M&Aにおける企業価値評価
現在、企業のM&A(合併・買収)市場が大きな広がりを見せている。レコフデータの調べによると、2018年(1~12月)の日本企業が関わったM&A件数は3850件と前年の3050件を大きく上回り、26.2%の増加となった。
もはや企業の成長戦略には欠かせないアプローチ方法として期待できるM&Aであるが、実施すれば必ず成長できるかというと、そうとも言い切れない。
中小企業のM&Aにおいては、売買事例の客観的なデータが多くないために高値で買収してしまうことも少なくない。特に譲渡企業にとっては、今まで経営してきた会社はわが子同然であるため、感情面から安く売却したくないとの思いに駆られやすい。相談を受け仲立ちをするアドバイザーも、高値で売れれば売れるほど得られる手数料が多くなるため、高く売りたいというインセンティブが働く。そのため買い手企業は、実態や相場とはかけ離れた金額で買わされてしまうケースも存在する。
企業は一つとして同じものがないため、決まった価格での算出方法があるわけではない。算出方法は複数あり、計算方法によって価格も変わってくる。M&A取引は相対取引であるため、互いに納得できた金額が取引金額となる。ただ、それでもある一定の評価方法で価値を算出することは可能である。一部を紹介したい。
具体的な評価方法
M&Aにおいて価格を算出する場合、一般的に用いられているのが、時価純資産に営業権(のれん代)を加えたものである。評価方法としては単純であり、かつ客観性もあるため中小企業のM&A現場では多く用いられている。
評価額=時価純資産+営業権(実質経常利益×2~5年分)
(1)時価純資産
会社の保有している資産と負債を全て時価に置き換えて評価した純資産を基礎に、企業価値を算出する方法である。
【図表】をご覧いただきたい。これはいわゆる貸借対照表だが、これらの「資産の部」を時価評価する。
主な項目としては、売掛金、在庫、不動産、投資商品などである。決算書の貸借対照表に記載されている数値は簿価であり、時価評価とのズレがある。
例えば売掛金であれば、回収が実質的に困難なものがある場合、その分は差し引く。在庫についても帳簿上存在はするが、①実際にはないもの、②在庫としては存在するが、売ることができないもの(死蔵在庫)も差し引く。
固定資産(土地・建物等)についても、含み益や含み損がある場合も多いので加減する。投資商品(ゴルフ会員権など)も価値変動があるため加減する。
負債については、返済不要なものがあればその分を負債金額から引き、計上されていない負債があれば逆に負債を足していく。代表者が会社に貸し付けているもので返済不要であるのなら負債を差し引く。逆に会社として第三者の連帯保証人になっている、従業員の退職引当金が積まれていない、残業代の未払い分があるといった場合は加算する。
このようにして算出した資産と負債を差し引いたものが、時価純資産となる。
資産(修正後)-負債(修正後)=時価純資産
(2)営業権(のれん代)
営業権はブランドやノウハウなど貸借対照表の資産に表れていないものを加味して計算する。対象企業や事業から利益が出ていることが前提だが、実質の経常利益を算出し、2~5年分を掛け算することが多い。何年分を掛けるかは市場の成長性などにもよるが、実務上は3年分とすることが多い。
具体的な計算方法としては、損益計算書の経常利益に、減価償却費と、対象企業買収後に必要のない費用を足したものが実質の経常利益となる。
中小企業では、節税のために役員保険・リースなどの金融商品や、不必要な交際費など過剰に費用計上し、利益を抑える傾向にあるので注意を要する。また、買収後に代表者が引退する場合は、代表者に支払っている役員報酬も加味する。
例えば、経常利益5000万円、減価償却費500万円、役員報酬1000万円、代表者個人の私的な交際費500万円であるとすると、実質経常利益は、実質経常利益=5000万円+500万円+1000万円+500万円=7000万円となる。のれんを3年分とすると2億1000万円が「のれん代」である。
(1)で算出した時価純資産が、仮に2億円とすると、評価額=時価純資産額2億円+2億1000万円=4億1000万円となる。
M&Aを検討する際には、まず売り手が希望金額を買い手に提示し、買い手が企業価値評価(バリュエーション)を行い、交渉に臨むことが多い。自社でM&Aアドバイザーをつけていれば、M&Aアドバイザーが行うことになるが、どのような評価手法により価格が算定されているかを知っておくことは重要である。M&Aに慣れていないうちは、M&Aアドバイザーに依頼し、企業価値評価や価格交渉などを依頼した方が、スムーズに取引が進む。
M&Aを検討する際には、高値づかみをしないためにも企業の価値評価をしっかりと行い、価格が合わないのであれば交渉から撤退することも重要である。