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メソッド2023.09.05

M&A成功の鍵は譲渡側と譲受側の相互理解
「2023年度M&A・事業承継に関するアンケート調査」リポート

2023年に入り、コロナ禍の影響による経済活動の停滞が回復しつつある今、外部環境の変化に短期間で対応が必要な企業もあれば、業績が悪化して再生・再建を急ぐ企業もあるだろう。喫緊かつ抜本的な対応を迫られた際、時間のかかる「自前主義」の手法にこだわることはリスクが高く最善ではない。

 

そこで、新規事業の立ち上げや経営改善にかかる時間を短縮する目的で、他社の事業を買収、もしくは自社の事業を売却するM&Aの実践が広がりつつある。今やM&Aは中堅・中小企業にも浸透しており、9割以上の企業がM&Aを一般的な手法として認識している。この手法を、企業経営にどのように取り入れていくのかが、譲受側にとっても譲渡側にとっても、大きな課題となる。

 

そこでタナベコンサルティングは、全国の企業経営者・役員・経営幹部・経営企画部責任者・M&A担当者などを対象として2023年6月に実施した「2023年度M&A・事業承継に関するアンケート調査」の結果をまとめた。本リポートでは、実態調査結果の一部を抜粋して解説する。

 

 

M&Aは「構想」から「実行」のフェーズへ

 

2023年度の調査結果を見ると、2022年度に比べ、譲渡側・譲受側とも、M&Aの興味・関心段階から、具体的に検討・実施している企業の割合が高まっている。「❷譲受を検討中、あるいは直近で実施済」との回答は14.4ポイント増、「❹譲渡を検討中、あるいは実施済」は4.3ポイント増と、それぞれ2倍近く増えた。これまでは興味・関心止まりだった企業が、M&Aを戦略実現のための手段と捉え、実行に移していると推測される。

 

M&Aは「構想」から「実行」のフェーズへ

 

マクロで見ると、人口減少や原材料費の高騰などの理由によりマーケット環境が悪化または縮小する業界が多く、業界内での企業の生き残り競争は激しさを増している。生き残る手段としてM&Aを実行する企業が増えていると考えられる。

 

また、コロナ禍の影響で投資を控えていた企業の投資意欲が回復してきたことも一因として挙げられる。短期間での事業強化・事業ポートフォリオ転換のため、M&Aを用いていることがうかがえる。

 

M&Aの実行は多額の投資や人員を必要とするため、実行に踏み切るためには経営者にも相当の覚悟が必要になる。未着手の企業には、まず実行までのスケジュールを組むことをお勧めする。

 

 

外部パートナーの活用でM&A実行の成功率とスピードをアップ

 

M&Aの準備に当たって質の高い情報収集を行うため、譲受側・譲渡側ともに、M&Aアドバイザリー会社や仲介会社などの専門家をパートナーとして活用している。

 

譲渡(売却)を検討する際の相談者と情報収集の方法は、「M&Aのアドバイザリー会社や仲介会社」や「顧問税理士と顧問弁護士」に相談しているとの回答が最も多く、共に31.3%だった。「HPから情報収集」や「自社の役員」という回答もあったが、失敗のリスクを低減するためにも、やはりファーストステップとして専門家への相談は欠かせないことがうかがえる。

 

譲渡(売却)を検討する際の相談者と情報収集の方法

 

一方、譲受側が買収を検討する際の相談相手と情報収集の方法は、「M&Aのアドバイザリー会社や仲介会社」が46.3%で最も多く(昨年度比17.1ポイント増)、次いで「自社の役員」(41.8%)、「顧問税理士や顧問弁護士」(36.6%)と続いている。これは、M&A支援会社の数が増え、アドバイザーが積極的に譲渡案件を提案しているためと考えられる。

 

また、昨年度と比べて大きく回答数を増やした回答が、「M&Aマッチングサイト」の14.9%(同11.5ポイント増)である。譲渡を検討する企業がM&Aマッチングサイトに情報を掲載するケースが増えたことで、M&Aの情報をインターネット上で得る手法が広がりつつあることが見て取れる。

 

譲受側が買収を検討する際の相談相手と情報収集の方法

 

自社の役員に相談する割合も増えたが、譲受側が買収の意思決定をする場合、あるいは買収後に譲渡企業の経営を任せる人材を選ぶ場合には、自社の役員の力を借りることが多いためと推察できる。

 

顧問税理士や顧問弁護士も重要なパートナーである。士業の専門分野によってアドバイスの方向性は異なるものの、買収の際には、財務・税務、法務、労務など、相手方の企業について専門的見地からの分析が必須となる。ただし、顧問の士業が全員M&Aに詳しいかというとそうではないケースもあるため、譲受企業は「この分野はこの専門家に相談する」という、相談内容ごとの相談相手を見つけることをお勧めする。

 

M&Aの実行に当たり、譲渡側には自社の強みの整理が、譲受側にはM&A戦略の構築や経営者人材の育成システムの構築が必要である。また、譲渡側は譲受側の準備状況に関心がある。譲受側は、譲渡側から選ばれる企業になるべく、スピード感をもって準備に取り掛かることがM&A成功の近道である。

 

 

【調査概要】
調査名称:2023年度 M&A・事業承継に関するアンケート調査
調査主体:株式会社タナベコンサルティング
調査手法:インターネットによるアンケート調査
調査対象: 全国の企業経営者、役員、経営幹部、経営企画部責任者・M&A担当者など299件(有効回答数)
調査期間:2023年6月5日~19日

 


 

「2023年度 M&A・事業承継に関するアンケートREPORT」の全体版は、こちらから無料ダウンロードいただけます。

 

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