1.反転攻勢への六つの指針
コロナ禍との長期戦を見据え、「経営を止めない、経済を止めない」という基本原則の下、多くの経営者の皆さんとの対策議論を通じて経営の指針を取りまとめた。それを「反転攻勢への六つの指針」として示したい。
【指針1】反転攻勢への第1ボタン
反転攻勢への第1ボタンは、経営環境の変化を見極め、危機感を正しく持つことで、経営者自らと自社へ変革を強く求めることにある。
①警戒経済下での甘い見通しを排除する
甘い見通しは、会社をつぶし、変化のチャンスを奪う。緊急事態宣言解除後の経済は、感染抑制と経済維持を両立させながら進む「警戒経済」。先行2年間の売上高の復元予測を厳しく見積もることだ。
ドメイン別に見ると、最も厳しいのは人の移動とインバウンド(訪日外国人)消費の領域である。観光・航空・ホテルなどは、2020年の売上高をコロナ前の30%、2021年は50%くらいでみる。また外食やレジャーも2020年はコロナ前の60%、2021年は80%でみておきたい。
コロナ禍の前から販売が減少傾向にあった自動車関連は、2020年9月までは60%、21年12月までに80%、回復は21年春以降とみておくべきだ(トヨタ自動車は7~9月で80%、10~12月で90%、回復は21年以降とみている)。
建設業も、分野によるが建築は20年に80%、21年も80%と、長期にわたって回復が厳しいとみる。住宅は60%と80%、土木は80%と100%でみていくべきではないか。一方、リノベーション、メンテナンス、防災対応などはマーケットが伸びるだろう。
大事なことは、自社の事業を「ドメイン・チャネル別」に再分類し、先行きを厳しく見通して経営対策を立案することである。
②「総見直し」の時
――危機に強い会社への課題を整理する
「タナベ経営から『卵は一つの籠に盛るな』と教えられたので、今では10の産業と200社の顧客があり、コロナ禍でも売上高に影響はありません」など、経営者の皆さんから頼もしい言葉をいただいている。
タナベ経営が一貫して提言してきた経営の原理原則にのっとり、いま一度、自社を「総見直し」し、経営危機に強い会社へと進化する「本気の経営改革」を実行する覚悟を決めていただきたい。
③自社の社会価値の本質は何か?
――この答えを腹落ちさせる
本気の経営改革には、「捨てる・改める・新しくする」の断行が必要である。「自社の社会価値の本質は何か?」「理念、志は何か?」を、経営者自らが本質にたどり着くまで問いただし、答えを腹落ちさせることだ。それができれば自分たちの行動の在り方が見えてくる。
コロナ禍の中では、さまざまな賛否両論が巻き起こり、社会も会社も社員も混乱し、フリーズする。その状況においても経営者は答えを見つけ、企業継続へリーダーシップを執らなければならない。
④ウィズコロナ・アフターコロナで困っている社会・顧客を発見せよ
シャープがマスクの生産開始を発表したのは3月24日である。それをきっかけに、同社はさらに健康分野への取り組みを強化するとのことである。「マスクが足りなくなる」と経済評論家が警鐘を鳴らし、マスクが売り切れた店の陳列棚の映像をメディアが頻繁に流していたころのことだった。
同社のような決断とスピード対応こそが事業家の責務ではないだろうか。くどいようだが、3月24日は「生産開始」であり、「検討開始」ではない。
私たち事業家には大切な使命がある。それは、目の前の困っている人を救うことだ。困っている社会・顧客に目を向け、今、何に困っているのかを発見することだ。
【指針2】厳しい先行予測判断を基に生き残りの経営を断行せよ
①固定費6カ月分の資金を確保する
固定費の6カ月分の資金があれば、売上高が半分になっても1年は操業できる。1年あれば何らかの対策を打てる。
②資金と損益の赤字解消対策を積み上げる
繰り返すが、甘い見込みは排除してほしい。決断が鈍り、チャンスを見逃すからだ。
まずは原価管理にメスを入れる。インフレ環境では単価と回転が上がるので、原価の押さえが甘くなる。デフレ環境では原価を絞らなければ利益は出ない。
さらに、キャッシュフロー(CF)をベースに置くと、営業CFでは営業赤字事業からの撤退、生産減産、人件費の削減(助成金活用)、安売り防止、回収サイトの早期化、在庫圧縮。投資CFでは遊休資産や事業資産の売却、事業売却、投資助成金の活用、投資計画の撤廃および見直し、リース資産の見直しなどだ。
反転攻勢に向けて、他人依存の資金補填や営業赤字を解消し、一歩でも早く成長戦略へかじを切ることが、この先の未来を決める。
