「M&A・資本提携の予定はない」「買収を実施・検討していない」と回答した割合は、いずれも経営層より現場層の方が高く、それぞれ18.6ポイント、16.2ポイントの差が見られた。

出所:『中堅企業白書2026』をもとにタナベコンサルティング作成
この差は、M&Aに対する関心の違いだけでなく、会社の成長方針やM&Aの検討状況が、社内に十分共有されていない可能性を示している。経営層は中長期の成長戦略の一環としてM&Aを捉えていても、現場では「自社には関係のない話」「まだ予定されていない話」と認識されているのかもしれない。
M&Aは、契約締結がゴールではない。買収後に人材・組織・業務プロセス・企業文化をつなぎ、グループとして成果を生み出すことが本当のスタートである。そのためには、検討の早い段階から、M&Aの目的とグループの将来像を社内で共有しておくことが欠かせない。
4.M&Aを成功させる鍵は、「何を買うか」だけではない
M&Aや資本提携において重視する目的を役職別に見ると、経営層では「顧客基盤の獲得」「既存事業の補完・強化」「新市場への参入」がそれぞれ4割を超えて重視されていた。
一方、現場層では、重視する目的が複数の選択肢に分散している。この違いは、経営層がM&Aを事業ポートフォリオや市場戦略の観点から捉えているのに対し、現場層では、人材、技術、業務、顧客など、より具体的な実務上の論点から捉えていることを示している可能性がある。

出所:『中堅企業白書2026』をもとにタナベコンサルティング作成
両者の視点は、どちらかが正しいというものではない。グループ経営を実現するには、経営層の描く「なぜこの会社と組むのか」という戦略と、現場が担う「どのように一緒に成果を出すのか」という実行を接続する必要がある。
そのためには、次のような問いを社内で共有しておくことが重要である。
- M&Aによって、グループとしてどの事業領域を伸ばすのか
- 買収先に期待する経営資源は何か
- 既存事業とのシナジーを、どの顧客・商品・地域で生み出すのか
- 買収後も残す強みと、グループとして統合する機能は何か
- 経営層だけでなく、各部門がどの役割を担うのか
5.M&Aを「取引」から「グループ成長」へ
今回の再分析からは、企業規模が大きくなるほどM&Aが意識され、買収目的も既存事業の補完から新規事業、業界再編、海外展開へと広がる可能性が見えてきた。
M&Aは実施すれば成果が出るものではない。重要なのは、M&Aを自社単体の拡大策としてではなく、グループ全体の成長戦略に位置付けることである。
M&Aを検討している企業はもちろん、まだ具体的な予定がない企業にとっても、今のうちから自社の成長戦略とグループの将来像を描いておくことが、次の成長ステージへの備えになる。
『グループ成長』の必然性はこちらからお読みいただけます。
■調査概要
| 調査名: | 2025年度「中堅企業経営に関するアンケート調査」 |
|---|---|
| 出所: | 『中堅企業白書2026』 |
| 売上規模別分析: | M&Aの主体となり得ない協同組合を除外(有効回答227件) |
| 役職別分析: | 協同組合および役職不明を除外(有効回答222件) |
| 留意事項: | 本稿で紹介した結果は相関関係を示すものであり、因果関係を示すものではありません。 |
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