ある流通チェーン店を視察したときのことである。バックヤードのモニターに、全店舗の売上高・利益ランキングと、日・週・月別の商品アイテム売上高ランキングがリアルタイムで表示されていた。それを見た店舗マネジャーが、「15時までに売上高トップ5を狙うよ」と社員に声を掛けると、売り場の責任者が売れ筋ランキングを確認し、陳列を変更しに現場へ行った。聞くと、1日に何回も売り場や陳列を見直すそうだ。
私は「スピードは利益である」と多くの経営者へ提言し、タイムリーな情報把握による迅速な経営判断と、先手の経営行動の重要性を説いてきた。この情報把握のスピードや正確性を飛躍的にアップデートできるのが、ERP※1やBI/BA※2、SL※3ツールなどを活用するマネジメントDXである。次の5つのチェックポイントで自社の現状を認識してほしい。
❶KGI・KPIをリアルタイムで把握できるか
毎分、毎秒、まさにリアルタイムで、KGI(重要目標達成指標)やKPI(重要業績評価指標)が、①全社・部門別に把握できるか、②目標・基準値と比較できるか、③ランキングとして表示されるか。その仕組みと環境をつくる必要がある。
❷先行でKGI・KPIを予測できるか
現在の見込み情報から算出された3・6・9カ月後の先行KGI(売上高・利益など)・先行KPI(見込みと目標の差額など)を予測し、差額対策行動をスピードアップする。
❸KGI・KPIがロジックツリー化され、目標・基準値・責任者が明確か
KGIにつながるようにKPIを設計すれば、部門や従業員は、自己の成果がどのように自社の成果につながるのかを理解できる。関係性を「見える化」することにより、エンゲージメントが高まる。
❹ビジョンに沿ったKGI・KPIを設定・実装できているか
KGI・KPIがビジョンに沿ったものかを確認してほしい。中でも人事KPIは、ビジョンに沿っていることが重要だ。顧客へのソリューションを実行するのは従業員。人事KPIは、自社の「プロフェッショナル人材の数と質」を表す指標である。
❺顧客価値の変化をリアルタイムで感じられるか
顧客の声や行動が、リアルタイムで経営者に届いているか。SLツールなどを活用して広くユーザーの声や行動を知り、日々変化する顧客価値に敏感になることだ。
上記は全てマネジメントDXで可能である。皆さんは、これらができるようになる価値をいくらと判断されるだろうか。
※1…Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム
※2…Business Intelligence /Business Analytics:蓄積しているデータを、経営の意思決定に役立つよう分析・加工するソフトウエア。BIがデータの可視化や分析を主とするのに対し、BAは分析結果を基に未来を予測して意思決定を支援する役割を持つ
※3…Social Listening:リスク管理や商品開発などのため、SNS上で交わされるユーザーの会話を収集・分析するソフトウエア