③利益を追求する
――顧客に貢献せよ、原価を押さえよ
今、積極的に経営を動かせば、内外から賛否両論が巻き起こる。そんな中、ユニクロ(ファーストリテイリング)の旗艦店である銀座店は5月11日に営業を再開した。決断した同社の代表取締役会長兼社長・柳井正氏は、「自粛は要らない、本業で貢献せよ」と社員を鼓舞したそうだ。
私たち事業家の本分は、「事業で社会に貢献すること」である。そして、事業を継続し、社員の雇用を守るためには、利益が必要だ。さらに、利益追求の攻めは顧客貢献だが、守りは原価管理だ。これを機会に、原価を絞るマネジメントシステムを構築していく。
原価管理ができていて低収益の会社は見たことがない。利益を追求するという組織カルチャーが出来上がっているからである。
④事業の「断捨離」を断行せよ
先行の見通しを基に事業の総見直しを図り、これから1年以上、CFと収益が回復しないと判断した事業においては、撤退や人員の大幅なシフトを提言したい。特に、コロナ禍の前から業績不振の事業・部門・店舗などは、撤退の絶好機とも言える。
経営者は孤独の中で決断しなければならない。担当部門の責任者や社員は事業存続を期待し、もがくだろう。しかし、収益も体質も弱い事業は、いずれ終焉を迎える。いくらもがいても「ダメなものはダメ」と判断を下せるのは、経営者しかいないのだ。
⑤ウィズコロナ・アフターコロナにおける貢献事業のスピード立ち上げ
出店する大型商業施設がコロナ対応で閉鎖となった人気パン店「どんぐり」(北海道・札幌市)は、わずか数日でウェブ販売の仕組みをつくり、味を落とさない急速冷凍の設備を整えた。そして地元の食材を活用し、収入が激減しているタクシー事業者に配達を依頼する事業を立ち上げた。
指針1の④で示した、目の前の困っている人を救う貢献事業を立ち上げる際の時間感覚も変えるべきだ。1年をかけるなどはもっての外。1カ月でも長い。「1週間で立ち上げる」という勢いが大切である。
2.危機に強い変幻自在の会社へ、本気の経営改革を断行
指針1と2を参考に、「自社の社会価値の本質」や「経営の原理原則」と照らし合わせて経営課題を整理できたら、経営体質の強化に向け、次に述べる施策を進めていただきたい。
コロナ禍で存続が厳しくなっている企業は、以前から不振にあえいでいた場合が多い。感染の第2波が来ても、金融危機や大災害が再び起きても持続可能な会社となるためには、本気の取り組みが必要である。
【指針3】多様な貢献事業を生み続け、「10」の事業を創造せよ
①事業の「超・分散化」
――卵は一つの籠に盛らない
「取引先が○○○業界のみ」「顧客が大手1社に依存」「インバウンド消費が収益の大半を占めている」という企業が苦しんでいる。こうした企業は、ドメイン・チャネルを「超・分散化」していくしかない。
いま一度、自社の事業のセグメンテーションをドメイン・チャネル別に分解し、伸ばす事業、撤退する事業、新しく生む事業を明確にして、10の事業ができるロードマップ(行程表)を作成してほしい。
②貢献事業の拡大に向けてM&Aへ取り組め
――損得だけのM&Aに未来はない
貢献事業を生み出す手法として、M&Aが有効である。ただし、コロナ禍で安価になっている会社や事業を買うような損得勘定だけの判断ではダメだ。自社の理念・性格と相容れなければ、自社を崩す要因になる。自社の社会価値と照らし合わせ、欲しい会社をグループの仲間に入れることである。
また、地域の雇用を考慮したM&Aも検討すべきである。コロナ禍で傷んだ地域の小規模会社へ救いの手を差し伸べ、地域貢献のコングロマリット事業化を図ることも、地域の中堅企業の役割であろう。この場合の成否は、自社と買収会社に経営者人材がいるか否かである。
③営業のデジタル化への投資を躊躇しない
――新規開拓のチャンスを生かせ
今は新規顧客開拓のチャンスである。社会は困っている人々であふれている。また、サプライチェーンの再構築に向けて新たな調達先を探す異業種の顧客も多い。しかし、そこにアプローチできていない企業が目立つ。
さらに、新しい事業が生まれそうなのに、垂直立ち上げ(生産・販売を段階的に拡大するのではなく、当初から販売と同時にフル生産すること)ができない。なぜなら、BtoB(法人向け)企業では、ぜい弱な営業体制が慢性的な課題となっており、デジタル人材も不足しているからである。いま、何よりもデジタル化すべきは「営業」であり、そこへの投資を躊躇してはならない。
