その他 2019.05.31

世界で一番、人手不足の国ニッポン。鍵は、就活生より社員の“お友達”? 人材確保に向けた対策を紹介

世界で一番、人手不足の国日本 人材確保の鍵は、就活生より社員の“お友達”

2019年6月号

 

 

厚生労働省が2019年1月に公表した試算結果によると、経済成長と労働参加(女性・高齢者)が進まない場合、2040年の就業者数は2017年比20%減の5245万人まで減少するという。日本は、いよいよ本格的に労働力人口が減っていく時代へ突入する。

 

 

【図表1】 人材不足を感じている企業の割合推移

【図表1】 人材不足を感じている企業の割合推移

出典:マンパワーグループ「2018年人材不足に関する調査」(2018年8月8日)

 

 

「日本は世界一“人材不足感”が強い国」

 

総合人材サービス大手のマンパワーグループが2018年、こんな調査結果を発表した。同社解説によると、世界43カ国・地域の雇用主(3万9195人)に現状として「人材(従業員)の確保に苦労しているか」を尋ねたところ、日本企業の89%が人材不足を感じていたという。世界平均(45%)のほぼ倍に当たる多さである。(【図表1】)

 

主要国別に見ると、ドイツ51%、米国46%、カナダ41%、イタリア37%、フランス29%、英国19%など。最も割合が低かったのは中国(13%)だった。先進7カ国(G7)の中で日本は2番目に人口が多いにもかかわらず、企業の人手不足感は突出しており、深刻かつ改善の必要な課題である。(【図表2】)

 

 

【図表2】「人材確保が困難」な企業の割合(主要国別)

マンパワーグループ「2018年人材不足に関する調査」

※グレーはG7(先進主要7カ国)
出典:マンパワーグループ「2018年人材不足に関する調査」(2018年8月8日)

 

 

この人材不足は、日本企業の存続を脅かすほどのリスクとなっている。東京商工リサーチの調べによると、2018年度中に発生した「人手不足」関連倒産件数は400件(前年度比28.6%増)にのぼり、過去最多記録(2015年度の345件)を塗り替えた。(【図表3】)

 

400件の内訳を要因別に見ると、社長や幹部役員の死亡、入院、引退などによる「後継者難」(269件)が最も多い。それに次いで多かったのが、人材確保が困難で事業継続に支障が生じた「求人難」(76件)だった。前年度(29件)に比べ2.6倍と急増している。人手不足による人件費の上昇や新規受注の抑制などから、経営が立ち行かなくなったケースが多いようだ。

 

そうなると、企業は新卒採用を一気に増やしたいところだが、昨今の採用戦線は“売り手市場”に拍車がかかっている。リクルートキャリアの調査機関である就職みらい研究所がまとめた「就職白書2019」の内容によると、2019年卒の大学生・大学院生の採用計画未充足率(計画人数に対して採用人数が少ないと回答した企業の割合)は50.2%と半数を超えた。つまり、新卒採用活動を行った企業の2社に1社は予定人数に届かなかったということだ。(【図表4】)

 

建設、医療・福祉、ホテル、飲食をはじめ、いかなる業界、いかなる業種・職種においても、これでは仕事・業務を進める上で支障をきたし、現在の従業員に大きな負担がかかることは容易に予想できることであり、人材獲得やその他施策(IT活用など)による問題解決が求められる。

 

 

【図表3】人手不足関連倒産件数/年度推移
人手不足関連倒産件数/年度推移

 

 

【図表4】採用計画に対する充足状況(新卒、各12月時点)

リクルートキャリア/就職みらい研究所「就職白書2019」よりタナベ経営作成

※四捨五入の関係上、合計が100%にならない場合がある
出典:リクルートキャリア/就職みらい研究所「就職白書2019」よりタナベ経営作成

 

 

中途採用で人材を補充しようにも、企業間の“求人競争率”が上昇を続け、人材争奪戦が激しさを増している。全国の公共職業安定所(ハローワーク)で求職者1人当たりに何件の求人があるかを示す「有効求人倍率」(季節調整値、2018年10~12月平均)は1.6倍。また、「新規求人倍率」(同)は2.4倍で、ともに四半期ベースではバブル景気以降の最高水準となっている。(【図表5】)

 

ちなみに有効求人倍率とは、当月分の求人・求職数に前月からの繰り越し分を加えて算出したもの。新規求人倍率は、当月に新たに受理した求人・求職数で算出した倍率だ。前者は景気動向と連動する一致指数、後者は雇用の先行きを示す先行指数となる。

 

人手不足の要因は、新卒や中途人材の採用難だけではない。人材サービス大手のエン・ジャパンが2019年1月に発表した調査結果によると、人材が不足している企業にその原因を聞いたところ(複数回答)、最も多かったのは「退職による欠員」(57%)だった。

 

長く働いてもらえそうな人材をできるだけ多く集め、確実に入社へ結び付けていきたい。そんな切実な願いをかなえる採用方法として注目を浴びているのが、社員の個人的なつながりを通じて人材を紹介・推薦してもらう「リファラル採用」である。

 

リクルートキャリアが行った調査では、リファラル採用の制度がある企業は7割以上を占め、「制度がなく導入する予定もない」という企業は1割程度にすぎなかった。

 

また、リファラル採用の成功に最も大きく影響する要素について、企業の人事担当者の多くは「社員の自社推奨度(人に勧めたいかどうか)」の高さが重要だと考えていたが、実際に知人や友人を会社に紹介したことがある社員は、「自社の経営情報の公開が進んでいる」ことが重要だと考えていた。

 

同社は、企業側の積極的な経営情報の提供姿勢が、社員からの信頼やリファラル採用への協力意欲につながると分析。リファラル採用を成功させるには、社内外への定期的な経営情報(全社業績、人事制度、「自社はどこへ向かっていくか」という戦略など)の発信が重要と結論付けている。

 

2019年4月22日、日本経済団体連合会(経団連)は大学側と採用や教育の在り方を話し合う「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」の中間とりまとめを公表し、新卒一括採用だけでなく、海外留学生や専門スキルを持つ転職者などの通年採用を拡大すべきとの提言を行った。新卒重視・春季一括採用から、通年採用や秋季採用にシフトする大手企業が今後増加する可能性が高い。

 

大手企業の通年採用拡大は、中小企業にとって採用にかかる期間の長期化とコスト増加につながり、人材採用がさらに不利になる恐れもある。

 

就活生への広告宣伝に多額のコストをかけ、内定を出しても他社に流れ、どうにか入社にこぎ着けても3年以内に退職するなど、新卒採用はリスクが高い。であれば、自社の経営方針に共感する社員を介して“仲間”を増やす方が、時間もコストも節約でき、内定辞退や早期離職のリスクも抑えられる。

 

全社員を人事部と兼職させ、全員で採用活動を展開する上場企業(面白法人カヤック)もある。全社一丸となって「お友達紹介キャンペーン」を展開するなど、リファラル採用への取り組みを始めてみてはどうだろうか。

 

 

【図表5】有効求人倍率、新規求人倍率の推移(四半期平均、季調値)

厚生労働省「一般職業紹介状況」、内閣府「景気基準日付」出典:労働政策研究・研修機構「早わかりグラフでみる長期労働統計」

※新規学卒者を除きパートタイムを含む。グレーの期間は景気下降局面(山から谷)
資料:厚生労働省「一般職業紹介状況」、内閣府「景気基準日付」
出典:労働政策研究・研修機構「早わかりグラフでみる長期労働統計」