「ビジョン」とは、組織で共有する企業の将来像(ありたい姿)だ。VUCA※1の時代において、事業を通じて「未来に対して何をもたらすべきなのか」を考え、それをビジョンとして掲げることが、サステナブルな未来経営モデルの実現に向けた第一歩となる。
中長期ビジョンを考えていく上で必要なのは、外部環境の変化を長期スパンで捉えることである。現状を捉えるには、PEST分析※2やファイブフォース分析※3、SWOT分析※4などのフレームワークで事足りるが、未来が予測困難である現状を踏まえると、十分とは言えない。今後は、現状を捉えた上で将来のシナリオを複数描き、その中で「自社は複数のシナリオに対してどうあるべきなのか」を明確にする「シナリオ・プランニング」が必要になる。
【図表】シナリオ・プランニングのフレームワーク
将来予測は、あくまで過去と現在の延長線上にある未来を考えるものだ。一方、シナリオ・プランニングは、インパクトの大きさ(事業影響度)と不確実性の高さ(実現性)の2軸を【図表】のようにまとめた上で、重要と思われる変化要因を特定して複数のシナリオを作成し、自社がどう対応していくかを導き出すフレームワークである。複数のシナリオをつくっておくことにより、予測できないような環境変化へも対応できる可能性を高められる。
加えて、どのシナリオに対しても持っていなければならない視点は、「未来適応型」と「未来創造型」の2つである。未来適応型は、どのようなシナリオにも対応できる戦略・組織体制を構築する視点。未来創造型は、より素晴らしい未来を導き出す視点である。
※1…Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つのキーワードの頭文字を取った言葉で、将来を予測しづらい時代特性を意味する
※2…政治・経済・社会・技術の4つの観点から外部環境を分析する手法
※3…5つの観点(競合他社、新規参入企業、代替品、売り手の交渉力、買い手の交渉力)から業界の収益性を分析するための手法
※4…自社の社内リソースと自社を取り巻く外部要因を照らし合わせて分析し、今後挑戦できる市場領域や解決すべき事業課題を見つける手法
中長期ビジョンを策定していく上では、「ビジョンを実現した場合、自社は定量的にどうなっているか」を考えることも重要だ。そのために、まずはKGI(経営目標達成指標)を設定すべきである。
数値目標はマラソンのゴールテープのようなもので、数値目標なきビジョンに社員共通の価値観は生まれない。数値基準は、売り上げ・利益はもちろんのこと、ROE(自己資本利益率)やROA(総資産利益率)、ROIC(投下資本利益率)、EBITDA(営業利益+減価償却費)など、自社が経営上で重視している指標に絞って設定いただきたい。
また、ビジョンをマネジメントしていく上では、KPI(重要業績評価指標)も大切な指標になる。KPIはKGIを達成するための過程を測定する指標であり、例えば、「顧客満足度〇%」「リピート購入率〇%」といった形で、業績を生み出す過程を定量に落とし込んでいく。KPI設定におけるポイントは次の3つだ。
①成功要因を押さえる
1つ目は、KGIを達成するためのCSF(重要成功要因)が何かを押さえることだ。
②目標を絞る
2つ目は、目標を絞ってシンプルにすることである。あれやこれやと目標を設定しても社員は消化しきれない。結果、何から始めれば良いか分からず、消化不良で終わってしまう。
③進捗管理
3つ目は、KPIを適時確認できる体制をつくることだ。管理できない目標は進捗も見ることができず、軌道修正ができなくなる。