なお、タナベ経営のグループ会社であるリーディングソリューションは、調査・分析・企画など専門知識を要する業務をアウトソーシングできる「KPO(Knowledge Process Outsourcing:ナレッジ・プロセス・アウトソーシング)」を提供している。戦略策定から、施策を企画・実施してPDCAを回すところまで、デジタルマーケティングを一括代行する。こうしたサービスを活用するのも一策である。
④DXへの積極投資
――できるところからやる、やりながら変えていく
ある経営者から、「タナベ経営の事例を聞き、わが社も全社員にiPhoneを配布しました。まずはできるところからやっていきます」との声をいただいた。素晴らしい実行力である。
DX(デジタルトランスフォーメーション)と言うと難しく感じるかもしれないが、自社のリテラシー(情報活用能力)を高めるためにも、“できるところから始めること”が大事だ。社内のコミュニケーション、顧客とのコミュニケーション、人材育成、オフィス・現場のオペレーション、サプライチェーンなどのデジタル化を推進し、デジタルビジネスモデル開発へレベルアップしていく。
【指針4】危機に強い、躍動する組織と人材をつくる
コロナ禍に見舞われる前に、これほど自社の組織と人材の重要性を再認識し、その実力が浮き彫りになったことはないだろう。今後も起こり得る危機に屈しない強さ、目の前の出来事を直視して現実を変えることができるしなやかさ。そのような自律・自走する組織・人材へと日々、鍛えていくことだ。そのための5施策を次に提言したい。
①リーダーが多く生まれる組織
――グループ経営、横に広がる組織づくり
縦に深くなる組織ではなく、横に広がる組織をつくる。縦に深い組織とは、本部長や部長以下、一列縦隊の組織であり、長期間の経験を経なければリーダーになれない組織設計である。
一方、横に広がる組織とは、同じ機能でもドメイン別の部長が複数人存在し、次々に新しいチームが誕生する組織である。20~30歳代のリーダーが数多く生まれてくる。
これを会社単位で捉えた場合、グループ経営(ホールディング経営)スタイルとなる。すなわち、多くの社長が生まれる組織である。
理念・志を追求し、利益を上げる社長の人数が多いグループ経営の企業は、持続可能性において大きなアドバンテージを有している。また、社長が育つ企業は、赤字会社をM&Aで買収しても、早期に高収益へと導くであろう。
この機会にグループ経営という枠組みをつくり、自律する組織ができる素地を築くべきではないか。もちろん、その場合も大事なことは、グループ経営者(事業会社の社長)の育成にしっかりと投資をすること、自社に見合ったグループ経営の仕組みを構築することである。
②オーナーシップを育てる経営インフラ
――業績先行の可視化・リアルタイムマネジメント
自ら困難と立ち向かい、克服する自律した組織・人材は「オーナーシップのある会社(人材)」である。そのような会社には共通点がある。全ての部門・社員に具体的な達成目標があり、その進捗をリアルタイムで把握し、創意工夫してPDCAを高速で回せることだ。また、目標を達成するために社内外の成功事例から素直に学び、チームにイノベーションを求める。
このような、チームと社員の潜在能力を引き出していく経営インフラを構築してほしい。
③仕事の「断捨離」
――ルーティン業務からタスク業務へ
コロナ禍によって「不要な仕事が見えてきた」のではないか。
そこで、仕事の「断捨離」である。全ての定型業務や定型行事を見直し、まず「捨てる」「自動化する」を断行する。新しくするよりも捨てることが先で、残った仕事を自動化する。そして、余った時間をルーティン業務(定型的業務)からタスク業務(なすべき業務)へと移行する。
タスク業務には、ルーティン業務にないものがある。それは、新しいことへの挑戦と目標期限だ。どちらが自社の人材力を鍛えることになるか、一目瞭然であろう。
④「ジョブ型人事制度」への移行
多くの日本企業は、職能型人事制度を採用している。これらの企業は、同一労働同一賃金をはじめとした「働き方改革関連法」の施行によって、ジョブ型(職務型)人事制度への変更を余儀なくされている。テレワークの導入によって、それがより鮮明になっているのではないだろうか。
私は、職能型人事制度は日本企業の社内イノベーションを阻害し、生産性改革を遅らせる要因だと感じている。なぜなら、同じ仕事・同じ成果でも賃金が上がっていくからだ。イノベーションを起こす必要も、スキルアップする必要もない。
一方、大家族主義を思考する日本企業には、ジョブ型人事制度は合わないのではないかとの議論もある。しかし、「大家族主義=職能型」という考え方そのものに知恵がないとも言える。
