vol.17 ヴァンフォーレ甲府で3つの役割を受け持った佐久間さん
2017年2月号
それぞれの役割に合った振る舞いをするということ
佐久間さんの話にはしばしば「役割」という言葉が出てきます。それはどうやら、佐久間さんが「監督」「GM」「副社長」という3つの役割を兼務していたことと関係がありそうなのです。
佐久間「その通りかもしれません。監督は、あくまでも現場の選手と寄り添いながら、同志として、彼らのモチベーションを高め、良い結果につなげるためにどう指示を出せるのか、どう振る舞うか。それが、私の役割です」
梶原「では、GMの役割とは?」
佐久間「現場の選手と経営側の懸け橋になって、現場の環境をより良くする上で必要なことを、選手の立場に立って経営側に伝えたり、一方で、経営の求めること、目指す方向を選手に伝えることです」
梶原「佐久間さんはさらに、副社長でもあるわけですよね」
佐久間「副社長としての私は、クラブ経営が健全化するために県やリーグや、スポンサー企業やサポーターの皆さんのご要望を伺ったり、お願いしたり。クラブがより魅力的な存在になるためのあらゆる施策を検討し、決断していく。お金も大事ですし、チーム全体を俯瞰(ふかん)してチームのあるべき姿を常に考えるのが役割です」
大変不思議ですが、佐久間さんはそれぞれの役割について語るとき、それぞれの役割にふさわしい表情をなさっているように見えるのです。
梶原「役割意識がゴチャゴチャになることってないんですか?」
佐久間「兼務する場合、それが最も注意すべきポイントです。大きく言えば、国の三権分立がうまく機能しなくなったらとんでもないことになるように、一般の企業でもめちゃくちゃになりかねない。スポンサーの声にしか耳を貸さないディレクターとか、嫌でしょう?」
兼務とは思った以上に難しいことのようなのです。佐久間「ちなみに来季、私は監督を降りることになりました。素晴らしい監督が見つかりました!」
佐久間「ちなみに来季、私は監督を降りることになりました。素晴らしい監督が見つかりました!」
佐久間さんの役割は晴れて2つになったのです!
何度も出てきた「役割を果たす」。当たり前のようですが、案外できないからこそいろいろな問題が起きている気もしてきました。
日々報道される事件にも「役割放棄」に絡むものが多くあります。例えば、「親が親としての役割を放棄して失われた幼い命」「議員が果たすべき役割を果たさないから起きた混乱」。会議でも「役割を心得ず、勝手な印象や感想を感情に任せ吐き出すだけの発言」なんてものからは、発展的なアイデアは浮かんできそうもありません。
「私の役割ってなんだっけ?」と考えるきっかけを、佐久間さんは与えてくれたような気がしました。
筆者プロフィール
梶原 しげる (かじわら しげる)
早稲田大学卒業後、文化放送に入社。20年のアナウンサー経験を経て、1992年からフリーとしてテレビ・ラジオ番組の司会を中心に活躍。49歳で東京成徳大学大学院心理学研究科に進学、心理学修士号取得。東京成徳大学経営学部講師(口頭表現トレーニング)、日本語検定審議委員も務める。
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不適切な日本語
梶原しげる著/新潮新書
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