自由闊達に開発する組織:長尾吉邦
今号(2023年11月号)の特集テーマである「シン・バリューチェーン戦略」推進上の決定的な要素は「開発力」、しかも「バリューチェーン全てに携わる、全ての組織の開発力」である。タイトルの「自由闊達に開発する組織」は、タナベコンサルティンググループが提唱する「ファーストコールカンパニー宣言」の4番目であり、独自のバリューチェーンを組み上げる要諦だ。
《ファーストコールカンパニー宣言》
1.顧客価値のあくなき追求
2.ナンバーワンブランド事業の創造
3.強い企業体力への意志
4.自由闊達に開発する組織
5.事業承継の経営技術
住宅建設業A社から組織改革コンサルティングの依頼を受け、トップインタビューをしたときのことである。組織図の中に社長直轄の「サービス開発部」があった。従来は商品企画開発部しかなかったが、営業や設計、施工、アフターサービスでも顧客満足度を高めるサービスを開発したいという社長の思いで新設された部署だ。
私は「素晴らしい取り組みだ」と感銘を受けたが、いかんせんまだ“空箱”で機能していない。そこで、「サービス開発部に魂を吹き込みましょう」と提言し、コミュニケーション力のある女性社員3名を配属してもらった。
彼女たちは、現場で担当者とアイデアを出し合い、また顧客インタビューやサービス業のモデル研究などを重ねた。そして現場の社員と一緒に、取締役会へ毎月さまざまな提案をしていった。男性ばかりの役員会メンバーも勢いのある提案に反対できず(笑)、次々と承認・実行された。
提案は、「ソファーはこの位置にある方が良い」といった細かいことから投資が必要なものまで大小さまざまだったが、大事なことは、全メンバーが話し合って出した意見で現場が変わり、顧客が満足し、新築住宅の紹介件数やSNSでのポジティブなコメントが増えたことだった。
最も大きな成果は、社員の変化である。全社員が、仕事でもプライベートでも常に良いサービスに学び、アイデアを探して提案し、そして「開発する」。そのようなカルチャー(企業文化)へ変身したのだ。
開発は開発本部だけのものではない。ぜひ、全社員で自由闊達に開発する組織カルチャーを創造していただきたい。
タナベ経営(現タナベコンサルティング)に入社後、北海道支社長、取締役/東京本部・北海道支社・新潟支社担当、2009年常務取締役、2013年専務取締役を経て、現職。経営者とベストパートナーシップを組み、短中期の経営戦略構築を推進し、オリジナリティーあふれる増益企業へ導くコンサルティングが信条。クライアントの特長を生かした高収益経営モデルの構築を得意とする。著書に『企業盛衰は「経営」で決まる』(ダイヤモンド社)ほか。