今の日本企業は、チームワークを高め、優秀な社員を定着させるためのさまざまな経営手法を手に入れている。短期間での変更は難しいだろうが、4~6年で職能型からジョブ型へと移行していただきたい。
⑤人材育成システム
――あなたの会社の強みをさらに強くする
自社の提供価値の強化のために、いつ、どのような教育機会をつくるかである。
ある建築材料商社は、エンジニアリングサービスを強みとしているため、営業担当者を対象とし、入社3年以内にベテランレベルのエンジニアリングスキルを習得できる企業内大学を運営している。
グループ15社を傘下に持つある企業は、若いグループ経営者を育成するため、20歳代から商売人としての在り方、経営計数、ビジネスモデルなどを徹底して教え込み、業界では類を見ない規模に成長している。
また、ある建設業は、これからはどんぶり勘定ではダメだと、原価管理や業績構造、利益創出の仕組みなどを学ぶ教育の仕組みをつくり、収益力アップにつなげている。
「自社の強みや提供価値の強化」を目的に掘り下げれば、教育コンテンツの重点が見えてくるはずだ。
【指針5】財務の健全性と収益バランスを整えよ
①経常利益率10%、実質無借金経営、自己資本比率60%以上を目指せ
健全な財務をつくる原理原則はここにある。妥協しないことだ。本気の経営改革には、財務・収益の高い目標が欠かせない。
②本気の経営改革を実現する投資判断のスピード化
企業を成長させるのも、つぶすのも、経営者による投資判断が決め手になる。アフターコロナの投資基準は、フリーキャッシュフロー(FCF)で得た資金の範囲内で投資を回していくことだ。
大事なことは、投資のスピード化である。投資回収のスピード化に加えて、投資判断そのものと立ち上げのスピード化も重要な鍵を握る。
例えば、新工場の開設なら、検討・契約から稼働まで通常2年かかるところを1年で稼働させる。また、M&Aで買収した赤字会社のPMI(Post Merger Integration:買収後の経営統合作業)および収益改善を6カ月で実現する。デジタル化の検討について何度も会議を重ねるのではなく、トップダウンによって3日で導入する。
いまは投資判断そのもの、投資から稼働までのスピードを速くすることが重要なのだ。
③持つ経営資源と持たない経営資源の明確化
もう一度、FCFを軸に経営資源を見直すチャンスだ。土地・建物・設備・スペースは必要か、この組織・部門は必要か。危機のときに見えてきたものをしっかりと整理してほしい。
④収益構造の「超・分散」
事業の「超・分散」と重なるが、併せて収益構造の分散も図るべきである。
・「高固定費・高限界利益型事業」VS「低固定費・高限界利益型事業」の分散
・「低回転事業」VS「高回転(設備・在庫・売掛金)事業」の分散
・「スポット型」VS「ベース型(サブスクリプション型)」の分散
・「季節変動型、気候変動型」VS「通年安定型」の分散
・「相場変動収益」VS「非相場変動収益」の分散
前者の収益構造に偏ってしまうと、危機を迎えたときに利益が大きく毀損する。一気に改善するのは困難だが、数年をかけて収益構造の改善および超・分散化を目指してほしい。
【指針6】「反転攻勢100日プラン」を作成せよ
これまでに述べてきた指針1~5を立案する「緊急対策チーム」を組成し、トップのリーダーシップの下で「反転攻勢100日プラン」を立案する。そして全社を挙げて、本気の経営改革へと取り組んでいただきたい。
また、反転攻勢後に備え、中長期ビジョンの再設計も積極的に行ってほしい。コロナ禍に負けて修正するのではなく、より強い会社になるための「捨てる・改める・新しくする」施策を挿入した中長期ビジョンである。
「100年に1度」「1000年に1度」といわれる経済ショックが、十数年の間に3度も起こる時代だ。今のピンチを、全社員が意思を一致させ、危機に強い会社へと変化するチャンスとしていただきたい。
PROFILE
長尾 吉邦
Yoshikuni Nagao
タナベ経営 取締役副社長。タナベ経営に入社後、北海道支社長、取締役/東京本部・北海道支社・新潟支社担当、2009年常務取締役、13年専務取締役を経て、現職。経営者とベストパートナーシップを組み、短中期の経営戦略構築を推進し、オリジナリティーあふれる増益企業へ導くコンサルティングが信条。クライアント先の特長を生かした高収益経営モデルの構築を得意とする。著書に『企業盛衰は「経営」で決まる』(ダイヤモンド社)ほか。